第80話 対フレイムタイラント

 首都の最奥にある巨大なお城。そこから何かが動く音が周囲に響き渡る。


「ユウくん! あれ見て!」


 セーラちゃんが指差している場所のお城の屋根部分が開き始めた。


 まるで前世で見た巨大ロボットみたいな。


 開いた屋根の中から大きな――――砲台が一本現れる。


 真っすぐ上に上がって来た砲台がフレイムタイラントに向けられる。


「あれは首都エンハーレスの防衛用兵器型魔道具グランバニア」


 砲台に大きな魔素の唸りが始まる。


 それだけで凄まじい攻撃が予想される。


 紫色の魔素の粒子がどんどん集まり、大気を震わせ始めた。


 数十秒が経過すると、砲台から禍々しい魔法の砲撃がフレイムタイラントに向かって放たれる。


 とんでもない速度で飛んでいく魔素の塊が空気を裂きながら、フレイムタイラントを追いかける。


 空中で大きく旋回して魔素の塊を避けたフレイムタイラントを追いかける。


 高速に移動するフレイムタイラントとそれを追いかける魔力の塊が空中で激しい戦いを見せる。


 フレイムタイラントが放つブレスが魔力の塊に当たってもビクともせず、追いかけ続ける。


「そろそろ当たりそうだね」


「うんうん。あれで倒れてくれればいいけど……」


 逃げるフレイムタイラントを追いかけた魔素の塊が直撃した。


 空中で紫色の大きな爆発が起きてフレイムタイラントを飲み込んだ。

 

 爆発の中から地面にむかって大きな塊が落ちて行く。


「フレイムタイラントの状態を確認してくる!」


「ユウくん! 気を付けて!」


「ユウマ! 気を付けて!」


 セーラちゃんとアリスさんの声が聞こえてくる。


 二人を見送って、全速力で爆発から落ちたフレイムタイラントに向かって走り出した。


 首都の方からは特になんのアプローチもないけど、城壁にたくさんの人が集まっているのがわかる。


 草原を駆け抜けて、遠くに傷ついた赤いドラゴンの姿が見える。


 走って来る僕を見てからか、僕に向かって咆哮を放った。風圧がここまで届く。


 体で感じる風圧だけでもフレイムタイラントがどれだけ強いのかがわかる。


 対峙するフレイムタイラントは絵に描いたようなドラゴンのそれで、全身を赤い鱗で覆われていて、黄色く鋭い目、頭部に二つの角、巨大な翼の迫力が凄まじいものだ。


 さっきの爆発を受けてから、全身がボロボロになっていて、翼に無数の小さな穴が目立つ。


 ここでフレイムタイラントを止めないと、首都に何らかの被害がでるかも知れない。


「――――発動〖炎帝〗!」


 全身が爆炎に覆われる。一気に身体能力が上昇したのを感じる。


 あまり時間がないので、このまま一気に畳み込む。


 フレイムタイラントの口から炎が吐き出される。


 僕の全身が火炎ブレスに包まれるけど、熱さは全く感じない。


 炎帝の効果はステータスが上がり、爆炎を操れるだけではない。自分の体が爆炎属性となることによって、炎の攻撃は全く効かなくなる。


 念のためフレイムタイラントを試してみたけど、全く問題ない。


 ただ火炎ブレスの風圧に当てられて前に進めない。


 爆炎の中から地面に向かって飛んで行き、今度は地面を繰り飛ばして真っすぐフレイムタイラントに走って行く。


 フランベルジュに爆炎を纏わせて爆炎斬撃を放つ。


 フレイムタイラントに直撃した斬撃は鈍器でぶつけたような音が響く。


 斬撃に当たって傷一つないし、爆炎のダメージもなさそうだ。


 お互いに炎属性だからなのか、お互いの攻撃が効かないんだな。


 そうなれば――――直接攻撃だ!


 フレイムタイラントの脚部分を斬りつける。鱗が硬いと聞いていたけど、思っていたよりもずっと硬い。


 遥か高くから見下ろしているフレイムタイラントの鋭い目から圧倒的な殺気が放たれる。


 前脚を大きく振り上げて僕がいる地面を叩き続ける。


 一撃一撃が地面を叩く度に重低音と共に抉られた土が周囲に吹き飛ぶ。


 炎帝モードなら避けられない速度じゃない。


 タイミングを見計らって振り下ろされた前脚を利用してフレイムタイラントの体内に登って行く。


 一気に上部に向かって上がって行きながらフランベルジュで体を傷つけてみるが、やはり鱗に刃が通らない。


 となると、やはり狙い目は鱗以外になる。


 僕が登っているのを知ったフレイムタイラントが翼を広げて飛ぼうとするけど、ボロボロになっていて飛べなかった。


 それでも風圧が凄くで油断したら飛んでしまいそうだ。


 前脚から体から背中に移り、がっつり上がって頭部を目指した。


 頭部に着いて、爆炎の手を二本作って頭の角を握る。これでどれだけ動かれても振り落とされる心配はない。


 顔の正面に向かうと、目の前に黄色の瞳が目の前にいて、ドラゴンの圧倒的な雰囲気を感じる。


 フランベルジュを刺し込もうとした時、フレイムタイラントが目を瞑り、鱗で目を守った。


 やはりこのままでは攻撃が通らないんだね。さすがはSランク魔物だ。


 そこで秘策として、次なる手として――――炎帝の炎に魔素を流し込む。


 マシューとの戦いで炎帝の炎が気によって作られてるのがわかった。そこに魔素を流し込むことで次なる炎――――蒼炎状態になれることがわかった。


 僕の全身を覆っていたあかい炎があおい炎に変わっていく。


 どうして首都を狙って来たのかはわからないけど、多くの被害者を産む前にここで食い止めないといけない。


 全力を込めたフランベルジュは蒼い光を輝かせてフレイムタイラントの鱗を――――貫いた。

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