第93話 試練の結果

「ねえねえ。いつまでやるの? そろそろ諦めたら?」


 数が増えすぎて、僕一人じゃ影少年を守ることはできなかった。


 影少年と鎧人が倍々で増えていき、僕の前には鎧人が48体もの数になっている。それに対して、僕の後ろの影少年はたった一人だ。


 一つ誤算があったのは、影少年のまとまりのなさだ。あっちこっち行かれてしまって、助けられなかった。


 声が聞こえるわけではないが、鎧人の武器に刺されて断末魔を上げながら消えていく影少年に怒りが湧く。


「はあ……はあ…………」


 最初こそは炎帝モードで何とか切り抜けたけど、鎧人もどんどん強くなっていき、炎帝モードも使えなくなった今では、なすすべもなく一方的にやられている。しかも、鎧人達が連携し始めて、より戦いにくくなった。


「なあ~たかだか影じゃないか。どうしてどこまで怒るんだ?」


「…………確かに君が言う通り、ただの影かも知れない。でもね……彼らの姿…………エルフ族だよね」


 影なので顔の形はわからない。でもエルフを象徴する長い耳は間違いなくエルフ族のものだ。


 鎧人は兜を被ってはいるが、仕草や動きからして――――横暴は人族に見える。


「僕は……小さな町で育って、みんな人族ばかりだった。でも世界に出て、人族以外に亜人族がいると知って、でも人族は亜人族を嫌って亜人族も人族を嫌って…………姿は違くてもみんな子供を大事にして笑って泣いて生きているのに……お互いをいがみ合うのが凄く嫌で…………そんな彼らを助けるなんて言わない。でも自分の手が届く範囲で全力で守りたいんだ」


 ふと笑顔のアリサさんが思い浮かぶ。


 最初はムスっとしていた彼女も随分と笑うようになったと思う。


 人も亜人も天使も妖精も関係ないんだ。僕たちは分かり合えるはずだ。


 その時、僕の心の奥に溢れる力を感じる。


 精霊の力。剣術の力。魔導の力。


 それだけじゃない。母さんの回復の力。マリ姉の水魔法の力。


 フレイムタイラントの火竜の力。フェン先生の聖騎士の力。プリムさんの大自然の力までもが溢れてくる。



《才能【絆を紡ぐ者】の絆の最大値を確認しました。絆による全てのスキルのかせが解除されます。》



 試練。という言葉で僕は一つ大切なものを忘れていた。


 試練を受けるのは僕一人。だから僕の力で何とかしなくちゃいけないと思った。でもそれは叶わなかった。


 ううん。僕の考えは間違っていた。僕がやるべきは僕の力で切り開くのではなく――――みんなの力で切り開くべきだったんだ。


 一本だった昔の・・フランベルジュが、新しい二本の姿に変わった。


「ティクルくん。ありがとう。僕に気付かせてくれて」


「ん? 何のことだ~?」


「僕は決して一人じゃないって、みんなと力を合わせて守れということを」


「――――ふふっ。言葉だけなら誰でも言えるからね~見せてみなよ。君の本当・・の力を!」


「ああ!」


 ジアリールさんが繋いでくれた鍛冶の絆。


 二刀流になって、刀身も少し短くなったことによって、僕の剣術は理想・・にぐっと近づいた。


 同時に飛んできた鎧人を二体同時に斬り飛ばす。


 鎧人が広がって僕を包囲する。



 アリサさんが繋いでくれた精霊の絆。


 僕を中心に八体の精霊が現れた。火の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊、雷の精霊、氷の精霊、光の精霊、闇の精霊。


