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 二人の乗った車は、都内にある目的地の企業に到着。応接室に通された二人は、事件当時に防犯カメラの入れ替え作業に携わっていた担当者・佐々木洋治ささきようじと対面する。

「ええと、どういったご用件で? お話しできることはしたと思うんですが」

 佐々木は戸惑いを隠すことなく、真っ直ぐと二人に視線を投げかける。仙堂が鋭い眼光を返す。

「十二月八日のお昼頃にラ・ポーズの防犯カメラの入れ替え作業を行っていましたよね。その入れ替え作業について教えていただきたいんです」

「入れ替え作業ですか?」佐々木は目を丸くした。「通常の作業と同じで、古くなったカメラを外して、ケーブルごと入れ替える作業ですよ」

 三田村が目を細める。

「古くなった? 故障したというわけじゃなく?」

「いや、故障していたかもしれませんがね」

 的を射ない回答に、仙堂は探りを入れていく。

「なぜ防犯カメラの入れ替えを? 普通であれば、修理などの依頼があって行うものですよね」

「ウチは設置業務を請け負っているんで、設置の依頼があって現場で作業するんです。あの施設は定期的に防犯カメラの入れ替えがありますから、今回もその定期入れ替えです」

「故障していないのに、丸ごと入れ替えるんですか?」

 三田村が驚いて声を上げると、佐々木は不思議そうに首を傾げた。

「防犯カメラはいつ機能しなくなるか分かりません。そのリスクを軽減するために、定期的な入れ替えをするんですよ」

 仙堂は顎をさすった。そういった話は聞いたことがなかったのだ。三田村も不審そうに佐々木を見つめた。

「その入れ替え作業の影響で、今回の事件の犯人は防犯カメラに捉えられなかった……」

「それはこちらに非はありません!」佐々木は不服そうに眉を吊り上げた。「新しい防犯カメラを現場に搬入するのが遅れたんです」

「入れ替え作業の際に防犯カメラを持って行かなかったんですか?」

「先ほども言いましたが、ウチは設置業務を請け負っているんです。防犯カメラは、ジャパン・キーパーという会社の在庫を彼らが持ってくる手筈だったんです」

 三田村は思わず苦笑いしてしまった。

「ちょっと待って下さい。そのジャパン・キーパーという会社が設置もしているわけじゃないんですか?」

「彼らは施設ごとに契約を結んで、関係会社の防犯カメラを安く仕入れて、我々に設置を回してくれるんです。分かるでしょう? そういう持ちつ持たれつの関係があるということは」

「今回はそのジャパン・キーパーがミスをしたと? なぜ彼らは遅れたんです?」

 三田村は直感に従って追及の手を伸ばしていく。

「分かりませんよ。先方は指定の時間通りに、と言っていましたが、実際は二時間遅れてやってきました。その時にはすでに警察やら消防やら野次馬でごった返していましたよ」

 三田村は隣の仙堂に顔を向けた。

「仙堂さん、これって……」

 仙堂は佐々木に向かって顔を突き出した。そして、有無を言わさぬ様子で言う。

「そのジャパン・キーパーの担当者について教えて下さい。今回の件のメールなどのやり取りがあると思いますが」

 佐々木はすぐに立ち上がった。

「ちょっとお待ち下さい。パソコンを取ってきます」

 一分後にノートパソコンを抱えて入って来た佐々木は仙堂たちに画面を向けてテーブルの上に置いた。

「この村橋むらはしというのが今回の担当者です」

 仙堂は画面に目をやる。今回のラ・ポーズの防犯カメラ入れ替えについてのスケジュール調整が行われている様子が分かる。

「さきほど、防犯カメラの入れ替えは定期的にやっていると仰いましたね。前回はいつですか?」

「ええと……」佐々木はパソコンを操作する。「二年前ですね」

 三田村の甲高い声が飛ぶ。

「二年前? 映像を保存してるハードディスクでもまだ寿命には時間がありますよ」

「でも、前回の日付はそうなってますので……」

 話が横道に逸れるのを避けるためなのか、仙堂はパソコンの画面を指さした。

「さきほどの村橋という人間の連絡先を控えても?」

「どうぞ」

 そう言って佐々木は村橋のメールを表示させた。仙堂が怪訝な声を漏らす。

「電話番号は携帯電話だけですか?」

 メールの末尾に書かれた署名には、会社名や部署名、住所などと共に携帯電話の番号のみが記されていた。佐々木は顔を歪める。慌ててパソコンをいじり出す。

「いや、他のメールにはちゃんと……。あれ?」

「どうしました?」

「いや、この村橋って担当者だけ携帯電話だけだな……」

「電話でのやり取りは?」

「二、三回」

「あなたがやり取りを?」

「そうです」

「失礼」

 仙堂は画面に目を凝らしてスマホに番号を入力していく。その場で電話をかけた。しばらくして、仙堂はスマホを耳元から話すことになる。

「どうしたんですか?」

 三田村が心配げに見つめると、仙堂は答えた。

「この番号はもう使われていない。佐々木さん、ジャパン・キーパーの電話番号を教えて下さい」

「こちらです」

 佐々木は別のメールの署名を見せた。そこには、会社の固定電話の番号がきちんと記されていた。仙堂は逸る指でスマホを操作して、電話をかけた。電話の向こうとの短いやり取りを終えた仙堂がつぶやく。

「ジャパン・キーパーに村橋という人間は存在しない」

「ええっ?!」間抜けな声を上げたのは、当事者であるはずの佐々木だった。「そんなはずありませんよ。だって、防犯カメラはちゃんと彼が……」

「村橋?」

「そうです。彼が持ってきましたよ。簡単な説明を受けて……。それに、施設の担当者にも今回の入れ替え作業の話は通っていますし……。ええと、一体何が起こってるんです?」

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