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「犯人から俺たちへのメッセージに違いない」
仙堂が強く言い放つ。すかさず寺田が目を光らせる。
「そう思う根拠は?」
「胃の中は解剖しなければ見ることはできない。解剖するのは警察側の人間だ。だから、犯人は俺たちにあの絵を使って何かを伝えようとしている。……ちょっと宇和島たちの様子を見に行ってくる」
仙堂はそう言って足早に行ってしまった。鶴巻はその背中と寺田の横顔とを盗み見て、バツが悪そうに小さく咳払いをした。
「バチバチじゃないですか」
「そうかな」
「そうじゃないならいいんですけど」
「筋道だった論理でないなら間違いも起こる。それを正そうとしてるだけだよ」
「そうですね」
寺田はタブレットから目を話して、白い空を見上げた。上空で風が唸って轟々という音が地上に降りてくる。
「俺たちはこの事件を解決する必要はない。ただデータを集めるだけだ」
「コンセプトはそうですけど、事件の捜査も含まれていますよ」
寺田は何かを逡巡した後、鶴巻とは目を合わせずに言った。
「俺たちはなぜOCASメンバーに選ばれたんだと思う?」
「分かりません。そういう内示だっただけです」
淡白に答える鶴巻に、寺田は取り繕うように歯を見せた。
「まあ、いいや。お互いに今やるべきことをやればいいさ」
含みのある言葉を口にする寺田を鶴巻はじっと見つめていたが、やがて向こうから仙堂が戻ってくるのが見えて、そちらの方に顔を向けた。仙堂の隣には三田村の姿もある。
「宇和島はまだまだ時間がかかりそうだ。二人はこの施設内で犯行当時のデータを収集してくれ」
「もう鑑識が根こそぎ調べて回った後ですよ」
寺田が返すと、仙堂は首を振る。
「鑑識が収集するのは事件に直接関係するものだけだ。君たちは、それ以外のものを探して収集してほしい」
「例えばなんです?」
「なんでもいい。例えば……」仙堂は周囲を見渡す。少し離れた壁にWi‐Fiマークを見つけると、それを指さした。「フリーWi‐Fiの接続記録でも、施設内の人間の行動状況でも、当時流れていた音楽でも、なんでもいい。犯行当時の株価変動でもいい。当時の状況を詳細に再現できるものなら何でも」
寺田と鶴巻は微かに疑問を抱きながらお互いの顔を見合わせた。
「仙堂さんは?」
「俺はこれから三田村と防犯カメラの入れ替え作業を行った会社に話を聞きに行く」
「なぜですか?」
「君は、犯人は偶然を味方につけたとさっき言ったな。その偶然を構成する要素を確認しに行く」
寺田は渋々うなずく。
「宇和島さんはどうします?」
「ああ、あいつは……、一人で大丈夫だろう」
鶴巻の物言いたげな眼が三田村に注がれる。
「俺は暇してたわけじゃねえぞ」
「いや、なにも言ってないんですけどね」
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