第3話

 さて3つ目のお話です。

 確か私が60歳位のある日のこと。

 久々にデパートへ買い物に出かけ、帰りの電車に乗り込み、発車を待っていた時、こちら側のドア、あちら側のドアから、ドドッと沢山の人たちが乗り込んで来ました。そして私の横に3人で乗り込んで来た学生の内の1人が、「間に合った」と言いながら、勢いよく座ったのでした。

 あとの2人は前の吊り革に掴まり、学生の前に立っています。

 すぐに3人は話し始めました。

「○○先生のことどう思う?」

「話がさー、長過ぎるんだよ」

「けど俺イヤじゃないけどね。歴史の授業は面白い」

「うんそう。俺もそう思う」

 といった、有りがちな学生トークが続いていた時、立っていた1人が、

「あのさ! 知ってる? △△と亀山さんが付き合ってるの」

「やっぱり? 俺も誰かから聞いた。いつから?」

「つい最近らしい」

「俺知らなかった」

 ここで1つ書いておかねばならないことが、私は決して耳をそばだてていた訳では無く、聞き耳を立てていた訳でも無いことを書き添えておきます。

 話を戻します。

「あいつ亀山さんのこと好きだったんだ」

「うん。そういうことだら」

 そして会話はほんの少し途絶えることに。会話の再開は、私の隣に座っていた学生からでした。

「それで今はどんな感じ?」

 私は今日一興味をそそられました。

「結構良いところまで進んでいるらしい」

「はっ! ほんと?」

「うん。もうすぐ手をつなげるところまできているらしい」

『ピュアだなあ』と私は思いました。ニヤけてくる唇を必死にしめていると「ひゅー」

「本当に? すげー」と会話は続きました。

 若いって良い! 最高! と私は感動してしまったのです。

 あっ、最後に訂正を1つ。先程耳をそばだてていた訳では無く、聞き耳を立てていた訳でも無いと、添え書きをしましたが、現在になってもこれだけハッキリ鮮明に、彼女の名前までも覚えているということは……ごめんなさい。のめり込んで聞いていたに違いありません。

 私は久々にホンワカしたのでした。

 自分が降りる駅を通り過ぎてしまったことに気づくまでは……。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る