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 仙堂はタブレットを片手に、文化商業施設の敷地内へ踏み込んでいく。「ラ・ポーズ」は小規模な施設だが、音楽系や学習系などの教室の他にも、エステサロンやクリニックなどが入っている。建物は三階建てで、それが広い中庭を取り囲むように都会の中心に座り込むようにしてある。中庭に面している壁面はいずれもガラス張りで、その向こうの通路が見える。四方を壁に囲まれているが、開放感があるのはそのためだろう。中庭は都会の喧騒とは隔たれていた。

「は~、寒っ」

 宇和島が白い息を吐き出すと、隣で三田村が愉快そうに頬を緩ませた。

「筋肉が足りないんだよ」

「筋肉なんて無駄にエネルギーを消費する器官だよ」

 宇和島に一蹴されて、三田村は思わず鶴巻に助けを求めるような視線を送った。鶴巻は知らない振りをする。

「宇和島」先頭を行く仙堂が振り返らずに名を呼ぶと、宇和島は飛び跳ねるように返事をした。「あの中庭の中央にスキャナーを置けばデータ取れるか?」

「そうっすね。余裕ですね」

「この周辺全体をスキャンするにはどれくらいかかる?」

 宇和島は抱えていたタブレットに周辺マップを表示させた。

「欲を言えば、この街全体をスキャンしたいんっすけどね……」

「とりあえず、今はこのブロックだけでいい」

「だったら……、二時間弱くらいかかるかもしれないっす」

「じゃあ、早速頼む。体力が要るだろうから、三田村、手伝ってやれ」

 宇和島が露骨に顔をしかめるが、三田村は得意げな顔で寺田からジュラルミンケースを受け取ると、大股歩きで中庭の中央に向かっていった。

「ねえ、精密機械だから赤ちゃんを扱うようにしてよ」

「俺、赤ちゃん居ねえから分からねえわ」

「いや、居なくても分かるでしょ」

 遠ざかっていく二人を横目に、寺田は身軽になった手に持ったタブレットに目を通す。

「ずっと言っていますけど、何をもって異常とするのか、その定義を決めるべきかと思います。このままじゃ、ただの一課の便利屋です」

「そういう意味では、今回はうってつけの案件だと思いますよ」

 鶴巻がそう言いながら、中庭の一角、広いスペースに歩みを進めた。ここは、イベントなどが開催される場合にステージのように使われることがある。しかし、このスペースの周囲には等間隔にパイロンが並べられ、コーンバーが行く手を阻んでいた。そのコーンバーには「補修工事のため立ち入り禁止」と書かれた札が下がっている。スペースの中央の地面が黒焦げになっているのが見える。

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