第72話 報酬
「フェン先生って、教皇様とお知り合いなんですか?」
教皇様ともなれば、聖国の中では一番上の人だと思うのに、そんな彼女にここまで仲良く接しているフェン先生は凄いと思う。
「そうだな。幼馴染?」
「こらっ! 私に育てられたのを幼馴染というな! 昔は私の事、お母さんって呼んでたのに!」
「お母さんとは一度も呼んだことないし、今までずっとプリムと呼んできたぞ」
「むぅ……たまには私をお母さんと呼びなさいよ~」
「嫌だね」
子供じみたフェン先生と教皇様のやり取りに苦笑いがこぼれた。
「それはそうと、私の自己紹介がまだだったね。私は聖国の教皇を代行で務めているプリムローズ・ディア・セイクリッドよ。以後お見知りおきを」
子供っぽい見た目とは裏腹に彼女は優雅な挨拶を披露した。可愛らしいワンピースのスカート部分を軽く摘まんで、足を軽めに下げる。
「教皇代行ですか?」
「ええ。色々難しいんだけど、教皇が選ばれる条件というのは女神様の威光と言われているけど、簡単に言えば女神様の声が聞こえるかどうかなんだ。つまり女神様の声を伝える代弁者であるんだ。代弁者になれる人はその時に最も光魔法が得意な人間だったりするんだ。なので本来の教皇様というのは人間が選ばれるわけで~」
「…………」
フェン先生が少し溜息と共に、教皇様から視線を外した。
「世界に勇者様が生まれたことで、代弁者を人間じゃない者に決められた。それがこのプリムローズ様なのよ~!」
えっへん! って両腕を腰に当ててドヤ顔をする。それがわざとらしさ一つなく、ものすごく似合っている。普段から慣れているんだと思う。
僕とアリサさんが大袈裟に拍手を送るとますます顔が上がって行く。でも身長が小さいので満面の笑みの顔が見えやすくなった。
「プリム。いい加減にしないとまた叩くぞ」
「ひい!」
目にも止まらぬ速さで僕の後ろに逃げてきて、隠れるように顔だけを出してフェン先生を睨む。
「すぐ殴る! フェンのばーか! ばーか!」
「…………はあ……もうわがまま言える年齢か?」
「私は永遠の十八歳です!」
「脳は永遠のガキなのは間違いないな。それにしても、プリムがここまで
「ん~そうだね。凄く澄んだ目をしているから」
「ね~」と言いながら後ろから僕を見上げる。エルフだからという訳ではないだろうけど、彼女の愛らしさも相まって見上げてくる顔は反則級に可愛らしい。異世界に来て可愛らしさだけなら一番かも知れない。
アリサさんとセーラちゃん、ステラさんはどちらかというと、可愛らしさとは違って綺麗さとかかな?
「ねえ。君。精霊が見えるんでしょう?」
「えっ?」
「ほら、この子とか?」
そう話す彼女の手のひらに乗っているのは、白い耳と黄色い体を持つ小さな兎が乗っていた。
「可愛いですね」
「うふふ。やっぱりね~人族なのに、精霊が見えるなんて、私は一人くらいしか知らないわ」
「そうなんですか?」
「ふふっ。アリサちゃんも見えるみたいね」
「は、はい! わ、私……光の精霊様を見るのは初めてで……ものすごく感動しました!」
「初めてみるエルフはみんなそうなるね。この子、こう見えても凄く偉いんだよ? ユウマくん」
気のせいか、教皇様の言葉が終わって、兎がさっきの教皇様と全く同じポーズでドヤ顔をした。
「あはは……教皇様と似てて可愛いですね~」
そう言いながら兎の頭を撫でてあげる。ふかふかした毛並みがとても気持ちいい。
「ゆ、ユウマ!? 光の精霊様を撫でるなんて! だ、ダメよ!」
「えっ? でも触っちゃった……凄く柔らかいよ? アリサさんも触ってみたら?」
「!?!?!!?!?? い、いいのかな?」
「ねえ、君。いいかな?」
光の精霊――――兎さんはコクリと頭を縦に振った。教皇様同様に優しいんだと思う。
アリサさんが恐る恐る手を飛ばして頭を撫でた。
「ふ、ふわああああ! や、柔らか~い!」
驚きのあまり、目を大きく見開いて尖った耳がピクピクッと動くアリサさん。初めてみる姿にちょっと得した気持ちになれた。
「それにしてもこの子が自分を誰かに触らせるなんて珍しいと言うか、二人
「はいよ」
フェン先生が前に出してくれたのは、ぐるぐるに巻かれた一枚の羊皮紙だった。そこには赤色の刻印が刻まれていて開けない。
「これはね。聖都を救ってくれた二人に報酬。聖国が世界の中心から見たら西に位置するのは分かるよね?」
「はい」
「その南にある国――――商業の国『ジパング』への招待状だよ。そこで君達の
アリサさんと僕が同時にフェン先生を見つめると、「はあ?」みたいな顔をする。
「フェン先生ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「くっ……プリム……あとで覚えてろ…………」
そして教皇様の部屋にみんなの笑い声が響き渡った。
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