第78話 光魔法エーテル

 目の前の大きなクレーターと共に、蒸気で視界が歪む。


 僕が放った大技の跡だ。


 ただ、目的だった相手は、その中心部にボロボロになっている虹色のバリアを張って全身が傷だらけのまま立っていた。


「はあはあ……い、一体何者だ!」


「僕は――――――フェン先生の出来の悪い弟子だ!」


「くっくっ。一本取られたな、マシュー」


「ちっ!」


 容赦なく蒸気の中で攻撃を仕掛けるフェン先生と、それを懸命に防ぐマシューは僕の大技を喰らってから明らかに速度が落ちている。


 全身が傷だらけだから動ける方が不思議なくらいだが、それが聖騎士の凄さなのかも知れない。


 そもそもフェン先生がいなかったら僕の大技を当てることすらできなかったはずだから。


 すぐに僕も彼の後方から攻撃を始める。


 一分の攻防が続き、フェン先生の圧倒的な攻撃にマシューの体勢が崩れて、僕の攻撃で完全に無防備となった。


 次の瞬間、フェン先生の攻撃を避け切ることができなかったマシューの左腕が宙を舞った。


 それと同時に彼は懐の中から不思議な宝玉を取り出して地面に叩きつけた。


「避けろ! ユウマ!」


「はいっ!」


 急いでその場から離れると、地面に叩きつけられた宝玉から凄まじい魔素の流れを感じる。


「急いで逃げるぞ!」


「は、はいっ!」


 そのままセーラちゃんを抱きかかえて馬車のところに移動する。


「ステラ! 全速力だ!」


 すぐに馬を走らせて馬車がどんどん遠ざかっていく。


 凄まじい気配の中、斬られた左手を抑えながら怒りに染まった表情でこちらを睨んでいる彼と目が合う。


 三分が経過して〖炎帝〗が終わり、僕の体を纏っていた炎が消える。


 もっと……もっと強くならなければ。


 それと同時に後方から真っ白な大爆発が起きた。爆風も爆音も響かず、ただ空の向こうに真っ白な爆発雲が広がって、数十秒後には何もなかったかのような静寂に包まれた。


 その時、荷馬車内に何かが落ちる音がして、すぐにプリムさんの「フェン!?」と驚く声が響く。


「「「フェン先生!?」」」


「…………少しやられただけだ。心配すんな。それよりも腕をさらに上げたな。マシュー」


 大きな怪我はないけど、全身にかすり傷がちらほらと見える。


「剣に毒を仕込んでいた!?」


「レインボーフロッグの毒……これが治せる魔法が使えるのは聖女クラスだけ……」


 恐らく即効性の毒ではなさそうだが、一度傷口から体内に入ると時間を掛けてゆっくりと蝕んでいき、やがては命を奪い取る毒なのだろう。


「マシューらしい毒だな……」


「プリムさん。この毒を治すにはどうすればいいんですか!?」


「エリクシールというエルフだけに伝わる最高峰の薬を使うか、エーテルという光魔法が使えたら治せるのだけど、エーテルが使える人はとても少ないわ」


「っ……プリム。お前は魔法を使うな」


「フェン! 今はそういうことを言う――――」


「ん? エーテルでいいんですか?」


 全員が僕に注目する。


 【エーテル】という魔法にはとても覚えがある。村でも母さんだけが使えた回復魔法だったけど、時折使っていたのを見たことがある。僕が聖都に向かう前にも魔法を色々教えてくれたからしっかり覚えているのだ。


「えっと――――ひとまず、先に使いますね? エーテル光魔法・極級!」


 僕の両手から銀色の光が溢れ、荷馬車内に広がり始める。


 使うのは久しぶりだけど、母さんから受け継いだ力だからこそ、いつ使っても慣れたように使える。


「綺麗……」


 セーラちゃんが光りに見惚れて口にすると、アリサさんもそう話したが、一番の問題はステラさんだった。もはや声にならない声で何かを叫んでいた。


「まさか極級の光魔法をこんなに簡単そうに使う人がいるなんて……長生きしていたつもりだけど、私にも分からないことだらけね」


「あはは……フェン先生? お加減はどうですか?」


「ああ……力が抜ける感じはない」


「毒は消えても失った体力が戻るわけではありませんから、フェン先生はゆっくりしててください。このままジパング国を目指して走ります」


「頼んだ」


 フェン先生が眠りについて、僕はステラさんと一緒に馬を引く。


 後ろからプリムさんとセーラちゃん、アリスさんで光魔法の談義が始まり、ステラさんは僕の左腕に絡んで離してくれなくなった。


「ねえねえ、ユウ? 私もエーテルが使えるようになるかな?」


「すぐには厳しいと思うけど……ひとまず、〖着火〗から練習しよう?」


「それもそうだね。急がば回れというし、一つ一つ頑張って覚えないとユウみたいに素晴らしい魔法使いにはなれないからね。自分の才能を怠けて魔法の練習を怠っていた私は本当にダメだね。でもね? ちゃんと毎日〖着火〗の練習は続けているよ? 本当だからね?」


 あはは……ステラさんって魔法のこととなると人が変わったかのように饒舌になるし、ものすごく密着してくる。


 それに気づいたセーラちゃんがやってきて、僕とステラさんを引き離した。


 そんな時間を繰り返しながら僕達はジパング国領に辿り着いた。


 あれから聖騎士が追いかけてくることはなく、僕達はジパング国の首都エンハーレスを目指してさらに馬車を走らせた。

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