7
仙堂と三田村は寺田たちと別れて、路上に止めたバンまで歩いて行く。
「しかし、そんなことありますかね? 偶然を味方につけたなんて」
運転席のドアを開ける三田村が疑問を口にする。仙堂も助手席に乗り込みながら応じる。その表情はどこか柔らかい。
「そんなことはあり得ないと?」
「そういうわけじゃないですけど、昔、ドラマで観ましたよ。『偶然が重なっていいのは二回まで。三回以上は何かある』って」
「鋭いじゃないか」
「だって、そうでしょう。犯人はたまたま通りの向こうの防犯カメラが捉えられない場所にやって来て、たまたま誰もいない中庭で、たまたま防犯カメラが止まっているタイミングで最後の仕上げをしたんです」
「そんな可能性はないと言いたいわけか」
「あり得ないわけじゃないでしょうけど、偶然が三つも重なってる。だから、防犯カメラの入れ替えをした会社に行くんでしょう?」
仙堂は愉快そうに笑った。
「まあ、そういうことにしておこう」
三田村がエンジンを入れて、バンは走り出した。しばらく走ると、三田村は思い出したように口を開いた。
「四つ目の偶然は、樹のオブジェがあったことですかね」
「鶴巻によれば、犯人はあれが設置されるのを見越してあの場所を選んだらしい」
「はあ、なるほど。犯人はどうやってそんなものが出来上がってるって知ったんでしょうかね?」
仙堂はタブレットを操作して、捜査一課の聴取記録を閲覧した。
「なんでも、設置の一か月前から、あの施設が告知していたらしい。完成予想図もある」
三田村のそばにタブレットを差し出すと、三田村はそれを一瞥して、小さく頭を下げた。
「そいつを見て、犯人はあの場所を選んだわけですね」
仙堂はそのまま聴取記録を読み進めていった。
「オブジェを制作・設置した会社によれば、あの施設でのオブジェ展示はよくあったらしい。施設の運営会社の社長と制作会社の社長が懇意だとか」
「世の中、何でもコネですね」
社会に対する不満をつぶやいて、三田村はハンドルを切る。隣の仙堂が難しい顔をしているのに気づいて、三田村は思わず言い訳をした。
「すんません。別に何か文句を言いたいわけじゃ──」
「いや、そうじゃない。この聴取によれば、あの樹のオブジェは外部のアーティストによる持ち込みの企画だったらしい。直接会社にやって来て、売り込みをしていったようだ。で、制作会社側がそれを気に入って、今回の設置まで至った」
そこまで言って黙りこくる仙堂に、三田村は首を傾げた。
「ええと、それが何か? そういうこともあるんじゃないですか。売れないアーティストも営業活動くらいするでしょうし……」
「四つ目の偶然だぞ、三田村」
「えっ?」
「犯人は樹のオブジェがあることを見越してあの場所を選んだが、元を辿れば、その企画自体が偶然によってもたらされたものだった」
仙堂はスマホを取り出して、寺田に電話をかけた。
「すまないが、鶴巻と二人で例のオブジェの制作会社に行って話を聞いてきてくれないか。……いや、それは後でいい。少し気になることがあってな」
仙堂は今しがた話した内容を伝えて、オブジェ設置計画の詳細を訊くように指示した。電話を切った仙堂に三田村は問いを投げかけずにはいられなかった。
「でも、仙堂さん、ということは、どういうことです? 誰かが何かを仕掛けようとしたってことですか?」
「まだ分からんし、見当違いのことを気にしているかもしれない。だが、そっちの線がないなら、早めに潰しておくに越したことはない」
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