第2話

 そして2つ目の話。

 これはとても嬉しかった話です。

 この日は忘れもしない、私の誕生日(41歳)の前日で、電車の時間に間に合うかどうか、慌てて歩幅大きく駅へ続く地下道を歩いていた時のことです。

 数メートル前を、重そうな荷物をいくつも下げて歩く老女が私の目に入りました。

 その老女は手の痛さに耐えられないのか、地面に荷物を置いて腰を伸ばし、また荷物を持つ。それを何度か繰り返していました。

 私は急いでいたせいもあり、あっと言う間に老女に追いついてしまったのです。

 ここからが葛藤の始まりでした。

 声を掛けて手伝う? いや今どき『じゃあお願いします』とは言わないであろう。そうした引っ手繰りも横行している世の中だし。

 すまして通り過ぎる? とその時、老女がまた荷物を地面に置き、腰を伸ばしたのです。

「どちらまで行かれますか? 良かったらお手伝いしましょうか?」と私は声を掛けていました。あんなに葛藤していたのに……

 老女の返事はやはり、

「いいえ、大丈夫です」でした。

 そりゃそうだろうと思いました。

 今時そうそう簡単に人を信じまい。

「そうですか、じゃあお先に」と私は先を急ぎました。

 真っ直ぐの地下道が終わり、私は駅方面へ右に曲がろうとした時、

「お姉さん! ありがとう」と大きな声が聞こえたのです。

 足を止め振り向くと、さっきの老女がしきりに頭を下げてくれていました。

 ものすごく嬉しくなって私も頭を下げ、手を振って駅へと向かいました。

 素敵なおばあちゃんだと思いました。出会えたことに感謝した1日でした。

 追伸…電車には間に合いませんでした。間に合わなかったというか、時刻表を見間違えていました。 お粗末。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る