第96話 超越者vs勇者

 兄さんは聖剣に手をかざした。


 女神に認められた勇者だけが使えることができる聖剣。


 聖剣からは世界を照らす光のように眩しい光が溢れ出た。


 勇者と聖剣はお互いに共鳴し合う。


 元々強かった兄さんからは、より圧倒的な力が感じられるようになった。


「うふふ。これで勇者様の復活ですわね」


 回復をしていた女性が嬉しそうに話した。


 外見からしてプリムさんに聞いた聖女リシニアさんだと思われる。


「くっくっくっ。聖剣とやらはどれくらい強いのか試し斬りでもしてみるか」


 次の瞬間、聖剣に光をまとわせた兄さんは、後ろにあるエルフの里を守る巨大な壁に向かって斬りつけた。


 黄金色に輝く光が壁一面に飛んでいくと、巨大な壁に一閃が現れ、上下が一刀両断された。


 世界樹によって作られたと言われる壁は、鋼よりも硬いはずなのにいとも簡単に斬れた。


 巨大な壁の上部が地面に滑り落ちて、爆音と共に土煙が勢いよく舞い上がる。


「ふむ。悪くない。これが勇者の本当・・の力か。くっくっくっ」


 急いで族長を介護して、壁の中に走っていく。


 兄さんはそんな僕に一切構わず、ゆっくりと中に向かって歩いてきた。


 世界樹の近くで傷ついて回復している大勢のエルフ達を見つけたので族長を運ぶ。


 それと同時に逆の方向からフェン先生達がやってきた。


 みんな激しい戦いだったようで、ボロボロの姿だ。


「「「ユウマ!」」」


「みんな! 無事でよかった」


 真っすぐ走ってきたみんなが――――僕に抱きついた。


「みんな!?」


「ユウくんこそ無事で本当によかった……」


「私達より君こそ大変だったでしょう……」


「ユウ。おかえり」


 みんなの温かい体温が伝わってくる。


「こら、戦いの最中だぞ。イチャイチャは後にしろ」


「フェン先生」


「プリムは無事だな?」


 プリムさんは傷ついたエルフ達を癒していた。


「さて、問題は勇者と聖騎士の連中が合流したことだな」


「そうですね。兄さんは聖剣の力でもっと強くなりました」


「ああ。あの壁が綺麗に斬られた以上、勇者の力は想像できる」


 土煙が風魔法で空に消えていき、綺麗に晴れた向こうから美しい金髪をなびかせた兄さんがゆっくりと歩いてくる。


 勇者パーティーと聖騎士と共に。


「このまま総力戦か……厳しいな。問題は勇者か」


「兄さんは僕が何とかします」


「分かった。油断せずに全力で勝ちにいくぞ!」


「「「「はいっ!」」」」


 数分後、僕達は兄さん達と対峙した。




「最後のお別れは済んだのか?」


「最後じゃないから問題ないよ」


「くっくっ。言えるようになったな? 弱虫」


「兄さんを追いかけていたらね。それなりに自信は付いたかも」


「ふっ――――どこまでも生意気な野郎だ!」


 離れた場所から聖剣を振り下ろす。


 壁を一刀両断した眩しい光の一閃が放たれる。


 軌道は読みやすいので避けることはそう難しくなかった。が、このままでは勝てる見込みはない。


 なので、早速切り札を解放する。


「――――発動〖天使降臨天使モード〗」


 僕の体が眩しい光に包まれて、背中に六枚の光の羽が生える。


「ん? 天使?」


「色々あったからね」


 といっても、この力は村に住んでいた時に覚えた力なんだけどね。


「まあいい。ここで決着を付けてやる!」


「兄さんを連れて村に戻る!」


「ふん! やれるもんならやってみろ!」


 フランベルジュを取り出すと、光と炎が混ざり合った光焔が舞い上がる。


 聖剣とフランベルジュがぶつかり合う。


「っ!?」


 光焔を纏ったフランベルジュは聖剣とも渡り合う強さを見せた。


 兄さんの顔に一瞬だけ焦りが見えたが、余裕を与えたくない。すぐに連撃を叩き込む。


 何度も何度も剣をぶつけ合う。その度に周りに強烈な爆風や衝撃波が広がり、地獄絵図と化す。


「くそが! 貴様はいつも俺様を邪魔する!」


「邪魔なんてしてない! 僕はいつだって兄さんの後を追っていたんだ!」


「それが……それが迷惑だった! 貴様さえいなければ……貴様さえ産まれてこなければ!」


 焦っているのか、どんどん表情が強張っていく。


 僕なんかでは兄さんの足元にも及ばなかっただろう。


 でもここに来るまで多くの人達が僕に力を貸してくれた。


 父さん、母さん、マリ姉、ウンディー姉、フェン先生、プリムさん、アリサさん、セーラちゃん、ステラさん、ジアリールさん、火竜フレイムタイラント、神の試練のティクルくん。


 みんなが僕に力を貸してくれたから今の僕が存在する。


 世界で最も強いと云われる勇者と聖剣。けれど、僕は多くの人達の想いを背負い――――兄さんの悪行を止める。


 僕も兄さんの攻撃で傷つきながら、兄さんに確実にダメージを重ねる。


 お互いに攻撃を与えて受けての繰り返し。それを何度も繰り返す。


 兄さんの顔からは一切の余裕が消え、ただただ焦っている。


「いい加減くたばれええええ! 俺様の前に立つんじゃねぇえええ!」


「兄さんこそ、いい加減目を覚ましてよ! 兄さんはこういう傲慢な人じゃなかったはずだ!」


「お前に何が分かる! 何をやっても貴様ばかりが評価され、俺はただの置物のような生活。

貴様が生まれたことで俺の居場所などどこにもなくなった!」


「そんなことない! 父さんも母さんも兄さんを大切にしていたよ!」


「ふざけるなあああ! 何があっても貴様を守るためと、いつも貴様の周りにばかり人が集まっていた。俺様の努力など、貴様の才能の前では全てが無そのものだった! だが、世界が選んだのは貴様じゃなく俺様だった! 俺様が勇者なんだ! いまさら俺様の前に立つんじゃねぇええええ!」


「何度でも止める! 兄さんは誰よりも大切な家族だから! 何度蹴られても何度でも追いかけてみせるから!」


「それが邪魔だと言っているんだ!」


「そう言われても僕は二度と諦めない! みんなが繋いでくれたこの力で!」


 兄さんの全力が込められた剣戟を、僕も全力を込めて反撃する。


 僕達の剣がぶつかり合い、エルフの里は絶望の光の渦に包み込まれた。
















「くっくっくっ。くーははは! きゃははははは!」
















 里の中央。


 僕と兄さんが相打ちになり、二人ともボロボロになったところで、僕達の間で高笑いをするのは――――いつかの日に僕達を追いかけた若い聖騎士だった。


「これは素晴らしい! まさか勇者をここまで追い込むとはな!」


 彼は……フェン先生が相手していたはず……?


 視界に映るフェン先生は無傷のようだが、こちらに向かって全速力で走ってくるのが見える。


「お前には感謝しているぞ。無能。まさか勇者をここまで削ってくれるとはな! それに聖剣まで揃った。これなら――――人族など、滅ぼすのは容易い!」


 次の瞬間、彼の体が何かに裂かれる・・・・


 中から現れたのは――――異形の魔物だった。

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