16
仙堂と三田村が飛び出して行って、実況見分の場は騒然となった。
「一旦、中止だ!」
車外が騒がしくなる中、寺田は車のキーを握りしめた。車内からドアを閉めて、ロックしてしまうと、寺田は隠し持っていたナイフを吉野に向けた。ドアが外側から叩かれる。
「おい、寺田! なにしてる!」
瀬古の声がくぐもって聞こえる。
「英梨花さんを殺したのか?」
正気を失った瞳が揺れる。吉野が馬鹿にしたような笑いを浮かべて、運転席を顎で示した。
「ほら、早く出せよ」
寺田の右の拳が吉野の左頬を直撃すると、彼の身体が座席から滑り落ちる。
「英梨花さんを殺したのか?!」
ドアの外から声。
「寺田、開けろ!」
吉野は座席の間の狭い床に仰向けになって寺田を見上げていた……満面の笑みで。その笑みが取調室でのあの光景を如実に蘇らせた。
「お前が殺した」
吉野の光のない瞳が寺田の心のど真ん中を撃ち抜いた。その言葉で、寺田は我を失ってしまったのだ。
寺田の鼻腔に微かな血の臭いが届く。吉野の口の端が赤く濡れていた。寺田の目の中から光が失われて、その瞬間に、ナイフの切っ先が吉野の腹に突き刺さった。
「あはははは!!」
狂ったような笑いが吉野の大きな口から溢れ出す。寺田は汗だくになりながら何度も何度もナイフを振り下ろした。吉野は笑い声を上げながら咳き込んで、血の泡を口の端から流しながら、最後の笑い声を上げた後、小さく息を吸い込んで、そのまま息絶えた。
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