第3話 入学――③


「ふざけんなっ! こんな理不尽が許されていいのかよ!」


 ヴァーグナー少年は未だに憤懣ふんまんやるかたないようで、夕食を掻っ込みながら拳をテーブルに叩き付けていた。

 スープが零れそうになるので迷惑なのか、隣人たちがまあまあと宥めるのに忙しそう。大変だな、取り巻きってやつも。


 だが、不満や不安を抱えているのはヴァーグナーだけではないようで、この食堂にいる一年生たちは、誰もがひそやかに、友人知人と本日の講堂での担当教師の言葉に対して意見を交わし合っていた。


 結局、その後は何の授業も行われることなく、明日の早朝にロビーへと集合するように言われただけで、入学初日のガイダンスは終了し解散となった。


 コンディションを整えておけと、怪崎かいざき奇壱きいち魔法教諭は、その窪んだ冷たい蒼色の瞳を向けると、あっさり風と共に消えたのだ。


「まぁ、入学初日から退学なんて可能性を突き付けられたんだ。動揺もするよな」

「いきなりだったよねぇ~。魔法学校の授業、楽しみにしてたんだけどなぁ」


 盛り蕎麦を啜る俺の横で、フィッシュアンドチップスを摘まむ陽菜。

 お前そんなの食ったことないだろと言うと、折角なら外国っぽいものを食べたいじゃないと返された。魔法世界ここって外国なの? まぁ、こんなとこでまで和食じゃなくていいだろって言われたらそれもそうなんだけどさぁ。


 陽菜はその言葉通り、入寮してから一週間、世界中の料理を食いまくっている。

 流石は魔法世界というべきか、世界中の魔法情報があるだけでなく、世界中の食事までいつでも提供できるように用意されていた。中には世界中の何処でも食べられないであろう不思議な食材を不可思議な方法で調理したであろう謎の料理まである。正しく魔法料理だ。


 俺も初めは興奮して色々試したが、結局は舌に慣れた日本の食い物が一番おいしいってことに気付いた。前世も込みで刷り込まれた常識ってヤツは魔法の世界でも変えられないらしい。陽菜は世界中の料理を網羅したら、今度は魔法料理にまで手を伸ばすんだろうな。その時には美味そうなものはちょっと分けてもらおう。俺はそれでいいや。無駄な冒険はしない主義だ。


「……実際の所、どう思う?」


 そんなどうでもいいことを考えていると、俺の前でハンバーガーを食らっているレオンが唐突に言った。

 レオンはこんな何でも用意されている食堂で、わざわざ片手でも食えるファーストフードみたいな包み紙のハンバーガーを注文していた。意外とジャンクな食事を好むんだな。どうせ食事はいくらでも無料なんだからいいやつ食えばいいのに。蕎麦啜ってる俺みたいな奴に言われたくないだろうが。いや、この蕎麦めっちゃ美味いから外の世界で食ったら結構な値段しそうだ。いかんな。思考が全然魔法の世界っぽくない。


 実は陽菜がエヴァさんを誘っていたのだ。そのエヴァさんがレオンを逃がさなかったので、俺たち四人はこうして同じテーブルで食事を取ることになっている。


 この食堂は『黄金鳥ゴールドバード寮』の最上階をワンフロアまるまるぶち抜いた大きな食堂で、もはやフードコートみたいな感じのそれだ。


 テーブルに着いて好きな食事を思い浮かべれば、ポンとテーブルの上に出来たてアツアツのそれが出現する。

 魔法というより未来だな、最早。


 陽菜以外の同年代のヤツと食事など、前世を含めても全然覚えがないので若干緊張しているが、そんなことはおくびにも出さずに、ずるずると蕎麦を一口啜ってから「――何がだ?」とレオンに問い返した。


