第69話 恋する乙女"達"(三人称視点あり)
フェン先生との話し合いが終わった帰り道。アリサさんとセーラちゃん、ステラさんに明日のことを伝えた。
「そ、そうか……明日は二人で…………」
なんだかセーラちゃんが肩を落とす。
「まさか私まで呼ばれるとは思わなかったよ。私のおかげというより、この子たちのおかげなんだけどね」
アリサさんが愛おしく見つめるのは、手のひらに乗っている可愛らしい緑色の鳥。手のひらに乗るサイズの可愛らしさだ。
「ユウ? 精霊が見えるんだよね? もしかしてそれも練習すれば見えるようになるのかな? 私にも精霊が使役できるのかな!?」
精霊にも興味が出たようで饒舌に喋るステラさんに苦笑いがこぼれる。
「こらっ。精霊は使役するんじゃなくて力を貸してもらうのよ。使役って言わないで」
「そうなの? やっぱり召喚獣とは違うのか。精霊は使役するのではなく、あくまで向こうから認められた者にだけ懐くということか」
あはは……アリサさんの注意で納得してくれたようで何よりだ。
それよりもセーラちゃんが肩を落としたまま歩いた。いつもの笑顔はなくて、なんだか思いつめてないといいけど。
寮に帰って来て、夕飯を食べる時もいつもは仲良いはずのセーラちゃんとガイルくんの間に沈黙が続く。
「どうしたのよ。顔色悪いじゃない」
隣のアリサさんが小さい声で耳打ちをしてくる。
「え、えっと……ちょっとだけ相談乗って……もらえる?」
「うん? いいけど。明日の件もあるし」
食事を終えて、アリサさんと裏庭に向かった。
◆
夕飯を食べ終えてユウマとアリサがアイコンタクトを取って食堂を後にする。
それに気づかないはずもないセーラは、目を大きくして二人の背中を見つめた。
「追わなくていいのか?」
セーラに気付いたガイルが声を掛ける。
「……ううん。私には資格がないから……」
「資格ね~好きな人を好きになるのに資格なんているもんかね~」
「…………」
ガイルの言うことも理解できるが、自分よりもアリサの方が彼には似合うと思うセーラはうずくまった。
最初こそユウマとは友人として接していたはずが、どんなことにも真剣に真っすぐ励む彼の背中にいつしか恋心を抱いていた。
幸いにも自分には『剣聖』という恵まれた才があり、彼との稽古の日々は楽しいものであり、彼との時間を共有する良きものであった。
だが、今回の聖都混乱時にセーラは自分の無力さを痛感した。目の前の魔物を倒す力はあってもユウマの危機に気付けなかった。いち早く気づいたのはアリサであり、真っ先にフェンに相談しようと提案したのも彼女の提案だった。
さらに極めつけは彼女が持つ力。精霊の力を借りてユウマの跡を辿った。セーラは決して自分ではできなかったことをやり遂げたアリサとの大きな壁を感じてしまった。
目が覚めたユウマは精霊が見える珍しい人であり、アリサとの共有点がますます増えていく。その中、自分が二人の仲に付け入る隙はないと思ってしまったのだ。
「セーラ。変」
「ステラちゃん……わ、私にもよくわからないの……自分の気持ちが……」
「ふう~ん。リア充。爆発しろ」
「え!? どうして私にそんな……」
目を細めたステラがじーっとセーラとガイルを見つめる。
「ガイルとの関係。破綻した?」
「ん? なんでそこで俺が出て来るんだ?」「ガイルくんとの関係? どういうこと?」
ステラの質問に二人の声が被る。
「ユウ。二人の関係。壊れたかもって。悩んでた」
「!? ね、ねえ! ステラちゃん! もうちょっと具体的に教えて!」
「まさかユウマめ…………俺とセーラが……
「えっ。違うの?」
ステラの質問に二人は「違う!」ときっぱり突っぱねた。
◆
寮の裏庭にアリサさんとやってきた。
裏庭にはベンチもあるので、そこに腰を下ろす。
「はあ……」
「君が溜息なんて珍しいわね。まだどこか痛いの?」
「い、いや、そういうのじゃなくてさ……やっぱりガイルくんが僕とセーラちゃんの関係を
「あ~そういえば、そんなこと気にしてたわね」
寮に入った時には既に仲良くなっていた二人。多分だけど、二人は元から恋仲だと思われる。ガイルくんと話している時のセーラちゃんって凄く眩しい笑顔というか。僕にもああいう人がいたらいいなーなんて思ったりするけど、僕なんかを好きになってくれる人がいるかは分からない。今はいつかできる……かも知れない恋人のためにも強くなりたい。
正直にいえば、そういう関係よりも僕は兄さんを追いかけたい気持ちの方が大きいけれど、学園に入って少なからずそういう関係を目にする。だからなのか少しだけ意識するようになった。
最近、優しいセーラちゃんは僕のためによく稽古をつけてくれる。今日とかも僕の看病のために付きっ切りになってくれた。その全てがセーラちゃんの優しさだ。
それによって、最近ガイルくんと会話する時間が激減している。いくら恋仲とはいえ、お互いの気持ちを確認する機会がないと、仲が遠くなるのは当然だ。
最近二人を見ていて少し辛くなっていた。連休も大半が僕と一緒に過ごしているので、ますますガイルくんに申し訳なくて、どうしていいかわからない。特に、今日もそうだった。ずっと肩を落としたセーラちゃんを見て、中々言い出せていないのかなと思う。僕としては二人の関係が悪くならないで欲しいんだ。
「もしかしたらセーラって君に――――恋しているのかもね」
「ええええ!?」
「何よ。あれでしょう? ガイルと恋仲だけど、君と一緒に過ごしていたら君が好きになりそうで辛いとかじゃないの?」
「えええええ!? えっ。えええええ!?」
アリサさんの無茶苦茶な推理に驚きを隠せずに声をあげた。
その時、
「ユウくん!」
僕達の前にセーラちゃんがやってきた。
顔を赤らめたまま。
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