第76話 白紙の英雄

 馬車旅は元々プリムさんとフェン先生が代わり代わりに御者をするつもりだったけど、僕の提案で馬を引いてくれるのは――――なんと、アリサさんに力を貸してくれる精霊たちが力を貸してくれた。


 どうやら馬たちには精霊を見る力があるらしくて、精霊と馬が仲良くなって御者がいないのに正確に馬を引いてくれる不思議な構図となった。


 移動中、僕達はひたすらプリムさんとフェン先生の授業を受けた。移動中なんで実技はできないので、ずっと座学を教わった。


 聖都から東に伸びた中央道は人の往来が多いので、僕達は南下してから東に向かうことにした。


 それとステラさんからようやく魔法の解禁の許しが出た。というのも僕自身が魔法をすっかり忘れていたのだ。戦いでも使わなかったとステラさんにはものすごく怒られたけど、リグルードとあれだけのハイスピード戦で魔法が咄嗟に使える程にはまだなっていない。


 恐らく魔法を駆使してても剣術に頼った戦いになったと思う。


「まさかユウマくんがそこまで強い魔法が使えるとはね。でも使う場面は考えないとね」


 魔法についての授業はプリムさんが担当してくれて、学園よりもより深い授業を受けられた。


 僕が現在使える魔法を全て明かすとプリムさんも驚いてくれたけど、それよりもステラさんは泡を吹いて倒れてしまった。


「ユウくんってそんなに魔法が使えるのに剣術まで使えるって凄いね。本当にどうして無才なのか不思議だよ」


「あ~ユウマくんって無才の子だったのね」


「そうなんです。とても無才とは思えないんですけど……」


 あはは……実際無才でありながら、無才ではないというか、絆を繋ぐ才能がある。ただ、それは説明できないし、見えないからね。


「それなら私から不思議なお話をしてあげるわ」


 倒れていたはずのステラさんもいつの間にか起き上がってプリムさんの声に耳を傾けた。


 ステラさんの状況に関わらずこういうマイペースなところは尊敬する程だ。


「昔、白紙・・の英雄がいました」


「白紙の英雄?」


「うん。彼は生まれながら白紙の力を持っていてね。本人一人では何一つ持たない英雄だったんだ。でもね。彼は本当に優しくて色んな人から好かれるようになった。でも彼の力はあくまで白紙。強くなることを許されず、ずっと練習を続けても決して強くなることはなかったの。でも彼に転機が訪れたわ。彼の優しさに同調する仲間たちがどんどん増えて、そのうち一人が彼にこういったの」


 両手を合わせたプリムさんは声を少し変えて話し始めた。


「白紙の英雄さんが強くなれないのは白紙という才能のせいですよね。それならば、その白紙に私の力を書いてあげます――――と」


 また通常のトーンに戻る。


「そうして彼の白紙に仲間たちは、今まで自分達が培った全てを書いてあげました。白紙の英雄さんは最初こそは断っていたけど、彼らの想いを聞いて、彼らの想いを背負う覚悟をしました。そして、白紙に無数の強さを書かれた白紙の英雄は、書かれた力を全て使えるように成長したのです。彼は仲間たちの想いを一身に受けて仲間たちと共に世界の闇を払ったのです。そして、彼は最後の最期に――――『絆の英雄』と呼ばれるようになるのでした」


 プリムさんが最後にという言葉を発した時、僕の心臓が高鳴った。僕が持っている才能と同じ名前だ。


「プリムさん! その絆の英雄さんはそのあとどうなったんですか?」


「う~ん。そこまでは書かれていなかったわ。でもね。とある文献に仲間の全ての力を受け継いだ絆の英雄さんはやがて人々の前から姿を消したとされているわね。きっとどこかで幸せに暮らしたんじゃないかしら」


「そう……ですか」


「ふふっ。この物語はね。初めて聖騎士なったみんなに伝える物語なんだ」


「聖騎士!?」


 意外な答えに驚いた。どうして聖騎士にそういう話を?」


「白紙の英雄。絆の英雄。それが過去に本当に実在したのかは文献でしか確認できないけれど、今の時代で絆の英雄になるべきは――――聖騎士だからよ。女神様の意志を継ぎ、世界の平和を守る英雄。人々を繋ぎとめる英雄。聖騎士はそうあるべきだと、この話が長年続いているの」


「それなのに今の聖騎士だったら…………」


 一緒に話を聞いていたフェン先生のわざとらしい溜息が聞こえてきた。


「女神様が選んだ勇者様。女神様が選んだ聖女様。彼らに従うことこそが聖騎士だと主張しているからな」




 その時、聞きなれない声が聞こえてきた。




「その通りですよ? フェンデリック様」


 声が聞こえてきたのは、荷馬車の後方。


 そこには荷馬車の細い足止め用の木材の上に立っているのは青い髪と幼い顔で真っ白い鎧を着ている少年だった。まだ僕とそう違わない年齢に見えているのに、凄まじい迫力を放っていた。


「早かったじゃないか――――マシュー」


「ふふっ。馬車くらいで逃げられるとでも? それなら走った方が早かったでしょうに~まあ、アルビノ・・・・がいる以上、そうはいかなかったでしょうね」


「全員動くな」


 フェン先生の静かな声が響く。現状がどれくらい緊急時なのかが伝わってきた。

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