 レオンもまた、バーガーを一口齧ってから「……あの教師の言葉だ」と返してくる。


「本当に、いきなり退学なんて、有り得ると思うか?」

「有り得る有り得ないって話なら――十中八九、有り得ると思うぞ」


 俺はちらりと、少し遠くの席で喚き散らしているヴァーグナーたちを見遣って、再びレオンと目を合わせて言う。


「レオンも感じただろう。俺たち新入生は、致命的に危機感が足りていない」


 俺を含めて殆どの新入生たちは、魔法学校というものが、そういった魔法学府であるということは理解した上で入学をした筈だ。


 とんでもなく入ることが難しく、また卒業するのも難しい。

 卒業出来なかったら退学になり――魔法使いの全てである魔法を失うことになる。


 そういうカリキュラムで、そういう教育方針だと、理解した上で門戸を叩いた筈だ。


 だが、それを知識として知っているか、己が身に起こり得る身近な危機だと実感しているかは大きく異なる。


 っていうか、無理だろ。


 全世界が入学を熱望する学校の新入生に選ばれたばかりという状況の十二才の少年少女に――そんな夢のような成功体験が台無しになるかもしれないという危機感を、入学初日の今この瞬間から抱けなんて無茶振りに決まっている。


 宝くじが当たったばかりなのに、明日からはそれが紙くずになって借金を負うリスクが常にありますなんて言われたって、納得なんて出来ないに決まっているのと同じだ。


 しかし、それを求めるのが魔法学校だということも、また確かであるわけで。


「だからこそ、まず真っ先に見せしめを作るというのは効果的なやり口だ。実際に退学者を出して、お前らも明日にはこうなるかもだぞと脅すのは、育成方針として理にかなっている。だから、宝の数は九九個なんだろう」

「……見せしめというなら、実例はひとりで十分だからな。……だが――」


 レオンは言葉を呑み込むように口ごもる。

 まぁ、確かに、その気持ちは分かる。一名だけとはいえ、その一名に自分が選ばれない可能性はないわけじゃないのだ。


 それに正確に言うならば――実例はひとりとは限らない。

 最低でひとり――最高の結果でひとりというだけの話だ。


「他人の心配より、自分の心配をしたらどう? レオン」


 食事の手を止めて考え込むレオンに、ビーフストロガノフを食べ終わったエヴァさんが言った。一度は食べてみたいよな、ビーフストロガノフ。陽菜も明日はビーフストロガノフにしよって言ってたし。俺は明日はうどんにしよ。ビーフストロガノフ食わねぇのかよ。


「何言って――」

「魔法学校が一筋縄ではいかないってことは分かってたでしょ。そんな学校が退が、ただの『宝探し』な筈がない」


 それはそうだ。

 プールの中におもちゃを投げ込んで潜って取ってきて的な軽いノリである筈がない。先着九九名だからって、九十九個も用意されているからって、その一個を手に入れるのが簡単だとはとても思えない。


