第75話 覚悟

 プリムさんの予想通り、アリサさんはすぐ馬車から飛び出て行こうとした。すぐにユグランドに戻りたいとのことだ。


「アリサさんの心配は分かるわ。でも貴方が向かっても何一つ変わらないし、逆に勇者側の人質になって困らせるだけよ」


 さらに光の精霊を使って逃げられないようにしてようやく落ち着いた。


 一体何が起こっているのか分からないけど、少なくとも僕達が聖国や聖騎士から追われているのは理解できた。


 フェン先生曰く、僕達もエルフ族をかくまったと一緒に捕まるそうだ。


「フェン先生。これからどうするんですか?」


「このままジパングに入りたいところなんだが、食糧も調達しなければいけないし、このまま町を経由しないといけないな」


「食糧……食糧さえ解決できれば町を経由せずに向かえますか?」


「そうだな。できれば町には寄りたくないからな」


「それなら僕が何とかします。そのままジパングに向かいましょう」


「そうだな。しかし、そろそろ夜が深い。このままでは移動もできないから一度休もう」


 馬達も休まないといけないからね。


 〖探知〗を使って近くで休みやすい場所を探すと丁度小さな湖があったので、そちらにフェン先生を誘導して休みとなった。


「腹、減った。ユウ。食べ物、ちょうだい」


「そういや何も食べてなかったね。ちょっと待ってね」


 まだ学生だけど冒険者になったんだから、もしかしたら遠征なんてするかも知れないと思って買っておいた野宿セットを『異空間収納』から取り出す。


「ユウくん!?」


 セーラちゃんが驚く声を出すけど、笑顔で首を横に振る。


 僕が『アイテムボックス』のようなスキルを持っていると周囲には秘密にしていた。誤解されてしまって色々大変な目に遭うかも知れないからと。


 でもこうしてアリサさんを助けてくれたフェン先生とプリムさんなら僕は信頼できると思う。


「アイテムボックス持ちだったか」


「こういう時は凄く便利なんですよ? ご飯とかも入っているので食事は任せてください」


 母さんが作ってくれたお料理が僕一人でも一年は食べられるように入っている。これも都会に出て食事に気を使わなくて済むように母さんが心配してくれたおかげだ。


 聖都では食事に不自由していなかったから全く減ってないけど。


 みんなの分を取り出す。そういえば、全部弁当箱に入っているからとても便利だ。


「えっ!? 暖かい……?」


「プリム。詮索はやめとけ」


「う、うん」


 ステラさんが「いただきます。お母様」と答えるとセーラちゃんもすぐに真似して食べ始めた。


 母さんが作ってくれた弁当だってどうして分かったんだろう?


「アリサさん? 食欲ない?」


「…………」


「じゃあ、これ食べる?」


 アリサさんが好きな食べ物は肉類よりも植物類の方が好きだったりする。エルフの国は森の中で、植物をメインで食べると言っていた。お肉はあまり好きではないらしく、必要最小限でいいという。


 植物と言ってもいくつもあるけど、アリサさんに限っては木の実類をものすごく好む。


 村でも人気のおやつの木の実を取り出す。果物とは違って外側は硬いけど、隙間にナイフなどを入れて開くと中に綺麗な白色の実が出てくる。自然の甘さが口いっぱい広がって、食欲をかき立てる木の実だ。


 アリサさんの視線が木の実に向く。


 ナイフで優しく殻を広げて、中身を食べやすくしてアリサさんに渡した。


「アリサさん。ユグランドって世界でも凄く強いって聞いてるけど、本当?」


「もちろんよ! みんな弓術にも長けているし、精霊の加護もあるから絶対に負けないわ!」


「じゃあ、僕達がやるべきことは――――今を生きて強くなることだね。強くなってさ。兄さんを……勇者を止めにいこうよ」


「!?」


「僕も今すぐユグランドに行って兄さんに真偽を問いたい。でもね。今の僕では兄さんに手も足も出ないくらいに弱い。だから強くならなければならないし、強くなりたいんだ。聖都でもそうだった。リグルードに勝てなくて、最後は助けられなかったら僕は生きていないと思うんだ。それを救ってくれたのもアリサさんだよ。僕に何ができるかは分からないけど、アリサさんに助けてもらったこの命で、絶対にユグランドを、世界を救いたいんだ」


「ユウマ……」


「でも僕一人じゃ弱すぎるから、セーラちゃんもステラさんも――――アリサさんも一緒にいて欲しいんだ。ジパングまで向かう間、フェン先生もいらっしゃるから僕達ができることをやっていつか勇者と対峙するまでに強くなろう?」


「…………」


 アリサさんは何も言わず、木の実を受け取った。


 可愛らしい小さな口を広げて中身を食べると、彼女の頬に小さな雫が落ち始めた。


「今はユグランドの無事を信じて強くなろう」


 彼女は首を縦に振って答えた。


 色々落ち着いて食事を終えて念のためにみんなの分も準備しておいた野宿用のテントを使ってゆっくりと休んだ。


 見張りは精霊たちが見てくれたので、快適に眠ることができた。


 そして、次の日。


 僕達はまたジパングに向かって走り出した。

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