第98話 聖剣の真の力

――【個体名、ユウマ・ウォーカーとグレイ・ウォーカーの絆が最大値に到達しました。それによりグレイ・ウォーカーが持つ全てのスキルがユウマ・ウォーカーに複写されます。尚、複写されたスキルは本人にのみ表示されます。】


 えっ……?


 兄さんの……絆が繋がった?


 右手に握っていた痛みが消え、直後に不思議な声が頭に響いた。


【どうして我を勇者でない者が……?】


「あれ? もしかして……聖剣が喋ってる?」


【なに!? まさか我の言葉が聞こえるというのか!?】


「えっと、はい。おじいちゃん?」


 声からして老人のような声だ。


【がーはははっ! 我、聖剣グラハムという!】


「グラハムおじいちゃんですね。よろしくお願いします。と言いたいところなんですけど、兄さんが持ってきてほしいと言っていたので、すぐに運びますね」


【ふむ……】


 聖剣を持って兄さんのところにやってきた。


 リシニアさんを見つめていた兄さんが僕を見上げた。


「なるほど。ユウマ。お前にも聖剣が使えるんだな?」


「えっ!? えっと……そ、そうみたい?」


「……ならいい。ユウマ。その聖剣を使え」


「えっ!?」


「俺はお前との戦いでもう体力が残っていない。このまま聖剣を握っても足手まといにしかならない。お前が使えるならお前が使うべきだ」


「兄さん……」


「それに俺に勇者の資格なんてない。俺にその声・・・は聞こえてこないからな。お前が使うべきだ。聖剣もそう思うだろう?」


【ふむ。さすがは勇者だ。我の意識に気付いていたのか。だが、心を開いていない勇者では我の声を聞くことはできぬ。それで聖剣の真の力・・・を引き出すことなど到底無理なことだ】


 そう……だったんだ。


「ユウマ」


「うん」


「――――ありがとう」


「っ…………兄さん。世界は僕が絶対に守るから! だから――――全部終わったら一緒に村に帰ってくれる?」


 兄さんは――――笑みを浮かべて頷いてくれた。




 僕が異世界に転生して十五年が経過した。


 生まれてすぐに憧れだった兄さんを追いかけて、随分と遠いところまで来た気がする。


 でも僕は最後まで兄さんに勝つことはできなかった。みんなの力があったからこそ、僕は強くなれたし、ここまでたどり着けた。


 最後に兄さんから大きな力を託されて思うことがある。


 異世界に転生した理由はなんだろうかと、動かない身体ながら赤ちゃんだった頃にずっと考えていた。


 ワクワクする異世界の旅、今まで使えることができなかった魔法、まだ見ぬ出会い。その全てにワクワクしていたし、胸を躍らせていた。


 でもそのどれよりも、僕が欲していたのは――――愛する家族を持つことだ。


 前世ではそれこそ両親から愛情なんてもらったことはなかったし、それが当たり前だと思って育った。


 兄弟もいなくて、転生するまで誰かに心を開くことがどういうことなのか、分からなかった。


 うちに生まれて、両親と兄さんの温かさがあったからこそ、今の僕がいる。


 村のみんなや、仲間になったみんなのおかげで、今の僕がいる。


 だから僕はこの『絆』を大切にしようと思う。




「グラハムじいさん」


【なんじゃ? ユウマ】


「あの化け物を倒して世界を守りたいんです。力を貸してもらえますか?」


【どうしてじゃ? 世界が滅んだとしても君には問題なかろう?】


「いえ、問題ありすぎですよ。人は一人じゃ生きていけない。それに生きたくありません。もう一人になりたくないんです。僕が愛する人達が平和に生きていられる世界を作りたいんだ。兄さんや母さん、父さん。先生やアリサさん、セーラちゃん、ステラさん。みんなみんな大好きな人達が生きられる世界を守りたいんです! ――――僕自身のために!」


 そう答えると、聖剣から凄まじい光が溢れ、僕や周囲を照らしてくれる。


 異型魔物マシューの視線が僕を向く。


「ナンダソレハ!」


「マシュー。教会を裏から支配していたのは貴方ですね!」


「クックックッ。人間ナンテ脆イ生キ物サ! 僕ガ導イテヤッタダケダ!」


 マシューの巨大な拳が僕に向かって振り下ろされた。


「――――〖天使降臨〗」


 レジェンドスキル〖天使降臨〗に聖剣がより強い反応を見せる。


【おおお! この力だ! 久しいのぉ……かつて神と呼ばれた初代勇者と我が繋がって使うことができた――――〖神化〗じゃ! ユウマよ。その純粋な心でどこまでも自分の意思を貫くがよい!】


「はい! グラハムじいさん!」


 僕は聖剣で襲ってくる巨大な拳を斬りつけた。


 大きさからみれば僕なんてミジンコみたいなものかもしれないけど、聖剣から放たれた斬撃は、マシューの体をより超えた超巨大な斬撃となり、拳から腕を通り、肩から腹にかけて一刀両断した。


「グハッ!? ド、ドウシテ僕ガヤラレルンダ!? 聖剣ハ使エナインジャナカッタノカ!」


 上部と下部が別れて落ちたマシューの顔の前に飛び立った。


「僕だけの力でも、聖剣だけの力でも貴方には及ばなかったでしょう。でもぼくには 絆の力があります! これは僕達だけでなく、この場にくるまで力を繋いでくれたみんなの力の全てです! 貴方なんかに世界を壊させやしないっ!」


「ヤ、ヤメロォォォォォォォォ!」


 振り上げた聖剣から眩い光があふれ出す。


 そして、振り下ろした。


 マシューの巨大な体全てが大きな光に包み込まれる。


「ギャアアアアアアアアア! 僕ガコンナトコロデ……ニャルラトホテプデアル僕ガァアアアアアアア! ダガコレデ終ワリデハナイ! 世界樹ハ燃ヤシタ……我神ガ……貴様ラヲ滅ボシテクレル…………アザト――――サマァァァ」


 そして、マシューは光の中で塵となり消えていった。


 けれど、最後の彼の言葉に得体の知れない胸騒ぎがした。


 その胸騒ぎが当たったかのように、世界が揺れ動いた。

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