 最低でひとり――最高でひとり。


 だが、と、魔法学校が考えていないとは思わない。


「まず考えるべきは、自分たちが第一の試練をちゃんとクリアできるかどうか。学校側の思惑とかは、教育方針とかは、クリアしてから考えればいい。そうでしょ?」

「……ああ」


 分かっているさと、レオンは残りのバーガーを一気に口に放り込むと、そのまま席から立ち上がる。


「どこ行くんだ?」

「決まっているだろう。コンディションを整えるんだ」


 それはサウナに入って整いに行くという意味ではないだろう。ちなみに魔法学校にはサウナも大浴場もある。露天風呂はないが。


 コンディションを整えておけ――あの怪崎先生の言葉の意味は、そのままずばりだ。


 魔法使いとして、己の魔法を万全に使用できるように準備を整えておけ、ということだろう。


 ここで、君はどんな準備をするんだいと問うても、答えてくれる筈もない。お互いにな。


 だから、ここで相手に言うべき言葉は、一つしかないだろう。


「うん! お互い、頑張ろうね! 明日も一緒にごはんを食べよう!」


 俺が口を開く前に、陽菜が満面の笑みで言った。

 いつの間にか追加でビーフストロガノフを出現させている。フィッシュアンドチップスだけじゃ足りなかったのか。明日何食うんだお前。


 まぁ、それは明日の気分で決めればいいだけの話か。


 俺がそんな風に苦笑していると、何も返せないレオンに代わり、同じく食事を既に終えていたエヴァが、優しい微笑みと共に陽菜に言った。


「――ええ。楽しみにしてる。おやすみなさい、陽菜。愛樹」

「……これが最後の晩餐にならないといいな。……お互いに」


 レオンは照れ隠しなのか不穏な捨て台詞を残しながら、許嫁コンビは仲良く食堂を後にした。


 俺も既に食べ終えていたが、陽菜がまだ追加のビーフストロガノフを食べ続けていたので席に残る。


「食べ過ぎて腹壊すなよ」

「大丈夫。こんなのはまだ腹三分目だから」

「そこはせめて八分目とかであれよ……」


 俺は何杯食後のコーヒーを飲めばいいんだと、成長期の少女の胃袋に絶句しながら――ぽつりと呟く。


「――明日、?」

? 魔法学校を舐めているわけじゃないけど、これはあくまでオリエンテーションみたいなものだと思うから」


 陽菜はごろりとした肉塊を口に放り込み、その旨味に悶えた後、あっけらかんと言う。


「楽しみだね、愛樹! 明日は何を食べよっか!?」


 その笑顔を見て、俺は思わず苦笑いを浮かべる。

 さっきの言葉もコイツはレオンやエヴァさんを励ます為とかに言ったわけじゃない。に、コイツだけがまったく気付いていない。


 この主人公様は、このまぶしい笑顔でこれからたくさんの人を救い。


 その余りにもまばゆい才能で――きっと、たくさんの人を絶望させていくのだろう。


 だが――それでいい。


「……明日までにたっぷり考えとけ。ここには何でもあるんだから」


 お前はそのままでいい。


 お前はやりたいようにやれ。


 傲慢に、純粋に、ありのままに生きろ。


 その為に――俺はここにいるんだから。



 



 ◆ ◆ ◆






 そして――夜はあっさりと明けて。

 俺たちは第一の試練の日を迎えた。


 早朝の『黄金鳥ゴールドバード』寮のロビーには、未だ欠ける者はいない――百名の新入生たちが、準備万端の状態で勢揃いしている。


 ローブを着ている者。大きな杖を持つ者。

 背中に剣を背負う者。全身を鎧で覆う者。


 昔ながらの伝統を感じさせる者たちもいれば、石板をタブレットに置き換えるような時代を感じさせる者たちもいる。


 世界中の――あらゆる魔法と魔法使いが集まる、魔法学校。


 その混沌カオスっぷりが、これでもかと現れている光景に目を奪われていると――再びつむじ風が巻き起こる。


 現れたのは、昨日と同じく、真っ黒なスーツに窪んだ蒼色の瞳の不健康そうな男。


「おはよう諸君。朝早くからの仕事で最悪な気分だが、これより第一の試練『宝探し』のルールを説明する」


 前置きもなしに担当教師は、俺たちがメモの準備をする間もなく話し始めた。


「これより諸君らは、『魔法生物の森マジカルフォレスト』へ無作為に転送される」

「ま、『魔法生物の森』だって!?」


 怪崎先生の説明にいきなり声を上げたのは、やはりというかヴァーグナーくんだった。すっかりリアクション要員ね、君。


「馬鹿な!? 魔法生物の森ってあれだろ!? 世界中の魔法生物が集められているっていう、文字通りの魔の森じゃないか! そんなところに放り込まれるっていうのか!」

「その通りだ、ヴァーグナー新入生。昨日も言っただろう。俺に無駄な時間を使わせるな」


 説明の途中で口を挟むなと、怪崎先生はその蒼い瞳でヴァーグナーを睨み付けて黙らせる。


「森の中を探索し、これまた無作為にばら撒かれた『宝玉』を見つけ出して回収する。これが『宝探し』の概要だ。続いて細かいルールについて説明する」


 怪崎先生は、昨日と同じように、掌に金色の球を出現させながら言った。


「お前たちが探すのは、この金色の『宝玉』だ。同じように銀色、黒色の宝玉もエリア内には散布されているが、それらを回収しても試練のクリアとはならないから注意しろ」

「それはつまり、『白銀狼シルバーウルフ』と『黒銅竜ブロンズドラゴン』の生徒たちも、同じ試練を同時に受けているということですか?」

「ヴァーグナー新入生と違っていい質問だ、ボルト新入生。お前の言う通り、『魔法生物の森』を舞台に他の二寮でも同様の試練が行われている。だが、今回に限っては、三寮でスコアを競うという形式ではない。あくまで時間の都合で同時に行っているだけで、それぞれが独立した試練という扱いだ」


