第68話 聖都の様子
次に目を覚ました時は、カーテンの向こうから少し光が差し込んでいるのが見えた。
周りを眺めていると、見慣れた天井に制服、テーブル。寮の僕の部屋だ。
「目が覚めた?」
優しい声が聞こえた方向に向くと、笑みを浮かべたアリサさんが見えた。
「アリサさん? お、おはよう。看病してくれたみたいでありがとう」
「おはよう。やっと起きてよかった…………一応、私とセーラとステラで交代で看病していたから、ちゃんと二人にもお礼を言いなよ?」
「うん。ありがとう」
「どこか体痛いとかはない?」
腕をゆっくりと回してみたり、体を捻ってみても痛いところはない。
「どこも痛くないよ~今すぐに走っても大丈夫そう!」
と話すとムッとなったアリサさんが人差し指を伸ばして僕のおでこを軽く押した。
「ダメ。走ったら怒るからね?」
あはは……もう怒ってる気がするけど……。
「分かった。でも動けそうだから少し歩くよ」
「ええ。ほら」
そして手を伸ばしてくれる。また怒られそうなので素直に従ってその手をとった。
手を通じてアリサさんの暖かい気持ちが伝わってくる。
みんなにも心配かけてしまったから感謝を伝えないとな。
食堂に向かうと、ステラさんとガイルくんがいて、二人にすぐに感謝を伝える。
どうやらセーラちゃんは僕の看病を終えて眠っているみたい。
それと僕の衣服を着替えさせてくれたのはガイルくんだったみたいだ。
それから寮父さんに作って貰ったお粥ベースの優しい味の食事を食べた。大怪我したとかではなくてあくまで魔力と気を使い果たしただけなので、意外に元気だ。
食事を終えて体の調子がいいことも確認できたので、少しだけ体を動かす。魔素も気も全部回復したようなので全く問題なさそうだ。
丁度セーラちゃんが起きてくれて、セーラちゃんにも感謝を伝える。少しだけ目元に涙を浮かべてくれて嬉しい。
ただ一つ心配なことがあるなら、ガイルくんが変な誤解をしないといいのだけれど……。
聖都の状況を確認するために寮を後にした。
聖都の様子は思っていたよりもずっと活発で賑わっていた。
壊れた建物が少ないなと思ったら、特殊な才能を持ってる人がいるみたいで、壊れた建物の壁を修復しているみたいだ。
他にも被害を受けた人達のための炊き出しも出ているし、通常通りお店を開いてくれている人も多い。あんな事件があっても、みんなの生活のためにすぐに行動できる聖都の住民は凄いと思う。
花が供えられた場所に手を合わせる。一緒に来てくれたアリサさんもセーラちゃんもステラさんも手を合わせてくれた。
祈りが終わって学園に向かうと、学園でも炊き出しを提供していて生徒たちが大忙しそうに動き回っていたので、僕達もすぐに手伝いに向かった。
炊き出しが終わると、フェン先生がやってきて、僕だけ連れて行かれてしまった。
「元気になったようで何よりだ」
「助けてくださってありがとうございます」
「自分の生徒を助けるのに理由なんかいらん。それよりもあの場所をどうやって見つけた?」
あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
「川の中から魔物の光が昇ってきたのと、地下から不思議な気配を感じたんです。他の地区の可能性もあったんですけど、不思議と東地区が気になって向かってみたら、怪しい祭壇とリグルードがいたんです」
「ふむ…………」
「あ、あの……リグルードは…………」
フェン先生はそれに答えることなく首を横に振った。
恐らく生きていないのだろう……できれば助けてあげたかったけど、ここまで酷いことをしたのなら仕方がないのかな…………だからこそ、死ではない方法で罰を受けて欲しかった。
「ユウマ。今回の戦いでの活躍は素晴らしいものであるし、
「教皇様から!? い、いえ! 僕なんかに勿体ないですよ」
「遠慮しなくていいぞ。それに報酬も考えている。もし欲しい報酬があるなら先に言ってくれれば掛け合っておこう」
「報酬はいらないので、それで住民達に――――」
「はあ~欲のないやつだな~何も報酬と言っても金品だけが報酬ではない。例えばな――――――聖堂に残っている勇者様の記録を見ることもできるし、勇者様に剣術を教えた人から剣術を学ぶとか、色々あるだろう?」
「!?」
フェン先生は僕の心なんか見透かしたかのように兄さんの名前を出す。
金品ではなくそういう報酬なら……受けてもいいのかな。
「まあ、ないならないで俺が勝手に決めるからいいや。じゃあ、明日教皇様のところに行くから、昼前にアリサを連れて来るように」
「アリサさんですか?」
「おう。君を探し出せたのは全て彼女のおかげだからな。彼女の精霊がいなかったら助けることもできなければリグルードを断罪することもできなかった。彼女も大きな功績の立役者の一人だ」
あの地下路に来てくれたのってアリサさんのおかげだったんだ。またお礼を言わないとな。
「分かりました。アリサさんにも伝えておきます」
「おう。んじゃよろしく~」
フェン先生に挨拶をして部屋を後にした。
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