第99話 絆
マシューは消えたが地面が激しく揺れ動き始めた。
「ユウマ!」「ユウくん!」「ユウ!」
すぐにやってきたアリサさん達が、僕に抱きついてきた。
「うわあ!? みんな!?」
「無事で本当によかった!」
「あはは……みんな心配してくれてありがとうね」
こういう時、手が二本なのって不便だなと思える。三本あればみんなの頭を撫でてあげられるのにね。
「それにしてもこの揺れってどうしたのかな?」
「どうやら世界樹が燃えてしまって、さっきの化け物が言っていた神様というのがこちらにやってくるみたい!」
「どうしよう!?」
【もしかしたら、虚無の神アザトースなのかもしれんのぉ……】
「グラハムじいさん。知ってるんですか?」
「ユウ? 誰と話してるの?」
「あ、みんな。紹介するよ。聖剣のグラハムじいさん! 会話は僕としかできないみたいだけどね」
「聖剣!? ユウって……勇者様だったの?」
「違うよ? 僕は勇者様の弟だってば。兄さんが持てるようにしてくれたんだ」
「そ、そっか……すごいね」
「ふふっ、ユウくんってやっぱり凄い!」
「君ってどこまでも驚かれるばかりだね」
【こらーっ! こんな大事な時にイチャイチャしてないで、さっさとアザトースを向かい撃たんか!】
「うわあ!? い、イチャイチャなんてしてませんから! それにアザトースってどこにいるんですか?」
【うむ。おそらくは――――ここからしばらく西に行ったところだな。ユウマなら飛んでいけるじゃろう】
「そっか……じゃあ、すぐに向かいます。みんな。行ってくるよ」
「えっ!? また一人で戦うの!?」
アリサさんが心配そうに眼を潤わせて近づいてきた。
「大丈夫。みんなとはちゃんと絆で繋がってるから。僕は一人じゃないよ。それに、みんなが生きれるこの世界を守りたいんだ。絶対に守って――――帰ってくるからね? 待っていてくれる?」
「…………うん」
手を伸ばしてアリサさんの頭を優しく撫でてあげた。
続いてセーラちゃんとステラさんも。
「ユウくん。待ってるから!」
「ユウ。帰ってきてね」
「ああ。みんな。行ってきます!」
「「「いってらっしゃい!」」」
遠くからプリムさんとフェン先生も見守ってくれて、手を振ってくれる。
僕は天使モードのまま空を飛び上がり、西に向かった。
「グラハムじいさん! 方向はここで合ってますか?」
【おそらくあいつの尻尾が見えるはずじゃ!】
尻尾……?
その時、遥か彼方に巨大な異型魔物の大きな触手のようなものが地面から突き出ていた。
「えっ!? あ、あそこって……!?」
【知っておるのか?】
「もしかしたら――――僕の両親が暮らしている村が近い場所かも!?」
僕は全速力で真っすぐ村に向かって飛んだ。
聖剣の力のおかげなのか、飛ぶ速度も非常に速く、うちの村まで結構な距離があるはずなのに、一瞬でたどり着いた。
懐かしむ暇もなく、触手が出ている場所を見ると、僕が育った村だった。
「母さん!」
綺麗な金髪が見えて降りてみると、半年ぶりに会う母さんだった。
「ユウマくん!?」
「説明はあと! 世界樹が燃えてしまって、アザトースとかいうのが神様がやってくるって!」
「やはり……世界樹は燃えてしまったのね。仕方ないわ。あら? それは聖剣?」
「うん! 聖剣のグラハムじいさん!」
「聖剣をユウマくんが……? それも今はいいわ。その姿。初代勇者様だけが成し遂げたという〖神化〗に似てるわね」
「母さん、知っているの?」
「もちろんよ。私は――――初代勇者様の血筋ですもの」
「ええええ!? 初耳……なんだけど」
「ふふっ。大人になったら驚かせようと秘密にしていたの!」
母さん……そんな大事なことは事前に教えてほしかった……知っていても何かが変わるわけではないけれど。
「セリア~! 大丈――――ユウマ!?」
「父さん! ただいま!」
「どうしてここに!?」
「ちょっと色々あって、聖剣のグラハムじいさんと一緒にアザトースと戦うよ!」
「貴方。ひとまずユウマくんを主軸に戦うわよ! 世界樹が燃えたいま、すぐに復活するわ!」
「分かった!」
父さんだけでなく、マリ姉から村人までみんなが集まった。
久しぶりに会うんだから旅の話でもしたいところだけど、いまはそういう場合ではない。
封印の門から現れた大きな触手に対峙した。
やがて山が粉砕されて現れたのは、マシューよりも遥かに大きな無数の触手を生やした異型魔物だった。
禍々しい気配は凄まじく、神というのが伝わってくる。
でも不思議と一切怖くなくて、聖剣グラハムじいさんだけでなく、ここまで力を繋いでくれたみんなのおかげなのだと思う。
「ユウマが戦いやすいように援護するぞ!」
「「「「お~!」」」」
村人達から魔法が放たれ始めた。
昔はよく分からなかったけど、みんなが使う魔法って強い魔法ばかりだよね?
ちょっと気になりながらも、僕は真っすぐアザトースの中に向かって飛び込んだ。
僕に向かって振り下ろされる触手を斬ろうとした時、後方からやってきた大きな炎によって全てが払われた。
「父さん!」
「ユウマ。強くなったな」
「うん! 父さんのおかげだよ!」
父さんのおかげで使える炎帝モードのおかげでここまで来れたから。
「息子がこんなに強くなって嬉しいぞ! さあ、道は切り開いてやる! 行って来い!」
「分かった! ありがとう!」
父さんの深紅色の爆炎によってアザトースの触手全てが払われていく。
僕がアザトース体にやってきた。
「グラハムじいさん! 全力でいきます!」
【神化に到達したユウマなら倒せるのじゃ! さあ、絆を力に全力を叩き付けるのじゃ~!】
「はいっ!」
僕は自分の中にある全ての力を聖剣に注ぎ込んで、一気に斬りつけた。
虚無の神アザトースの巨大な体に、眩い光が包まれ始める。
光はやがて世界中から流れ込み、アザトースの動きを止める。
「これは……!?」
【世界を守りたいという想いが絆となり、多くの人々がここに力を送っているのじゃ。見えないかもしれないが、遠くの人々がこの戦いに祈りを捧げておる。神は信仰によって力を得る。今のユウマは神となり絆を力にしておりのじゃ。さあ! とどめじゃ!】
グラハムじいさんの言う通り、遠くから僕のために祈りを捧げてくれる多くの人達の声が聞こえる。
世界を守りたい。
その想いが一つになり、小さな僕を介して大きな光となり、アザトースを包み込んだ。
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