第84話 鍛冶屋

 ジパング国の首都の住民たちから祝いを受けながら大通りを抜けて、少し閑散とした場所に立っている大きな建物の中に入る。


 入口には鍛冶屋を示すハンマーと鉄床かなとこがマークになっている看板が掲げられていた。


 中に入るとドワーフ特有の低身長の筋肉ムキムキの店員さんが迎え入れてくれた。


「いらっしゃい。ん? 人間ってことは首都を助けてくれた英雄さんか」


「初めまして。ユウマといいます。英雄だなんて……魔導砲のおかげですから」


 魔導砲というのは、お城から現れた砲台のことで、防衛用兵器型魔道具グランバニアという名が付いている。


「あのまま首都が火の海にならずに済んだのは全て英雄殿のおかげだから少しくらい胸を張ってくれ! がーはははっ!」


 豪快な笑い声に耳が少し痛い。


「それで本日は何か用事があるのかい?」


「はい。こちらの紹介状を」


 以前プリムさんから貰った紹介状を渡す。


「ん? これは…………教皇様か」


「呼んだ~?」


「ぬあっ!? きょ、教皇様!?」


 ずっと僕達の後ろに隠れていたプリムさんがぴょこっと顔を出す。


「久しぶり~ジアリール」


 プリムさんに驚きのあまりにそのままジアリールさんがそのまま後ろに倒れ込む。


「ジアリール!? 大丈夫?」


「これはまたたまげましたな……まさか教皇様がここに来るとは思いませんでしたから」


「あはは~驚かせるために隠れて大正解だったね~」


 小悪魔的な笑みを浮かべるプリムさん。本当にいたずらが大好きな人だ。


「今日ここに来たので、この子たちの武具を作って欲しいと思ってね。今回の一件もあるから奮発してくれよ~?」


 倒れたところから起き上がったジアリールさんは、苦笑いを浮かべながら「それくらい容易い御用ですぜ」と快く受けてくれた。


 ジアリールさんの案内を受けて工房の中に入ると、外とはあまりにも違う暑さが僕達を包んだ。


「ここは俺の弟子どもが日々鍛冶をしているから、少しばかり暑いですぞ」


「大丈夫~」


 みんな僕達には視線一つ送ることなく、目の前の自作に取り組み続けていた。


 こんな暑い場所で夢中になって槌を叩き続けている彼らはまさに職人のあるべき姿だ。


「さて、こちらにある武器からそれぞれ好きそうな武器を探してみな」


 テーブルの上には色んな種類の武器が置かれており、剣だけでなく弓や槍、斧などのポピュラーな武器からどういう風に使うか分からない不思議な形をした武器まで置かれていた。


「ジアリール~ユウマくんは既にメイン武器を持っているので、それを加味して見て欲しい~」


「メイン武器ですか? 英雄殿。メイン武器を見せてくれ」


「わかりました」


 異空間収納からフランベルジュを取り出す。


「これは……!? これを一体どこから手に入れたんだ!?」


「えっ? え、えっと……両親から誕生日プレゼントとしてもらいました」


「!? まさか英雄殿ってウォーカー様のご子息だったのか!?」


 ウォーカーと言えば、僕達の家名だ。


 でも普通なら兄である勇者様の家名として有名なはずなのに、ジアリールさんが話す『ウォーカー様』という言葉から兄ではなく、僕の両親のことが思い浮かんだ。


「家名は一応ウォーカーですが……父はグレンで母はセリアです」


「「えええええ!?」」


「え? なんでプリムさんも驚くんですか?」


「ユウマくんって勇者くんの弟だったの!?」


「そうですよ?」


「なるほど……だから面影が……ふむふむ。ジアリール続けてちょうだい」


 何かを納得したプリムさんは僕の顔をじろじろ見続けた。


「フランベルジュ。懐かしいな。よく手入れもされているし、大事に使っているんだな?」


「もちろんです。僕にピッタリでとても使いやすくてとても助かっています。この剣をご存じですか?」


「知るも何も――――こいつを作ったのが俺だからな! がーはははっ!」


「ええええ!? ジアリールさんがこの剣を!?」


「おうよ! グレン様に頼まれてな。グレン様は使わないと言っていたが、そうか……ご子息のために作って欲しいと頼んだのだな。やっと納得した。そうかそうか」


 そう話したジアリールさんは僕に近づいて来て、僕の体のあちらこちらを触り始めた。


「ジアリールさん!?」


「ふむふむ。なるほど……」


 僕の意志なんて構わず、大きくて分厚い手が僕の腕や肩、腹、足など、全身を触ってきた。


「…………こりゃダメだな」


「えっ?」


「やはり要望に応えただけだが、これではフランベルジュも全力を出せない。英雄殿。この剣は暫く預かる。それと英雄殿の武器はもう決まったから探さなくても良い。そこの娘さんはこれを、そこの娘はこれを触ってみな」


 色々触ったけど腑に落ちない顔をしていたアリサさんとセーラちゃんに、それぞれ細いレイピアと、フランベルジュよりも少し大きめの大剣を渡した。


「外に庭があるから試してみるといい。さあ、後は職人に任せろ! 十日後に取りに来い!」


 何が何だかわからないが、不思議と嬉しそうな笑みを浮かべたジアリールさんに背中を押されて外に追い出された。


 アリサさんとセーラちゃんに渡した武器は一週間くらい使ってみろと渡された。

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