第一章 運命の女神

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「もうちょっと広々とした車なかったんですかね」

 三田村斎みたむらいつきがその大きな身体をめいっぱい伸ばして、今しがた降りてきたバンに目をやった。味気ないネイビーのバンの横っ腹には、遊び心のないフォントで白く「OCAS」と書かれている。

「我慢して下さいよ。まだ小さいチームなんですから」

 三田村を諫めながら運転席から地面に足を伸ばすのは、長い黒髪をポニーテールにした眼鏡の女性──鶴巻蓮つるまきれんだ。バンと同じような色合いのナイロン素材のジャンパーに袖を通している。その左胸と背中にも「OCAS」の文字。

「ねえ、ごめん! 機材運ぶの手伝って!」

 バンの後方から小柄で青い髪をした女性が声を上げた。

「任せろ」

 三田村がニコリと歯を見せて、青髪の女性に近づくが、彼女はこれ見よがしに表情を曇らせる。

「え、斎くんガサツだから嫌なんだけど」

「そりゃねえだろ、宇和島……」

 宇和島皐月うわじまさつきは虫でも追い払うように三田村をあしらって、近づいてきた別の男性に目の前のジュラルミンケースを指し示した。

「シュージさん、お願いしまっす」

 寺田修司てらだしゅうじは小さくうなずいた。

「それが例の?」

「3Dレーザースキャナー」

 寺田はジュラルミンケースに手を置いて、訝しむように宇和島を見つめた。

「本当にこれでこの辺り一帯をデータ化できるのか?」

 宇和島は呆れたような笑いを含ませた。

「シュージさん……技術ってのは日進月歩なんですわ」

 バンのドアが閉じる音がして、最後の一人が現れた。仙堂京介せんどうきょうすけだった。

「すぐに取り掛かるぞ。俺たちには談笑している暇なんかないんだ」

 四人の返事が重なる。仙堂はうなずいて、手にしたタブレットに目を落とした。そのタブレットケースにも「OCAS」の文字が入っている。そして、金色の桜の代紋。

 OCAS──Outlier Crime Analysis Squad(異常犯罪分析班)は、警視庁捜査一課内に新設された捜査班で、通称「オーキャス」と呼ばれている。犯罪が多様化する現代において発生しうる、精神病質者や常識を逸脱した考えによって引き起こされる犯罪への対策を強化する目的で設置された。そういった犯罪のデータ収集や捜査活動を通して、異常犯罪の早期解決や未然防止のための方法論を確立することがOCASの狙いだ。警視庁刑事部のチームではあるが、各都道府県警察本部との連携を行い、捜査体系を模索していくことを期待されている。

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