2
「いや、それはおかしい」
仙堂はきっぱりと言い放った。寺田は眉間に皺を刻んだ。
「なんでです?」
「犯人はあの施設の防犯カメラを用意していた。相当な金額だ。怒りを抱えるような貧困者には難しいことだ」
寺田が前のめりになる。
「犯人にとって、一世一代の大勝負だったのかもしれないじゃないですか!」
鶴巻が慌てて寺田の腕に手を伸ばそうとした時、部屋の入口の方から声がした。
「議論が白熱しているところお邪魔するよ」
関永だった。一同が立ち上がる。座ったままだった宇和島の腕を三田村が引っ張り上げる。
「異常犯罪の整理は進んでいるか?」
関永が問いかけると、宇和島が気の抜けたような返事をする。
「ぼちぼちですな」
三田村が黙って宇和島の頭を引っ叩く。関永は意に介さないようで、小さく笑った。
「ひとつ、事件の報せが入った。さっき君たち宛てに資料を送ったんだが、見てもらえるか?」
鶴巻が自分のデスクに舞い戻って、パソコンを操作する。部屋の隅に置いたモニターに彼女のパソコン画面が表示された。彼女はそのまま画面の情報を読み上げる。
「殺人・死体遺棄事件。遺体発見は三日前の十二月二十一日。現場は……群馬県?」
「そうだ。被害者の遺体は群馬県の山中で発見された。被害者は都内で古物商を営む
「なぜ群馬県の事件を?」
仙堂が尋ねると、関永はそばの椅子に腰かけて、OCASメンバーたちにも座るように促した。
「被害者は猟銃に使われるライフル銃で銃撃されて殺害された。その遺体は蹲った状態で地中八十センチの深さに埋められていた」
「どこかで撃たれてここに遺棄されたということですか?」
モニターに表示された現場の写真を見て、三田村が声を上げる。土が薄くなった場所に人間の側頭部が見えている。写真は枚数を追うごとに遺体が露わになっていく様子が記録されていた。
「いや、そうではない」関永が画面を見ながら答えた。「被害者は蹲った状態で地中に埋められたところを六度銃撃されて死亡した」
「生き埋めにされてから射殺されたということですか?」
耳を疑うように寺田の顔が引きつった。
「うん。そばには穴を掘ったスコップが放り出されていて、どうやら被害者自らが穴を掘ったらしい」
「まさに墓穴を掘るってやつじゃん」
宇和島が軽口を叩いて寺田に睨みつけられるが、関永はそんな彼女を面白そうに指さした。
「まさにそうなんだよ。現場は林道から数十メートル逸れた場所で、凶器の銃もスコップのそばに転がっていた」
「どういう経緯で発見されたんですか?」
仙堂が訊くと、関永は言う。
「そばの林道で犬を散歩させていた男性が見つけた。散歩中、林道に車が停まっていて不審に思ったそうだが、犬があまりに吠えるのでついていくと、紡錘が落ちていて、犬が穴を掘り始めた。そこで、遺体を発見したというわけだ」
「紡錘……」
つぶやく仙堂の眼前に関永の人差し指が突きつけられる。
「八日に起きた事件の被害者の胃の中から検出された例の本の一ページ」
「え、繋がってんの……?」
宇和島が思わず立ち上がって、モニターに映し出された土に汚れた紡錘を見つめた。
「それだけじゃない。現場の地面にはもうひとつ、これが落ちていた」
鶴巻が写真を次に送ると、これもまた土に汚れた木片を撮影した写真が現れる。木片の表面にはナイフで刻んだマークがある。今回のものは側面がひしゃげた鍋のような形をしている。OCASメンバーが言葉を失う中、仙堂が口を開いた。
「全国の事件からどうやってこれを探し出したんですか?」
「これを探したわけじゃない。異常な殺害方法を選び出した中に、たまたまこれが見つかっただけなんだ。八日の事件と今回の事件は、これから広域捜査に切り替わる。群馬県警は被害者の交友関係や凶器となったライフル銃をもとに捜査を進めている。一課では、共同捜査本部を置いて、八日の事件を追うと共に、群馬県の事件捜査のサポートも行う」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます