第67話 激戦のあと

「アリサちゃん? そろそろ疲れてない? 交代するよ?」


「えっ? だ、大丈夫! 私、膝枕は得意だから!」


「えっ? 膝枕って初めてだって言わなかった……っけ?」


「えっ!? そ、そ、そんなことないわよ。膝枕なんて得意なんだから!」


「へえ~アリサちゃんはそんなにたくさんの人を膝枕してきたんだ~? ユウくんが初めてじゃないんだ~?」


「!? そ、そ、そ、そ」


 遠くからアリサさんとセーラちゃんの声が聞こえて来る。暗闇の中、体を覆う暖かさがとても心地よい。


 僕はたしか悪魔姿となったリグルードと戦って……爆炎の斬撃を連続で放って……あれからどうなったっけ……。


「ほら、そろそろ代わってあげるから!」


「だ、大丈夫! 私、得意だから!」


「んも! 私にもユウくんを膝枕させてよ!」


「まだそんなに経ってないでしょう!」


「むぅ……アリサちゃんの意地悪……」


 二人が……喧嘩してる……? 早く止めなきゃ…………。


「っ……」


「ユウマ!」「ユウくん!」


 思っていたよりも全身に力が入らない。体が抜け殻みたいで指一つ動かせられない。


 ゆっくりと目を開けると、まだ暗い空で綺麗な金色の波が風に吹かれて美しく揺れていた。


「あ……りさ……ぁん?」


「無理しなくていいからね? もう大丈夫だから!」


「ユウくん。もう大丈夫だから!」


 二人とも違うこと言っているけど、声が被る。喧嘩してないようでよかった……。


 それにしても口も上手く動かせられない。魔素と気を両方使い果たすとこうなっちゃうのか…………ちゃんと覚えておかないとな。


「り……ぐる…………った?」


「リグルードはフェン先生が相手してくれたよ。あれからどうなったか分からないけど……フェン先生は帰ってたよ」


「ふぇ…………せい……そ……か…………」


 フェン先生が助けてくれたのか……きっとアリサさんとセーラちゃんも来てくれたんだね。


 そうか。僕はまた助けてもらったんだ…………僕が弱いばかりに…………。


 ふと、アリサさんの周囲をくるくる回っている可愛い生物が目に入った。色とりどりで赤、青、緑、黄色とそれぞれ形も違う。赤色の空飛ぶ小さなトカゲ? 青い色はヒレと尻尾が付いているから空飛ぶ魚? 緑色は立派な羽根を広げたカッコいい鳥。黄色は小さな子豚? どれも可愛くて個性的だけど不思議な感覚がする。村にいたウンディー姉ちゃんみたいな感じかな?


「あれ? ユウマ? 精霊が見えるの?」


「う……ん……」


「!? す、凄いわね。精霊が見える人なんてエルフ以外では特別なのよ?」


 可愛らしい四体の精霊が僕の元に降りてきて頬をさすってくれたり、胸元に座り込んだりする。重さは全くないけどちょっとくすぐったい。それと同時に不思議と体の中に力が沸き上がるのを感じる。


「魔素転換まで!? ユウマって本当凄いわね……むしろ、人族の中にそういう存在がいるなんて知らなかったわ」


「アリサちゃん?」


「あら、ごめんなさいね。どうやらユウマにも私の仲間たちが見えるみたいね」


「精霊だったよね? アリサちゃんはエルフの中でも四属性の精霊に好かれていて特別だって」


「と、特別ってわけではないんだけど……まま、珍しいわね。見えるのと好かれるのは違うからね。でもどうやらユウマも四属性の精霊に好かれるみたい。私に力を貸してくれているこの子たちがものすごく懐いているのよ。でもどうして眠ってたときは寄り付かなかったんだろう?」


 もしかしたら〖精霊眼〗というスキルが目を開けないと発動しないのかな?


「それはいいとして、ひとまずユウマにも状況を伝えないと」


「そうだったね。ユウくん? 君のおかげでね。聖都は無事だったよ。外に出たデスドラゴンは聖騎士様たちが倒してくださって、ずっと出てきた魔物はユウくんのおかげで止めることができたよ」


 聖都が無事という言葉に嬉しさが溢れ出る。本当に良かった…………。


「どうしても被害はあるけど、でも最悪な事態にはならなかったし、最小限に被害を抑えることができたのは、ユウくんが祭壇を壊してくれたおかげだとフェン先生も言っていたよ。だからね? みんなを代表して――――」


 セーラちゃんとアリサさんが目を合わせる。そして、


「「ありがとう」」


 二人の笑顔と感謝の言葉が僕の胸を染めた。


 そうか……僕もみんなのためになってくれたんだ……。


「ユウくん!?」「ユウマ!?」


 何だか……安心したら……眠…………。


 そして、僕は人の暖かさを感じながら眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る