第89話 空の旅

 ジパング国がユグランド付近に向かって出陣を始めた。


 大勢の兵士が道を埋め尽くし、王国の槌と金床が描かれた国旗がはためく。


「僕達も頑張ろう……!」


 王国軍を見送ってすぐに王様に僕達のことも報告して、僕達も出発した。


「ユウマ? どうやって向かうの? 大通りは軍がいるから通り抜ける?」


「ううん。できるだけ早く向かった方がいいと思うから――――あそこから行こうと思う」


「……え? そこって……? 空を指差しているよ?」


 驚くアリサさんに笑顔を向ける。


 もちろん――――僕がこれからやるのは空を飛ぶことだ。


「みんな! 僕達をユグランドまで運んで~!」


 僕の声に応えるかのように周りから緑色の光が無数に現れる。


 蛍のような光を放つのは、精霊達だ。


 これもアリサさんから教えてもらえた〖精霊使い〗。


 僕達の体を風が包み込み始めると、ゆっくりと体が宙に浮いた。


「みんな、行くよ!」


 そのまま僕達は精霊達の力によって、空を飛び始めた。


「ええええ~!?」


「あはは~やっぱりユウくんって凄い~!」


「うちのユウはやっぱり最強で精霊達まで使役して空まで飛べて剣もあれだけ使えるのに魔法まで使えるのに精霊まで使えるからやっぱりユウは凄い」


「わあ~! やっぱりユウマくんって精霊に愛されているわね」


「そうだな。ここまで精霊に愛された人は初めてみる」


 空を飛んで地上に王国軍が見え始めた。


 辛うじて旗が見えるくらいで、顔は全然見えない。ナインハルト殿下だけ鎧が特殊なのでわかりやすい。


 王国軍を通り過ぎて、綺麗な自然の平原や森を越えていった。




 ◆




 数時間も飛んでいると、空の向こうにものすごい一本の樹木が見え始めた。


「あれがユグドラシル。世界の力の源と言われている木よ。あそこを中心にユグランド国なので気を付けてね」


「はい」


 プリムさんの案内を受けながら空を飛んでユグドラシルを目指す。


 ユグドラシルに近づいた頃、地上から魔法の気配を感じる。


「魔法が飛んでくる! 気を付けて!」


「――アンチマジック!」


 ステラさんがすかさずみんなに防御魔法を貼ってくれる。


 精霊達にお願いして魔法を避ける。


 地上から放たれた魔法はどの魔法も強烈で、僕達を本気で倒すために撃たれたものだった。


「ユウマ! 私を先頭に降りよう!」


「分かった!」


 高度をどんどん下げながら魔法を避けて、今度は矢が飛んでくるが僕とセーラちゃん、フェン先生が全てを叩き落としながら村の広場に降り立った。


「動くな!」


「待ってください! 私です! アリサです!」


 アリサさんが声を上げると、周りから驚きの声が上がる。


 すぐに一人の男性が高い樹木の上から降りて、こちらに歩いてきた。


「お父様。お久しぶりです。アリサでございます」


「まさかお前だったとは……それにしても空から飛んでくるとは一体……?」


「それはこちらの仲間のおかげです。まず仲間達を紹介します」


 そして僕達が前に出ると、全員が弓を構えた。人族である僕達を敵対しているからだ。


 念のため、僕達は手を上げて戦う意志がないと表示する。


「なぜ人族なんかと!」


「学園でできた仲間です。人族ではありますが、ジパング国をフレイムタイラントから守った英雄です」


 アリサさんの言葉にまたもやざわめきが起きる。


「そんなはずはない。人族が亜人族を味方するなど……!」


「お父様……」


 それくらい兄さん達との戦いで傷ついているのが分かる。


 そのまま彼らをどう納得させたらいいか悩んでいた時、僕達の後ろから声をあげたのは――――


「相変わらず、頭が固いわね。アルヴィン」


「プリムさん?」


 僕達の間を歩き前に出たプリムさん。


 プリムさんが現れるや否や、全てのエルフ族がその場に跪いた。


「プリムローズ様! お久しぶりでございます」


「みんな久しぶり。中々訪れることができなくてごめんなさい。でもここにいるユウマくんのおかげで、とても簡単に来れたわ」


 また大きなざわめきが起きる。


「何が起きたのかはこれから説明するわ。こちらのユウマくん達は私が信頼する神徒なのでそう警戒しないで欲しい。それでいいわね?」


「ははっ!」


 プリムさんの言葉は不思議と誰一人疑うことなく素直に聞いてくれた。


 ただ、心の底から納得はしていないようで、僕達に笑顔を向ける人は一人もいなかった。アリサさんにさえも。


 案内された場所で少し待っていると、アリサさんのお父さんと老エルフが二人、若いエルフさんが三人で会談が始まった。

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