6
「ただ、ひとつ聞いてほしいことがある」
仙堂は寺田と鶴巻と宇和島を前に、神妙な面持ちで口を開いた。
「最初の事件の被害者である島原さんとも、群馬の山中で発見された倉敷さんとも、俺は面識があった」
「どういうことですか? 今までそんなこと言ってなかったじゃないですか」
困惑の表情を浮かべて寺田が詰め寄る。
「確証が持てなかった。だから、言わなかった。あの二人は、俺も所属している金蘭倶楽部という社交クラブの一員だったんだ」
「ここで話すっていうことは、確証が得られたってことですか?」
「吉野の言葉が本当なら、次の犠牲者も金蘭倶楽部の一員から出るかもしれないと思っただけだ」
鶴巻は微かな希望に目を輝かせた。
「じゃあ、金蘭倶楽部のメンバーを調べていけば、次の犠牲者を救い出すことができるかもしれませんね」
寺田も興奮を隠し切れずに早口で続く。
「金蘭倶楽部の規模は? 一課に話を通さないと……」
「いや、その必要はない。金蘭倶楽部は亡くなった二人と俺を含めて、全部で九人しかない。つまり、残り六人を調べれば済む」
「ですけど、仙堂さん、一課に話を通した方が……」
眉尻を下げて鶴巻が先を続けようとするのを、仙堂は制した。
「感情的になっている一課に細々と説明をしている暇はない。六人のリストはお前たちに渡す。すぐに調査を始めてほしい」
そう言って、仙堂は自分のデスクに向かった。
「仙堂さん」宇和島が自分のデスクから声を掛ける。「吉野の事件現場に次の事件のヒントがあるかなと思ってるんですけど」
「何か見つかったのか?」
「いや、これからやるところで」
「じゃあ、それはお前に任せる。金蘭倶楽部のメンバーは俺と寺田と鶴巻が分担して調べる。何か見つけたらすぐに報告してくれ」
「かしこまりました~」
宇和島は椅子を回してパソコンの前に戻っていった。仙堂はすぐに作成した金蘭倶楽部のリストをOCASのメンバーに共有した。
「三田村には僕から説明しておきます」
寺田がそう言うと、仙堂はうなずいた。
「リストを確認してくれ。俺は
「なんかすごそうな集まり……」
宇和島がリストを眺めながら、目を白黒させている。タブレットの画面では、厚労省の官僚や日弁連といった文字が踊っていた。
「まずは彼らの安否確認。確認ができない場合は失踪届が出ていないかなど調べてくれ。時間が少ないかもしれない。急いでくれ」
仙堂が腕時計に目を落とす。時刻はすでに午後三時を回っている。彼はすぐに椅子からコートを引っ張り上げて、部屋を出て行った。それに倣うように寺田と鶴巻も準備を整える。
「あんなに焦ってる仙堂さん初めて見たわ」
宇和島が呑気に感想を漏らすと、寺田は鋭い目を向けた。
「当たり前だろ。吉野の言っていることが本当なら、次の犠牲者を助けられるかもしれないんだから」
「行ってきます」
鶴巻がコートを羽織りながら部屋を出て行く。
「いってらっしゃい。気をつけてね~」
宇和島が手を振る。寺田もコートに袖を通す。
「俺ももう出るが、もし一課の連中がやって来たら適当にあしらっておいてくれ」
「ええ~……、私にできるかな」
寺田は悪戯っぽく笑った。
「もしそうなったら、どうせ対応せざるを得ないんだ」
「やだなぁ……」
「行ってくる」
「いってらっさ~い」
部屋に一人になった宇和島は仙堂が共有してきた金蘭倶楽部のメンバーリストに目を通した。
仙堂が担当するクラブメンバーの一人、重松はジャーナリストだ。ワシントン・ポストの編集スタッフとしての経歴もあるようで、現在はコンサルとして大手出版社や新聞社と手を結んでいる。もう一人の忍成は、元警察庁の官僚で、現在は埼玉で趣味が高じてサバイバルゲーム関連の会社を経営している。
寺田の調査対象になっている須崎は旅行代理店に勤めている。倶楽部の活動では、彼が様々なプランを練っていたようだ。もう一人の戸倉は日弁連の事務機構に所属している。
鶴巻が確認を行うのは、橋爪と畑島の二人。橋爪は都内の貿易会社の経営者で、畑島は厚生労働省の官僚だ。
これに仙堂と島原と倉敷が加わって全メンバーとなる。
宇和島はこの不思議な面子に一人で首を傾げた。年齢がバラバラで、どういった経緯で結成されたのかは不明だ。宇和島が自分の仕事に戻ろうとパソコンに向き合った時、部屋の入口に寺田が現れた。
「あ、忘れ物っすかぁ~?」
宇和島がにやけていると、寺田は真っ直ぐに宇和島のもとにやって来た。その真剣な表情に宇和島は思わず身構えた。
「宇和島、もし時間があったら調べておいてほしいことがある」
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