第91話 試練への門
次の日。
朝一でエルフ族が差し入れてくれた朝食を食べる。
朝食を丁度食べ終えた頃、アルヴィンさんがやってきた。
「準備はできましたか……」
「ええ。問題ありません。よろしくお願いします。アルヴィンさん」
時間の約束をしたわけではないけど、勇者である兄さんが迫っているので、こちらも急ぐと思っていた。だから昨日のうちに支度は終えている。
「ユウマ……」
「アリサさん。本当に僕は大丈夫。絶対に帰ってくるから」
「…………あ、あのさ」
「うん?」
アリサさんが両手を握り、心配そうに僕を見つめる。
「帰ってきたら……ちゃんと伝えたいことがあるの……」
伝えたい事? なんだろう?
「? 分かった。すぐに試練を越えて帰ってくるよ」
「うん……! 待ってるから!」
そう話したアリサさんは笑顔を浮かべてくれた。
「わ、私も!」
セーラちゃんも何かあるようだ。
ステラさんも何も話さなくても、いつもとは少し違う視線を僕に送ってくる。
「みんな。行ってくるね」
「「「行ってらっしゃい」」」
プリムさんもフェン先生も僕を見送ってくれて、僕はアルヴィンさんと共にエルフの里で一番巨大な樹木に向かった。
「…………ユウマ殿」
「はい」
空高く佇んでいるユグドラシルに向かっている間、並んで歩いているアルヴィンさんが声をかけてきた。
「アリサは学校に馴染んでいましたか?」
意外にもアリサさんのことだった。
「はい。彼女はいつも明るくてみんなにも優しいから中心的な生徒です。困った生徒はよく彼女に相談していました」
「あの娘が誰かに手を差し伸べているんですね……」
「はい」
「…………」
少し寂しそうな表情を浮かべる。昔のアリサさんは違っていたのか?
すると、アルヴィンさんがおもむろに話し始めた。
「あの子は、兄が追放されてから口を閉ざしてしまった。自分が兄を止めることができなかったと、ずっと悩んでみんなと距離を置くようになりました」
アリサさんも最初にそういうことを言っていた気がする。
「兄を追うために強くなる。その一心で人族の学園に入学すると言い出した時は驚きました。何年もかけて説得されて、結局は入学を認めてしまったんですが…………どうやらそれは正解だったようですね」
「……アリサさんと皆さんの間に何があったか、僕は予想することしかできませんが、今のアリサさんはちゃんと前を向いて歩いています。それに、ちゃんと仲間に頼ることも覚えています。もう彼女は一人ぼっちではありません」
「ええ。私の娘はとても不器用で、何をするにも自分が背負ってしまいます。ユウマ殿…………これからもアリサのことをよろしく頼みます」
「!? は、はい……ど、どっちかというと、僕の方がお世話になっているくらいなので……」
「なるほど。貴方はそういう方だったのですね。――――ふふっ」
ずっと無表情のままだったアルヴィンさんが口角を上げて笑みを浮かべた。
「世界が平和になったら――――娘と一緒に遊びに来てください」
「は、はいっ! その時はぜひ……!」
何故か心臓がバクバクと音を立てる。
まだあまり関わりがなかったけど、アルヴィンさんって……アリサさんのお父さんなんだよね…………何故か緊張してきた。
目の前の視界に空が全く映らなくなってやっとユグドラシルの雄々しさが感じられた。
「大きいですね」
「ええ。世界を背負っている聖樹ですから」
「聖樹…………」
「これから向かう試練は聖樹の――――中になります」
聖樹ユグドラシルの中が試練の会場……。昨晩、プリムさんが「もしかしたら聖樹の中かも知れないわね」と言っていた通りになった。
ユグドラシルの根元に行くと、不思議な感覚がする金属の大扉が見えた。
「こちらは封印の門と言われています。資格がある者しか中に入れません」
「資格がある者……」
僕に資格があるのだろうか?
「門に手を当てると、中に入れます」
「分かりました。試してみます」
アルヴィンさんに言われたまま、右手を伸ばして門に触れてみる。
ひんやりとした金属の感覚が手に伝わってくる。
《汝を神の試練に迎え入れよう。》
頭の中に直接響く声。いつもの天の声さんとは全く違う人の声だ。
恐らく――――聖樹ユグドラシルの声だろう。
僕の体が淡い翡翠色の光に包まれて、門に吸収された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます