第82話 王太子と態度

「「おかえり!」」「おかえり~」


 アリサさんのところに戻るとみんな嬉し笑顔を浮かべて迎えてくれた。


「ユウくん。ケガはない?」


「うん! フレイムタイラントの体も回収してきたよ。アリサさんもありがとう」


 アリサさんの精霊のおかげで声を届けてくれたから大助かりだ。


「ユウマくん。ここ一帯に広がっている炎を水魔法で消してもらえる? フレイムタイラントの炎を消すとなるとそれなりに強い魔法じゃないと厳しそうだけど……」


「わかりました。やれるだけやってみます」


 このまま炎の地獄を放置するわけにもいかないし、火が広がると危険だ。


 水魔法はマリ姉が得意としていて、色んな魔法を教わっている。


 広範囲の火を消しつつ、被害を出さない魔法…………それならば!


「発動〖炎帝〗。――――――〖レイジングレイン水魔法・超級〗!」


 本来なら地上に向かって使う魔法だけど、向きで空に向かって使うことによって本来の破壊的な勢いを空高く撃ち勢いを弱めて地上に雨を降らせる。


 燃え盛る草原に広範囲の雨が降り注ぐ。


 消えていく炎を見つめながらプリムさんが小さく呟く。


「超級の水魔法をこんなに簡単そう撃てて……しかもわざと逆さで撃つことでただの雨にする…………魔法にこんな使い方があるなんて思いも付かなかったわね」


 ステラさんはもはや興奮し過ぎてよくわからない言葉を発しながら、雨に向かって喜びを体で現している。


「あれ? この匂い…………土がものすごく活性化・・・してる……?」


「ん? アリサちゃん。それってどういうこと?」


「普通の雨や水魔法とはまた違う効果があるというか……土がすごく喜んでいて豊かな土になっていくわ。これもユウマの力?」


「あはは……」


 僕のレジェンドスキル〖豊かな自然〗の効果が魔法に出たようで、それをアリサさんがすぐに察知したようだ。


「あ~! みんな! 首都から誰かくるよ!」


 セーラちゃんの驚いた声で首都の方を見ると、馬に乗った複数の騎士さんたちがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


 一番正面に黒くて刺々しい鎧を着た強そうな男性と、後ろに銀色のライトアーマーの女性、その後ろの男性たちは同じ鎧を着ている。


「一番正面の黒い鎧が王太子のラインハルト殿下。後ろはジパング国将軍セレナティア様だよ」


 プリムさんが素早く説明してくれた。


 ジパングは商業の国でもあるんだけど、別名で亜人の国とも呼ばれている。王族はドワーフだと聞いていたけど、殿下は遠目からでも普通の人とあまり変わりがないように見え、後ろのセレナティア将軍も同じく人族に見える。後ろの騎士さんたちは僕が知っているドワーフの体型だ。


 雨が降り止んで炎が全て消えた頃、やってきた王太子様たちが馬から降りてプリムさんの前に跪いた。


「教皇様。お久しぶりでございます」


「お久しぶりです。急な訪問で申し訳ございません」


「いえ。それにフレイムタイラントの襲撃から首都を守ってくださりありがとうございます」


「それならこちらのユウマくんに感謝してください。私ではなく彼の意志ですので」


 殿下の視線が僕に向く。ただ、その目はあまり好意的なものではなかった。


「この度は首都を守ってくださりありがとうございます」


「い、いえ!」


「教皇様。王城へ案内致します。皆さんも王城へどうぞ」


 プリムさんも安心していいと首を縦に振ったのでそのまま彼らと共に王城に向かった。


 ただ、ひとつだけ気になるのは僕達を騎士さんたちが囲う・・ようにしていること。まるで――――僕達を警戒するように。


 馬車を引いて首都玄関口を越えて王城まで真っすぐ繋がっている大通りを過ぎて王城に辿り着いた。




 ◆




「…………いくらなんでも酷いんじゃない? これは」


 思わず不満を口にするアリサさん。


 王城に着いた僕達はすぐにプリムさんだけが王様の下に向かい、僕達は豪華な部屋で待つことになった。までは良かったけど、部屋から出ることは禁じられていて、プリムさんがどこにいるのか、何をしているのか全く教えてもらえずにいた。


 そういう態度に不満を持つのは仕方なく、兵士さんたちの表情もまるで僕達を敵視しているようでもある。


「ユウマ? プリムさんは無事なの?」


「うん。大丈夫」


 王城に入ってからずっと〖探索〗を全開にしているので、プリムさんがどこにいるかは把握している。


 王様がいると思われる部屋にずっと留まっているので問題はなさそうだ。


 光の精霊も付いているので心配はしていないけど、もしもの時は最短ルートで向かうつもりだ。


 何が起きているのかわからず、聖騎士から追われてここに来た僕達の緊張感も相まって、僕達の中の不満がどんどん大きくなっていった。

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