第77話 炎帝と新技
「フェンデリック様。アルビノとそこの族長の娘を渡してもらえませんかね~」
「渡すと思うか?」
「いえ、言ってみただけです」
二人の会話が終わってすぐに目にと止まらぬ速さで二人の剣がぶつかり合った。
ただ、片方の剣は僕が止めている。
「へえ~お弟子さんですか? 中々に――――弱いですね」
マシューと呼ばれた男が持つ二振りの剣のうち、僕が止めている剣がフランベルジュの刃を滑るように突いてきた。
その間をもう一つの剣が鋭く現れてマシューの剣を止めた。
「セーラちゃん……!」
たった一瞬だけど、ステラさんが馬車の馬を急いで止めにかかり、アリスさんがプリムさんを抱きかかえているのが見えた。
「よくやった」
フェン先生の声と共に、荷馬車内に風が吹き渡り、二人の姿が見えなくなった。
「ユウくん。周りに敵はいる?」
「ううん。周りには誰もいないよ」
ただ気になるのは、僕の〖探索〗の全力範囲外からここまで届くまで一瞬だった。本当に気づかないくらいに。
それには考えられるのが二つ。とんでもない速度で来たのか、探知できない方法で隠れていたのか。
ひとまず、それは後にして、フェン先生を追って止まった馬車から外に飛び出る。
外ではフェン先生がマシューと剣を交えていた。凄まじい速度でぶつかり合う二人に背中から冷や汗が流れる。世界最強である聖騎士の戦いの凄さを目の当たりにしたせいだ。
「ユウくん。私が先に先生の助けに入るね。周りの警戒をお願い」
大きく息を吸って吐いたセーラちゃんの体からオーラが纏う。そして、飛び出した彼女はマシューの後方から攻撃を始めた。
それすら織り込み済みだと言わんばかりに、マシューは前方にフェン先生、後方にセーラちゃんと戦い始めた。
攻撃力ならフェン先生の方が遥かに強いんだけど、速度では二人を圧倒している。
フェン先生がいなかったらセーラちゃんも防戦一方を強いられそうだ。
三人の戦いがどんどん激しさを増していき、数十秒の戦いのあと、セーラちゃんがこちらに下がってきた。
「あ、あの人……とんでもない強さよ…………はあはあ……」
全身が汗だくになったセーラちゃんが悔しそうに二人の戦いを見つめた。
「このままではフェン先生でも難しそうだ」
「うん。いくら剣術や力が上回っていても、速度で追いつけられないと厳しいね」
「セーラちゃん。これから僕も参戦するよ。三分しか戦えないから、少し体力を温存しておいて」
「わかった。気を付けて。ユウくん」
「うん」
二人の戦いに集中する。ほんの少しだけ時間がスローモーションになり、二人の戦いの付け入る隙を伺う。
マシューは両手に持つ二振りのレイピアに多めのオーラを纏わせている。足りない力をオーラで補っているけど、彼の強さはそのオーラを維持させてフェン先生と戦っている点だ。
速度だけじゃない。気の量も普通の人では想像もできないくらいに高いんだ。
マシューとフェン先生の呼吸のタイミングに自分の呼吸を合わせる。それで戦いの流れを掴むことができる。
父さんは剣術だけでなく武術も鍛錬していて、剣がなくても森の魔物を倒せるくらい強かった。僕も剣が使えない時のために、色々教わっている。フランベルジュはいつでも持ち運びができるからいらないのかなと思ってたけど、武術は剣術とは違い、相手の力を逆利用できたりするので、それも戦いに盛り込むように教わった。
二人が微妙に距離が空いたその時、〖炎帝〗を発動させる。
フランベルジュにも炎帝の炎が乗り、元よりも強い炎をも纏える。
「っ!?」
〖炎帝〗を発動させると全てのステータスが最高値になるので、感覚がより鋭くなり速度も跳ね上がる。
一瞬で距離を縮めて、マシューがしっかり両足を足に付ける前に、足元を斬りつける。
「ちいっ!」
マシューの全身から水の龍が現れて、僕の剣を受け止めた。
「先生! あまり持ちません!」
「おう! 後ろを任せたぞ!」
「了解です!」
僕達と距離を取ろうと後ろに飛び跳ねる彼をも上回って、僕が後ろに移動する。
「炎の獅子……速度まで跳ね上がってるってか!」
彼の周囲に赤、水、黄、緑の拳くらいの玉が現れて、色を帯びた雷を周囲に放ち始めた。
フランベルジュを右手に、左手に炎の剣を作って二振りの剣をクロスさせて持ち上げる。
リグルード戦で覚えた爆炎の斬撃。それを炎帝の炎を乗せた双剣で放つ。
初めて炎帝に自分の魔素が流れるのを感じる。今まで気しか乗せられなかった斬撃に炎帝の爆炎と魔素を一緒に乗せると、赤い色の炎が青い炎に変わった。
「
青い爆炎がマシューを飲み込んだ。
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