第71話 教皇

 目を開けると、知っている天井だ。毎日見ている天井だから自分のベッドだと分かる。


 ゆっくりと体を動かして周りを眺めると、いつものテーブルや制服が掛けられている。


 何だろう。昨日はものすごい夢を見た気がする。アリサさんとセーラちゃんとステラさんに…………。顔が熱くなるのを感じる。


 い、いやいや、待て待て。そんなはずないじゃないか。それにしてもガイルくんとセーラちゃんが恋仲じゃないと夢で言っていたけど、夢って自分の願望が見えるって聞いたことがある。


 えっ!? ぼ、僕の願望だと……言うのか!? お、落ち着け! まだそうだと決まったわけじゃない。ひとまず深呼吸を繰り返してゆっくりと立ち上がる。外はまだ明るくなる前だ。


 いつものように外から鳥の声が聞こえて、自然と足が裏庭に向く。


 裏庭に入ると、いつもの姿でアリサさんとセーラちゃんがいた。それと、夢を思い出して顔がさらに熱くなるのを感じる。


「おはよう。ユウマ」


「!? お、おはよぉ……ユウくん……」


「お、おはよ!」


「よく眠れた?」


「う、うん!」


 何か喋らないといけない気がするのに話題が全く見つからない。


 特に言葉を交わすことなく、いつもの素振りを始めた。


 振り下ろすタイミングもゆっくりとして、僕達三人が同時に振り下ろす音が静かな朝の裏庭に静かに広がった。


「ユウくん?」


「は、はい!」


「今日はアリサさんと教皇様に会ってくるんだよね?」


 セーラちゃんの落ち着いた声に少し僕の心も落ち着いた。


「そうだね」


「じゃあ、それが終わったら一緒に露店街に行かない?」


「!? う、うん。い、いいよ」


「やった~!」


「ふう~ん。私も付いていくわよ?」


 目を細めたアリサさんがそう話すと、セーラちゃんも「ぜひ! ステラちゃんも誘うね」と話した。


 素振りを終えて、朝食を食べてからいつもの変わらない日常を送る。


 今日も学園はお休みのようで、今週の連休までは休みになるようだ。聖都はたった一日で復興が進んだのは、常に最先端の職人がいたり、多くの冒険者や騎士さんたちが頑張ってくれたからだ。


 お昼前にセーラちゃんとステラさんに見送られながら学園に向かう。


 通り過ぎる街並みはすっかり元通り活気あふれる姿を取り戻していた。


 学園入口の前に掛けられている橋の横には、今回の戦いで亡くなった方を弔う場所があって、二度目の祈りを捧げる。


 対応が速かったとはいえ、あれだけの襲撃だったのだから亡くなった冒険者もいれば、住民もたくさんいる。


 もし僕がもっと早く祭壇を壊していたら状況は変わっていたかも知れないのに…………悔やまれるばかりだ。


「ユウマ。行こう?」


「うん」


 アリサさんと共に橋を渡り学園に入る。玄関に着く頃、ちょうどフェン先生もやってきて共に普段は入れない聖堂に向かった。




 ◆




 初めて入る聖堂は、すぐに広い礼拝堂となっており、天井から降り注ぐ光で明るく照らされていた。


 女神様の祝福なのだろうか分からないけど、色鮮やかな光の粒子が飛んでいてまるで別世界にでも来たような感覚を味わう。


 たくさん並んでいる木製の長椅子が両側に並んでいる間を歩いて壇上に向かう。


 壇上には一人の人が後ろ向きになって、正面に見えている大きな石像――――女神様と思われる像に祈りを捧げていた。


 珍しく真っ白い長い髪は神秘的な雰囲気を醸し出している。


「教皇。ユウマとアリサを連れて来たぞ」


 祈っていた彼女がゆっくりと起き上がり振り向く。


 真っ白な肌、真っ白な髪、大きな瞳と整った顔が一目見た者なら誰でも美しいと思うだろう。そして、一番気になるのは――――


「エルフ!?」


「違う。普通のエルフではないわ」


 両耳が尖っていてアリサさんと同じエルフだと思うけど、どうやら普通のエルフではないみたい。


 ゆっくりとこちらを見下ろした彼女は笑みを浮かべた。慈悲深く、聖母のような。


「ふふっ。可愛い子たちだね~噂は聞いていたわ。ユウマ・ウォーカー。アリサ・エレイシュナ・ユグランド」


 アリサ・エレイシュナ・ユグランド? もしかしてアリサさんのフルネームなのかな?


「初めまして。アリサ・エレイシュナ・ユグランドと申します。申し訳ございません。まさか教皇様がエルフ・・・だったとは思いませんでした」


「そうね。教皇は基本的に人族から生まれるからね。でも今回は特別よ。なんせ、世界に勇者様と聖女様が生まれてしまった・・・・のですから」


「教皇。それ以上は」


「はいはい~ここで話すのもなんですから、私の部屋に行きましょう~」


 教皇様はそう言いながら壇上から降りた。


 身長は僕やアリサさんよりも小さくて、百五十センチくらいだろうか? 幼さが残る面影や体形なのに、そのうちなる力は今まで出会った誰よりも凄いものだった。


 そして、案内された部屋に入るや否や――――


「痛ッ! な、何するのよ! フェン!」


 フェン先生から拳骨を受けて頭を押さえて少し涙を浮かばせた。


「どこで誰が聞いているかも分からないのに、ああいうことは言うなと言っていただろ!」


「むう! いいじゃん! ちょっとくらい!」


 なんか……この二人って…………兄妹みたいだな。

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