 それぞれ散っていき、鎧人達に強烈な魔法を放つ。



 鎧人にはいくつか種類がある。剣や槍、弓を持つ。


 遠くから無数の矢が僕を飛び越えて飛んでいく。


 プリムさんが繋いでくれた大自然の絆。


 お母さんが繋いでくれた光の絆。


 影少年の周りに太い根が生えて、影少年を覆う。さらに光魔法のバリアがその上を覆った。


 無数の強烈な矢が降り注いでも、ひび一つ入らなかった。



 マリ姉が繋いでくれた水の絆。


 大きな波を作り出して鎧人を一か所に集める。



 その中、たった一人だけ耐え凌いだ鎧人が凄まじい勢いで僕に向かってきた。


 鎧人は影少年を狙うが、この個体だけは僕だけを狙う。


 セーラちゃんが繋いでくれた剣術の絆。


 フェン先生が繋いでくれた聖騎士の勇気の絆。


 一気に飛んできた鎧人が持つ大剣を僕に振り下ろされる。


 大剣が目の前に来た瞬間、世界が止まるかのように遅くなっていく。


 左手に持つ短いフランベルジュで大剣の軌道をずらすと、一気に時間が加速して大剣が地面を叩いた。


 また世界が止まり、右手に持つ長いフランベルジュで鎧人の急所に向かって剣を動かすと一気に時間が加速して鎧人はその場で倒れ込んだ。



 ステラさんが繋いでくれた魔導の絆。


 フレイムタイラントが繋いでくれた火竜の絆。


 お父さんが繋いでくれた炎の絆。


 僕の全身に紅の炎が溢れ出る。


 既に使えなくなったはずの炎帝モードだが、炎帝とはまた違う力を感じる。



《レジェンドスキル【炎帝】と【火竜の心臓】と【竜麟】が統合されます。レジェンドスキル【炎帝竜神】を獲得しました。》



 炎は赤から蒼に、蒼から紅に染まっていく。


 右手に赤の炎を、左手に蒼の炎を灯らせる。両手を合わせると、爆炎がより広がっていく。


エクスプロージョン火魔法・神級!」


 前方に広げた両手から全てを燃やし尽くす業炎の爆炎が放たれる。


 この世界の地獄のような絵図が繰り広げられて、遺跡もろとも灰となって消え去った。



 僕の前に全てが灰となった世界が広がる。


 撃つ時はこうなるのが分かってても迷わず使ってしまった。


 もう二度と使わないと決意を固めた。うん。


 最後に僕は――――神様が繋いでくれた絆を発動させる。






「――――〖天使降臨〗」






 【絆を繋ぐ者】を開花した時に持っていたスキル。恐らくお父さんかお母さんのどちらかが持っていそうだ。多分お母さんだと思う。


 でもお母さんはこの力を使ったことがないようだ。


 きっと転生した僕のために預けてくれたんだと思う。


 燃えている僕の体から眩い光が溢れる。


 背中に六枚の光の羽が生えて、頭の上に光の円盤(?)が現れた。


 降臨というよりは、天使モードになれるって感じだ。全てのステータスが最大値になっている。


「あ~はははっ~! 君ってでたらめな強さだよ~それで神でも殺す気かい?」


 ティクルくんが僕の前に現れた。


「ティクルくん……ごめん。なんか夢中になってたら、こうなっちゃった」


「くふふ~まあ、いいんじゃない? この遺跡だって、力を示されて嬉しいと思うし。はて、君に課せられていた課題――――【自分の本当の力を理解する】に合格おめでとう」


「わあ! 合格なの?」


「もちろんだ。ユウマくん。これだけは覚えておいて。誰しも一人では強くなれない。誰かを救いたいと思うなら、自分が手を伸ばすだけでなく、誰かが伸ばした手を掴むのも忘れないようにね」


「わかった! みんなと一緒に頑張るよ!」


「あははは~完敗だ! 合格おめでとう! 君の未来に幸あれ~!」


 世界に虹色に輝く雪が降り始めた。


 助けた影少年から最後に「ありがとう……」と声が聞こえてきて、消えていった。



《レジェンドスキル【限界突破・超級】が【超越者】に進化しました。》


《神の試練の突破を確認しました。被験体のレベルが最大に進化しました。》


《神の試練のギフトが与えられます。》



---------------------

 名 前:ユウマ・ウォーカー

 才 能:絆を紡ぐ者

 レベル:99/99


 体 力HP:S+  魔 素MP:S+


 筋 力:S+  耐 久:S+

 速 度:S+  器 用:S+

 魔 力:S+  知 力:S+

 耐 性:S+  運  :S+


 レジェンドスキル:

〖炎帝竜神〗〖天使降臨〗〖精霊眼〗

〖上級鑑定〗〖超越者〗〖豊かな自然〗

〖異空間収納〗〖竜神の加護〗〖大地の巫女〗


 スキル:

〖身体能力上昇・神級〗〖反応力上昇・神級〗

〖魔力能力上昇・神級〗〖超高速詠唱〗

〖魔素消費軽減・神級〗〖三重詠唱〗

〖詠唱速度上昇・神級〗〖詠唱破棄・中級〗

〖全属性耐性・神級〗〖能力低下無効〗

〖状態異常無効〗〖精神異常無効〗

〖消滅無効〗〖遠見〗〖暗視〗〖探知〗

〖聞き耳〗〖威圧〗〖上級隠密〗〖解体〗


 マスタリー:

〖剣聖〗〖精霊使い〗〖魔導士〗〖聖騎士〗

〖武術・神級〗〖武器・神級〗〖鎧・神級〗

〖聖物・神級〗〖料理・上級〗

〖全属性魔法・神級〗〖無魔法・神級〗

---------------------

 天使モード時:


 体 力HP:X   魔 素MP:X


 筋 力:X   耐 久:X

 速 度:X   器 用:X

 魔 力:X   知 力:X

 耐 性:X   運  :X

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