2
仙堂は昨夜のようにウロウロと歩き回る。
「吉野は母親を亡くした。その原因が俺にあると思ってる。だから、俺の周囲の人間を手に掛けようとしているのか……?」
「吉野は仙堂さんを苦しめようとしていると思います」
鶴巻が険しい表情で結論づける。寺田は自分に言い聞かせるように後に続く。
「被害者を仙堂さんの知り合いから選んでいるのも、それが原因だ」
「でも、それは金蘭倶楽部のメンバーじゃない」三田村が仙堂に詰め寄る。「他に親しくしている人は?」
「警察学校の同期、学生時代からの友人、英梨花の実家関係、英梨花の友人関係……挙げればキリがない。だが、連絡がつく分だけは確認してみよう」
仙堂はデスクに向かってスマホとパソコンを並べて作業を開始した。
「これで空振りなら、一課の進捗に賭けるしかなくなる」
寺田は歯軋りする。宇和島が自分のデスクからパソコンのモニター越しにこちらを見る。彼女は昨夜の取り調べの様子を記録した映像を観ていたようだった。
「一個、気になることがあるんですけど」
「勿体ぶらずに言え」
寺田がぶっきらぼうに促す。
「吉野が暴れた時、シュージさんと斎くんで押さえつけたじゃないですか。その後に、鶴巻さんが部屋に入って行ったところで、吉野が『あんたか、鶴巻ってのは』って言うんですよ」
寺田は頭を掻き毟った。奥で電話を掛けている仙堂の姿をチラリと盗み見る。
「それがどうかしたのか。そんなことはみんな知ってる」
「『あんたか』ってことは、鶴巻さんのこと知らなかったってことじゃないですか。吉野は私の顔も知らなかった。じゃあ、なんで、シュージさんと斎くんのことは、鶴巻さんなのか確認しなかったんだろうって思っただけなんすけどね」
寺田は思わず三田村と顔を見合わせた。三田村は苦笑いした。
「ええと、どういうこと?」
「だーかーらー」宇和島が面倒臭そうに声を上げる。「シュージさんと斎くんに『あんたか、鶴巻ってのは』って言わなかったのは、二人のこと知ってたんじゃないかなって」
寺田の全身が粟立つ。恐ろしい想像が彼の頭の中を駆け巡ると、三田村のもとに駆け寄った。
「俺たちも周囲の人間に安否確認するしかない」
宇和島が慌てたように腰を浮かす。
「え、待って。ちょっと思っただけだから、間違ってるかもしんないっすよ……」
「それでもいい。今はやるべきことをやるしかない」
そう言って寺田は自分のデスクに走る。三田村もそれに倣うようにして、スマホを耳に当てた。
「やべえこと言っちゃった?」
顔を引きつらせる宇和島に鶴巻が微笑みかける。
「そんなことないよ」
仙堂が立ち上がる。
「寺田、三田村。俺たちの何人かで共通の知り合いがいるかもしれない。その人物を中心に確認しよう。奴の狙いに俺が関係していない人間がいるとは思えない」
仙堂が寺田の席に向かうと、三田村も近づいてきて、三人で膝を突き合わせる。
「俺たちの共通の知り合いなら、警察関係くらいしかないだろう」
しばらくそれぞれの連絡先を照らし合わせるが、三人の共通の知り合いはなかなか見つからない。仙堂は何かに気づいたように鶴巻を見た。彼女を手招くと、仙堂は言う。
「吉野は鶴巻という名前の人間が女性であることは知っていたのかもしれない。だから、二人が鶴巻でないことが分かっていた」
鶴巻が目を見開く。
「私のまわりの人も危ないと言うんですか?」
「その可能性はある」
四人が集まって言葉を交わすのを、宇和島は遠巻きに眺めていた。彼女のパソコンの画面には、仙堂の名前をキーにして表示した捜査資料が表示されていた。
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