第66話 最強戦力(三人称視点)
地下路の先にある広間が爆炎に包まれた後、倒れ込むユウマ。
「ユウマ!」
広間に響く女の声と共に、倒れる彼を支えるのは美しい水色の髪をなびかせたセーラであった。
その後ろにはアリサと四体の赤色、青色、黄色、緑色の不思議な生物――――精霊が共に見守っていた。
すぐに精霊がユウマを守るように周囲に散る。
「アリサちゃん。ユウくんは大丈夫。気を失ってるだけみたい」
「良かった……」
ユウマの安否を聞いたアリサは両手を握りしめて、爆炎の先にいる者を見つめる。
「随分と面白い姿に変わったわね? リグルード」
「貴様らもいたのか。丁度いい。ここで一緒に始末してやろ!」
怒りに支配されたリグルードの顔は大きな血管が浮き出て、目が真っ黒に染まっていた。
リグルードがセーラたちに向かおうと体を少し曲げたその時、彼の体が何かの衝撃によって壁に吹き飛ばされた。
壁に直撃したリグルードは何が起きているか理解できない表情のまま、口から紫の血を大量に吐き出した。
「が、がはっ!? な、なにを……?」
「いや~悪かったな~リグルード。ちょっと俺の生徒に手を出してムカついてしまってさ~」
広間に響くのはどこか緊張感の抜けた声。リグルードは受けた衝撃によって定まらない視点を必死に戻す。その視線の先に映っていたのは、ダボダボしたシャツに何の捻りもないただの黒いズボンを履いている何度も見た男――――フェンが立っていた。
「フェン……!?」
「よう。まさか自分の生徒が
「ど、どうしてここに貴様が! 貴様はラファエルが相手するはずじゃ……?」
「あ~あの金髪の姉ちゃんはやっぱりお前らの仲間か。残念ながら
「!?」
リグルードは現状を把握するために必死に思考を続ける。
目の前にいるフェンという人物。『スティグマ』の事前調査によって注意するべき特記戦力の一人であるフェンは、得体の知れない強さだった。強さが計れないだけに注意するべき相手だった。
そんなリグルードを置いてけぼりにするかのようにフェンの声が響く。
「セーラ。アリサ。急いでユウマを連れて地上に戻れ」
「「は、はいっ!」」
二人が気を失った憎きユウマを担ぎ逃げる様を見てもなお、リグルードは目の前の男から視線を外せられずにいた。
信じられない圧倒的な気配。強者の気配。
それは自身が肩を並べたいと願っていた目標でもあるルシファーに匹敵する気配。
まさに『最強』という名が相応しい気配だ。
「ど、どうしてお前がそれだけの力を!?」
「…………『スティグマ』とやらは意外と情報が足りてないな? せめてここまで大げさに事件を起こすならもう少しちゃんと調べるべきではなかったのか?」
「一体何を……?」
「君達がどういう集団なのかは大体分かった。が、君もラファエルとやらも大した戦力ではないことだけは間違いないな」
リグルードが何かを反論しようとしたが、目の前の強敵にすっかり心を折れたため何も言えなかった。
「まあ、それよりも君はやり過ぎてしまったな。少なくとも聖都の何の罪もない住民を巻き込み大きな被害を出して無差別に人の命を
「教皇……? ま、まさか! お、お前は! 聖――――あ?」
リグルードの視界が急に反転して天井を向く。痛みはない。ただただ訪れる孤独に心が消えていくだけ。
「あ……あぁ…………ルシファー様……まお……う…………さ……」
その瞳から光が消え、全身が少しずつ灰になってその場から消え去った。
リグルードの最期を見届けたフェンは大きな溜息を吐いた。
「『スティグマ』か。恐らくはリグルードも
消え去ったリグルードの跡に小さな紫の宝玉が落とされていた。
「なるほど。これが悪魔の力の根源か」
フェンが手に持っていた剣を一度振り下ろすと、宝玉は力なく半分に割れ、リグルード同様灰となって散って行った。
「魔王の封印を解いて何をするというのか。それとも、ただいたずらに世界を混沌に陥れるのか。『スティグマ』か。注意するべきだな」
こうして聖都を襲った脅威はあっけなく終息することとなった。
だがしかし、それはまだ始まったばかりの仮初の勝利であった。
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