5
「パパぁ、サンタさん来てくれる~?」
「来てくれるよ」
駆け寄ってきたさくらに仙堂がスーツを脱ぎながら微笑みかけると、さくらは難しそうな顔をした。
「なんで~?」
「なんでって……、さくらが良い子にしてたからだよ」
「じゃあ、マコのとこにはサンタさん来ない?」
「誰?」
さくらに手を引かれてダイニングに向かうと、テーブルの上にはチキンやシチュー、サラダなどが豪華に並べられていた。テーブルの隅には小さいクリスマスツリーが立っている。
「パパ待ってたんだよ」
さくらが得意げに胸を張る。壁に掛かった時計は午後八時を過ぎていた。少し遅いディナーだ。仙堂は英梨花に目をやった。
「先にやっててよかったのに」
「さくらが待つって言うから」
仙堂はさくらを見つめた。
「悪いな、さくら」
「いいってことよ!」
さくらはそう言って満面の笑みを浮かべた。
***
夕食を終えて、ケーキの時間も過ぎると、さくらはこたつに入りながらテレビを見つめてうつらうつらとし始めた。
「マコって誰?」
唐突に問われて、英梨花は顔をしかめた。
「なに、急に?」
「悪い子らしい。マコのところにはサンタは来ないのかと言われた」
「ああ、ドラマに出てくるのよ、そういういじめっ子が」
仙堂はさくらのそばに近づいて、彼女をこたつから引っ張り出すと、抱っこをして寝室に連れて行った。リビングに戻ってくると、英梨花が余ったシャンパンのボトルを手にしていた。
「OCASはカレンダー通りなんでしょ?」
グラスを片手に腰を下ろす仙堂は複雑な表情だ。
「不思議な感覚だよ。これでも刑事ではあるんだからな」
「ほぼホワイトカラーだもんね」
仙堂は早速スマホを取り出して、木片の写真を表示した画面を英梨花に差し出した。
「これ、なんだか分かるか? 八日の事件と先日群馬で起きた事件の二つに共通しているんだ」
英梨花はじっと画面を覗き込んでいる。人差し指と中指で画面をピンチアウトして画像を拡大すると、やがて言った。
「ルーン文字かな」
「魔法に使うような?」
「そう思われがちだけど、昔使われてた普通の言語だよ。でも、確かに、今は占いとかにもよく使われるね」
「どういう意味があるんだ?」
「八日の事件の木片に刻まれているのは『
「巨人?」
「もとは北欧神話に出てくる霜の巨人のことで、そこから転じて怪物とかいう意味もあるのよ。あとは……炎という意味も」
仙堂は息を飲んだ。
「八日の事件では、火が使われた……」
「北欧神話の巨人の中には、炎の巨人というのもいて、彼らは最終戦争ラグナロクで人間の住む世界を燃やしたの」
「事件の内容を示していたのか……」
「それだけじゃない。木片にルーン文字を刻むというのは、北欧神話に出てくる運命の女神の特徴でもある」
「また運命の女神か」
英梨花はグラスを傾けながら、先を進める。
「群馬の事件の方は『
「セイヨウナシ……蹲った被害者の形か?」
「ルーン占いでは、サイコロを入れるカップを意味しているとされていて、偶然とか隠されたものを暴くみたいな意味がある」
「被害者は土に埋められて、犬が掘り当てた」
英梨花の引きつった笑みが、クリスマスツリーの光に照らされる。
「たぶん、犯人はこの木片に事件の意味を込めているんだよ」
「犯人はそうやって警察をおちょくろうとしているのか」
「犯人は試しているんだと思う。自分が込めた意味が解読できるのか、って」
重い空気が漂い始めるのを察知してか、英梨花は立ち上がってキッチンのシンクに向かった。スポンジを手に取って食器用洗剤を手に取る。
「土曜日にさ」彼女は食器を洗いながら言う。「皐月ちゃんと会おうかっていう話してたの」
「そうなのか」
仙堂は上の空で返事をする。その手の中、スマホの画面に、レストランで英梨花が撮ったあの写真が表示されている。
「さくらのことお願いしてもいいかな?」
「問題ないよ」
「よかった。お昼食べて、ちょっと買い物でもしようかなって話してたのよ」
「ゆっくりして来たらいい」
仙堂の瞳に男の笑顔が映り込んでいる。群馬の事件の被害者、倉敷だった。
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