 つまりは、学校側としては今日中にそれぞれの寮で退学者を出したいということか。

 怪崎先生の口ぶりだと、本来であれば試練というのは三寮で競い合う、あるいは戦い合う形で行われるのがスタンダードなのかもしれないな。


「だが、此度の試練でも、しっかりと『ポイント』は関わってくる」


 ポイント。

 その単語を聞いた途端、生徒たちの表情が引き締まる。


 昨日のガイダンスを通して、ポイントの重要性は誰もが理解している。

 これから一年間、俺たちは文字通り、死に物狂いでそれを稼いでいかなくてはならないということも。


 誰よりもポイントを稼ぐこと。

 それこそが――世界一の魔法使いの工房への招待券に繋がっている。


「先程も言ったが、今回の試練のクリア条件は『宝玉』を探し出すことだ。これより諸君らに配布するこの『転送水晶』に魔力を流せば、内蔵された術式による魔法が発動し、『魔法生物の森マジカルフォレスト』から再びこの場所ロビーへとすぐさま帰還することが出来る。宝玉を手にした状態で戻って来ることが出来れば、試練をクリアしたと見做す」


 怪崎先生はそう言って、今度は小さな水晶を取り出した。

 入学試験として配布された水晶の機能縮小版だろうか。誰でも汎用的に使用できる転送水晶というだけでも凄まじい代物だが。これも校長先生アーサー・クロウリーの作品だろうか。


「この転送水晶は試験が始まればいつでも使用可能だ。俺を含めた各寮の新入生の担当教師は森の中を一応は巡回しているが、さきほどヴァーグナー新入生が言っていた通り、森の中には危険な魔法生物も多く生息している。我々の救助が間に合う保証もない為、命の危険を感じたらすぐさま発動させるといい。だが、どのような状況における緊急離脱でも、転送時に宝玉を持っていなければ試練には失敗したと見做す。当然だが、一度帰還すれば、もう一度森に戻ることは出来ない。転送術式が使えるのは、ひとつの水晶につき一度だけだ」


 つまり、リタイアは退学に直結するというわけだ。


 見回り先生がいるとはいえ、当然ながら彼らは試練のサポート要員というわけではない。審査員兼レスキュー隊員であるだけだ。


 教師に助けを求めた場合、または求めずとも教師が命の危機と判断して試練に介入した場合は、その時点で教師の方から該当生徒の転送水晶を発動するそうだ。


 無理に意地を張っても、見るに堪えない醜態を晒した場合、その生徒の魔法学校生活スクールライフは終わりを告げるということか。


「そして、さきほど危険性として挙げた『魔法生物の森』に生息している魔法生物たちについてだが、彼らは当然ながら保護の名目で魔法学校が森に放っている、守護まもるべき生命いのちだ。故意に危害を加えることはルールとして禁止する」


 確かに、『魔法生物の森』は本来、魔法生物への住処として魔法学校が提供している場所だ。

 その住処に勝手に足を踏み入れるのは俺たちであって、そんな俺たちが彼らを自分たちの都合で害することなどあってはならない。


 ならそんな場所を試練場所に設定するなとツッコミを入れるのはきっと野暮なのだろう。俺は空気の読める男だ。


 まぁ、真面目な話。この縛りは、宝探しというルールを遵守させるためのものでもあるのだろう。

 極端なことをいえば、森を一気に燃やして障害物を無くせば宝探しなど簡単だと考える奴がいないとも限らない。


 それに、魔法生物を害するのは禁止と言っているが――のもまた、このルールの肝だろうしな。


 そして、ここからが本題。

 此度の『宝探し』にて、新入生がポイントを稼ぐ方法について、怪崎先生は語り出した。


「だが、それでは諸君らも物足りないだろう。教師として、君たちには魔法生物の恐ろしさについても身をもって学んで欲しい。そこで、此度の試練において、本校の魔法生物学の教授と『魔法工学研究室ラボ』の共同作品である『魔法機械生物マジックマシンモンスター』を貸し出していただけることになった」


