第88話 新しい力
今日はフェン先生やプリムさんと共に森の奥にやってきた。周りから感じるのはBランク魔物グランドベアだ。
最初に試すのはアリサさん。
美しい翡翠色に輝く弓を取り出して弦を引っ張ると魔法の矢が現れる。魔法の矢も緑色を帯びている。
矢を放つと、重力を一切感じさせず、真っすぐ飛んだ矢がグランドベアに当たる。
以前は当たって刺さっていた矢が、新しい弓の矢はグランドベアの分厚い体を貫通した。
次々放った矢によってグランドべアが倒れ込んだ。
次はセーラちゃんで、剣の柄を取り出すと刀身が魔法のように生えてくる。
彼女の力強いオーラも相まって澄んだ水色の輝きを放つ。
グランドベアを軽々と避けながら引っかかる一つない剣戟がグランドベアを分厚い腕を切り落とす。
まるで踊るようにセーラちゃんの剣戟がグランドベアを斬りつけると、数秒もかからずにグランドベアが倒れた。
次はフェン先生。大樹の剣と呼ばれていた剣は、長さは普通のロングソードくらいだが、柄部分には綺麗な装飾が付けられている。
息を整えると、フェン先生の体と大樹の剣に濃密なオーラが灯る。
今まで出会った人の中でもっとも美しいかも知れない。薄いオーラに濃密な力が凝縮していて中から荒々しさが伝わってくる。
グランドベアとフェン先生が対峙する。
グランドベアが飛び掛かった瞬間、先生が目にも止まらぬ速さで通り過ぎて、グランドベアが一撃で二つに分かれた。
「最後はユウくんだね! 頑張ってね!」
「ありがとう」
「その剣。凄く楽しみ!」
セーラちゃんが目を輝かせて僕を見つめる。
アリサさんも一緒に来てくれたステラさんも暖かい眼差しを送ってくれる。
ここに来るまでに新しい力を獲得している。
セーラちゃんもアリサさんもステラさんも特別な力を持っている。
ステラさんが持つ〖魔導士〗。アリサさんが持つ〖精霊使い〗。そしてセーラちゃんが持つ〖剣聖〗。
どれも特別なレジェンドスキルで、とんでもない効能を持つ。
ここに来る間、三人と絆が繋がった。意外にも絆が繋がった時、みんなも感じたみたいで不思議そうに僕を見つめていた。
新しく繋がった力。そして新しい武器。
グランドベアに対峙する。
元々ロングソードより少し刀身が長かったフランベルジュは刀身の長さを変えて、ロングソードより少し
さらに柄部分もフレイムタイラントの素材で少し形を変えて全体的に小ぶりの形になった。ただ、短くなったはずの刀身から凄まじい火竜の力と、炎の力を感じられる。フランベルジュって元々、炎神の石と呼ばれているレッドルビで作られていて炎に対する絶大な能力上昇をもたらす。
それがさらに増幅しているのを感じる。
二振りの長さの違う剣を構える。
初めてのはずなのに、手にピッタリな感覚がある。ジアリールさんに見極められて作って貰えた双剣。これが僕が本来持つべき形。
グランドベアがこちらに向かって飛び掛かってくる。
剣にオーラを纏わせる。無色の光。いや、光ではない何かが僕の剣に宿る。
初めてなのに使い慣れた感覚で〖剣聖〗を感じる。
グランドベアと僕が通り過ぎた。
直後、グランドベアの体にクロスの切り傷が伸びて、体が四分割になると同時に切り傷部分が灰になった。
僕の剣に纏った力は炎神と火竜が混じった、業炎属性となる。燃えるという事を越えた灰になることで絶大な切れ味となる。
ただ短所というなら綺麗な切れ傷は作れない。灰になってしまうからね。
ステラさんも新しい杖で魔法を試しつつ、僕達も新しい武器をならしてから王城に戻っていった。
◆
王城に帰ってくると、人々が慌ただしく動いていた。
「ラインハルト殿下!」
「おお。英雄殿。狩りから戻られたか」
「何かあったんですか?」
僕の質問に殿下の表情が曇る。
「当然といえば当然だが、遂に事が起きてしまいました」
事。というのは……ジパング国に
「北の帝国からユグランドだけでなく、我がジパングに侵攻を始めました。これから軍を率いて前線に向かうことになるでしょう」
「わかりました。ありがとうございます」
ラインハルト殿下は軽く会釈して行ってしまった。
「先生。これからどうしますか?」
「ユウマはどうしたいんだ?」
「僕は――――――最前線に向かいたいです」
「理由を聞いても?」
「兄さんを止めたい……それもあるんですが、誰と誰かが争うのは違う気がするんです。みんな大陸で一緒に暮らしているのに、話し合えば分かり合えるはずです。だから分かり合えるように僕も少しでも力を貸したい。それに――――戦場となっているユグランドをこのまま見過ごしたくありません」
僕の気持ちをみんなに伝える。
「それでこそユウくん! 私も賛成!」
「みんな……ありがとう……」
「ユウ。ずっと。付いて行く」
「プリム。どうする?」
「私の答えは最初から決まっているよ? ――――ユグランドを救わないと」
プリムさんの覚悟も伝わってくる。
フェン先生が大袈裟に溜息を吐いて、プリムさんの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「良かったな。プリム」
「…………うん」
こうして僕達の次の目的地が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます