第2話ラブコメは突然に

 教室に戻ると、天明屋あまみやがクラスメイトに囲まれていた。

 そんな天明屋を横目に俺は、彼女の周りにできた人混みをを掻き分けて自分の席に座り、極力影を薄めることに集中する。

 自慢じゃないが、影を薄める能力に関してはワールドクラスだと言っていいだろう。

 そうして影を薄め、誰からも気にされなくなったことを感じ取ると、俺は隣で話されていることを聞くことにする。

「ねぇねぇ天明屋さん!転校する前はどこの学校にいたの??」

「今彼氏とかっているの!?」

 などと、男女問わず多くのクラスメイトから話かけられていた。

 それはそうだろう。天明屋の容姿は誰が見ても美少女と映るほどのものだった。人気が集まるのも無理はない。

「この学校の前は、京都の高校に通っていて、親の仕事の関係で横浜に引っ越すことになったんです」

「へー。それでこの学校に来たんだねー。なんでこの学校を選んだの?」

 積極的に天明屋に話しかけるのは、クラスメイトの三浦みうら明梨あかりだ。学年でも、コミュ力が高いと評判の生徒だ。

「単純に親に勧められたので選びました…。」

 天明屋は少し照れくさそうに言った。

「あはは、何それ!ほんとに単純だね!」

 そう言って、三浦は笑った。

「天明屋さん。いや、もう星那せなって呼ぶね!あと、敬語ももうやめてタメで話そ!」

「はい!ぜひそう呼んでください。あ、呼んで!」

 まだ緊張が解けず、辿々たどたどしい天明屋を見て、三浦は可笑おかしそうに笑った。

「星那、何か分からないことがあったらなんでも私に聞いてね!」

「ほんと!じゃあお願い!」

 おいおい、早速俺の仕事取られちゃったよ。いや良いのか、これで俺の仕事が無くなって楽になる。いやしかし、立花先生に天明屋の世話を頼まれたからな。うん。

「三浦、ちょっと待て。その役目は俺が立花先生から頼まれている」

「あー、そうだっけ?まぁ細かいことはいいじゃん。それに女の子同士の方がいろいろと聞きやすいだろうしさー」

「いやでもな」

「何、星那のこと好きなのぉー?」

 くっ……!このような状況で最も面倒くさい返しをしてきやがった。なんて返す…なんて返す…、くそ!思いつかない…!

「そ、そうじゃねぇよ」

 しまった…。三浦が最も都合が良くなる返しをしてしまった。こうなれば、三浦から返ってくる言葉は大体予想がつく。

「じゃあいいよね」

 話を完全に終わらす言葉、『じゃあいいよね』だ。これを言われると正直返せる言葉などない。

「星那知ってる??ここの食堂のクリームパンめっちゃ美味しいだよー!一緒に買いに行こ!」

「え、あ、うん!」

 そう言って、2人は教室を出ていく。

 出で行く時に天明屋が一瞬こっちを見たが、すぐに廊下に出て行った。 

 

 今日の授業が終わり、時刻は4時頃。

 俺は再提出になっていた自由作文を職員室にいる立花先生の下に持って行っていた。

「立花先生、作文を持ってきました」

「おぅ、早速読もうじゃないか」

「今回のは傑作ですよ」

「それは期待できるな。なになに……」

 そう言い、立花先生は俺の書いた自由作文を読み出す。

『友達作りとは、船作りと同じである。泳いで海に出ることが無理だと感じた人間は、船を作って安全に海に出ようとしたのだ。これと同じように、社会に恐れた人間は友人と手を取り合い、2人なら、みんなとならと、群れることによって安全を保とうとするのだ。その行為に抵抗を覚えた僕は、先生がくれた友人を作る機会を自ら放棄することにした。これは勇気ある決断である。』

 立花先生は俺の作文を読み終わると同時に、俺に腹パンを食らわした。

「うぐぅ……!」

「まぁ随分と舐めたことを書いてくれたじゃないか」

「ハァハァ…、先生に悪いと思い、少しはやってみましたが、僕を遥かに超えるコミュニケーション能力を持つ輩に出会でくわして、全てを飲み込まれました」

「だからと言って、どうしてその出来事からこのようなひねくれた文章を思いつくものかね」

「なかなかの出来だと思ったんですが…」

「まったく。君の作文は呆れて逆に笑えてくるよ。まぁ、今回は特別にこれでOKにしてやろう」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

 そう言ってすぐに立ち去ろうとすると、立花先生に首根っこを掴まれる。

「ただし、次にこのような作文を書いてきたら…、次は腹パン二発だからな」

「はい…」

 そうして俺は、職員室を後にした。


 放課後、俺は妹に頼まれた洗剤を買い、帰路についていた。

 その途中、俺は今日の出来事を思い出していた。

 天明屋が転校してきて、席が隣になり、立花先生に天明屋に学校のことを色々と教えることを頼まれた時、正直面倒くさいと思ったが、内心もしかして俺にもラブコメ展開が待っているんじゃないかと思っていた。

 しかし、その希望は虚しく崩れてしまった。

 俺が内心期待してしまっていたようなことは当たり前のように起こらなかった。

 そりゃそうか。俺はぼっち。あっちは恐らく人気者。関われると思う方がバカだ。

 そんなことを考えてる内に、目の前の曲がり角を曲ると、もう家という場所まで来ていた。

「今日も疲れたー。やっと家に着く」

 そうして角を曲がると、俺は信じられない光景を目の当たりにする。

「はー!?」

 どういう訳か、俺の家の前に天明屋が立っていたのだ。

 俺の声に気づき、天明屋が俺の方を見ると、天明屋は目を丸くした。

「な、なんで白坂君がここにいるの!?」

「なんでって、それはこっちのセリフだ!なんでお前が俺の家の前にいるんだ」

「俺の家の前?何のこと?私はただお隣さんにご挨拶をしようとして伺おうとしていただけって……えぇー!?」

「お隣…?お前何言って……ってまさか、桃が最近隣に引っ越してきたって言ってたのはお前のことだったのか!?」

 急過ぎる展開に頭が追いつかない。同じクラスに転校してきた美少女と家が隣?もう一度考えてもうまく整理が付かない。

「お隣さんってまさか白坂君…?」

「話を聞いている感じだとそういうことになるな…」

「こんなことってあるの、」

「まったくだ…」



 


 

 

 

 


 

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ぼっちにラブコメはお似合いですか? 若吉たいら @yorunolightnovel

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