 めちゃくちゃ科学っぽいの出てきたんですが。

 これは魔法学校としてアリなのか。


「無論だ。無機物に魔法効果を与えた『製品』を生み出すのも『ラボ』の研究テーマの一つだからな」


 そういうものか。まぁ、タブレットとかスマホを魔法具デバイスにしている奴等もいるし今更か。ていうかナチュラルに心の中を読むな。こっち見ないでください。


「これらに関してはいくらでも壊していいと許可を頂いた。むしろデータが集まって助かるとのことだ。存分に魔法生物との模擬戦闘を楽しんで欲しい」


 生きた魔法生物を害することは出来ないが、それを模した機械ならば破壊してもいいということか。


 当然、そんなルールが設定されているなら、その『魔法機械生物マジックマシンモンスター』とやらは、こちらを積極的に襲ってくるんだろうな。


 それらを撃破、あるいは回避しながら、魔法生物ほんものを傷つけないよう配慮しつつ――俺たちは宝を探さなくてはならないわけだ。


 なるほど、面倒くさい。だが――それに見合う報酬はあるのだろう。


 それこそが――『ポイント』か。


「『魔法機械生物』には、元ネタとなった魔法生物の戦闘力に応じて『ポイント』を割り振っている。強い『魔法機械生物』を撃破すれば、それだけ高ポイントを稼げるという仕組みだ」

「誰がどんな『魔法機械生物』をどれだけ倒したというのは、どのように判断するのですか。自己申告ですか?」

「そんなわけがないだろう、サーモンド新入生。各々に配布される転送水晶にきちんと撃破記録が記録されるようになっている。不正は許されない。無論、『宝玉』を獲得していなければ、それまでに獲得したポイントは意味を為さないが――試練をクリアした際、所持している水晶に記録されているポイントは全てが所有者へ加算されることになっている」


 新入生たちが静かに沸き立つ。

 入学早々に退学の危機と聞かされて張り詰めていた表情が僅かに綻んでいた。


 怪崎先生は「質問はあるか。ないな。ないだろう。ならば最後にこれだけは伝えておく」と、試練時間が迫っているのか、それとも単純に質問に答えるのが面倒くさいのか、さっさと締めに入り始めた。


「転送されたら即、試練スタートだ。制限時間タイムリミットは――本日の日没まで」

 

 宝玉を見つけてさっさと試練を終わらせるのも、時間ギリギリまでターゲットを撃破してポイントを稼ぐのも自由。


 完全な日没と同時に水晶は自動的に発動し、所有者を各寮のロビーへ転送させる。

 その時点で宝玉を手にしていなければ――試練失敗と見做され、退学となると、怪崎先生はそう説明を終えた。


「それでは諸君――健闘を祈る」


 なぜか日本式に、怪崎先生はそう新入生を送り出す言葉を述べると。


 途端――水晶が光り輝き出した。


 入学試験の時、俺たちをこの世界へ――『魔法世界』へと招待した、あの時と同じ光でもって。


 俺たちを――新たな世界へ飛ばしていく。






 ◆ ◆ ◆






 気が付けば、俺は樹海ジャングルの中にいた。


 夜は明けている筈なのに、陽の光がまったく差さない――暗く、湿った、森の中。


 魔が潜む森の中に、ひとりぼっちで放り出されていた。


「――これが、魔法生物の森」


 極彩色の瞳の獣が横切った。


 霧の中を泳ぐように鈍色の羽根の鳥が舞って――それを待ち構えていたかのように、巨大な蜥蜴がそれを食らった。


 正しく――魔法の森。


 これが、魔法の世界なのだと、己を獲物と見据える蜥蜴と目を合わせながら、俺は高鳴る鼓動を抑えられなかった。

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