第65話 二重爆炎の斬撃
目の前に炎の残滓が散っていく。
その奥に全身がボロボロになりかけたリグルードが見える。目の焦点が合わずに全身を震えさせている。
「き、貴様ああああああ!」
凄まじい音圧が吐き出されて、炎の残滓が一気に散っていく。
彼の肌がどんどん紫に染まっていき、背中に悪魔の羽根が現れる。
「悪魔!?」
「貴様なんぞにこの姿を晒すとは……我にとって一番の屈辱だ」
「っ!?」
「ご褒美にいたぶって殺してやるぞ」
来る! そう思った時は既に悪魔姿となったリグルードが目の前の爪を立てて、僕の顔が貫かれる寸前だった。
咄嗟に上げたフランベルジュに炎を灯した全身を炎に覆わせる。
「ちっ」
リグルードの爪が僕の炎にぶつかると甲高い音と共に強烈な風圧が全身を打ちつける。
風圧に体を乗せて一気に距離をとる。
次に合わせて剣を構えると、飛んできたリグルードのキックが右側から飛んでくる。
剣を逆さに持って強烈なキックを受け止める。
「っ……!」
「貴様のような無能が我ら『スティグマ』に立てつくなんて、罪を知れ!」
「罪を知るのはあんただ! 一体どれくらいの罪なき人々が苦しんでいると思うんだ!」
一瞬気を抜くだけで死と隣り合わせの戦いを続ける。
さっき使った爆炎の斬撃はあと二回が限界だ。でもこのまま戦いが伸びれば二回目すら怪しい。
「愚民どもなど生きているだけで罪だ。全員滅ぶといい!」
「あんたたちは一体何がしたいんだ!」
「我らは――――魔王様の復活。貴様らのような無能愚民どもの血で魔王様を復活させるのだ!」
魔王!? この広間に到着した時、悪魔の頭の祭壇があった。
もしかして……あの頭が!? そういえば、先から僕の視線に祭壇が映らない。これは――――僕の意識から祭壇を遠ざけるためにわざと死角に追いやっている?
聖都に魔物が溢れ続けている理由って、ここにリグルードがいるからではなく、あの祭壇の特殊な力!?
もう一つは魔物を産み続けている理由は? 『無能愚民どもの
必死に戦っているはずなのに、思考は冷静に考えられている。相手の攻撃は僕の方が速度が遅いけれど、戦いの経験によって先読みによって何とか保っている。反射によるものだけど、父さんやセーラちゃんとの稽古がためになった。
祭壇は現在僕の死角、真横にある。
リグルードもさっきの爆炎の斬撃を撃たせたくないようで、攻撃の手を緩めていない。一見、リグルードに攻められているように見えて、実は焦っているのは彼の方だ。寧ろ僕の方が落ち着いて反応できている。
右側真横。そこに祭壇が…………チャンスは一度のみ。失敗は許されない。
何度も剣を交えながらチャンスを伺っていく。
タイミングがないと思われがちだけど、たまに一瞬の隙が生まれている。リグルードが妙に焦っているからだ。
冷静にそのタイミングを待つ。
「無能の分際で! 貴様!」
ここだ!
フランベルジュに炎を灯して一度目は右から左に斬る。
それに慌てて僕から見て大きく
やはり祭壇を極力僕の視界に入れさせないようにしている。
右から左に流した斬撃にはまだ爆炎の斬撃を乗せていない。真っすぐ左に剣を向けて刀身に爆炎を燃やす。
祭壇の反対側に立ち爆炎の斬撃を受けようとする彼を見つめる。
「どうして魔王を産もうとしているのかは分からないけど、あんたたちなんかに人類が負けたりはしない。だから、ここであんたの
「なっ!? ま、まさか!」
左に真っすぐ伸ばした剣を地面から真横に引っ張り斬りこむ。
祭壇に向かって爆炎が放たれる。
「貴様あああ!」
凄まじい速度で祭壇の前に飛んでいき、爆炎を受け止めるリグルード。
でもそれもまた予想通りだ。
「ここで僕が死んだとしても、未来を繋ぐために。その祭壇は絶対に壊す!」
二度目の爆炎の斬撃を放つ。
「や、やめろおおおおお!」
爆炎の斬撃が爆炎の斬撃の飲み込みより大きくなってリグルードと祭壇を飲み込んだ。
祭壇が爆炎に包み込まれて灰になっていくのが見えた。
全身を覆っていたオーラが気の使いすぎて保てず、その場に膝をついた。
気と魔素を一気に使い果たして胸が苦しい。体が動かせられない……。
祭壇が灰になったことまでは確認できたので、これで聖都の人々は助かるだろう。それならそこに想いを繋いだのなら良かったと思う。
ふと、大粒の涙を浮かべたアリサさんとセーラちゃん、ステラさんが頭に過る。
「また……一緒に……冒険に……行き…………た……かっ…………」
自分の体が倒れるのを感じた。
「貴様あああああああ! 許さんぞおおおおおおお!」
遠くから怒りが込められたリグルードの声が聞こえた。
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