第64話 使えない切り札。閃く切り札。(三人称視点あり)
痛む体を起こして全力で横に飛ぶ。
僕がいた場所にギザギザの剣が叩き込まれて爆音を響かせると同時に周囲に瓦礫が吹き飛んでいく。
「そういや貴様。今日不思議な力を使っていたな?」
彼が話す不思議な力というのは恐らくレジェンドスキル〖炎帝〗のことだろうと思う。
「使うまでもないかな……!」
「くっくっ……ふざけやがって! 貴様もあの女剣聖も全員ぶっ殺してやる!」
リグルードの顔が怒りに染まっていく。
フランベルジュに魔素を通して炎を纏わせる。
できればスキル〖炎帝〗を発動させたいんだけど、あのスキルの一番の問題としては一日一回しか使えない上に三分しか持たない。その上、使っている時でも時間が残っていたとしても途中で切ると再使用ができない。
リグルードを多く黒にも紫にも見えるオーラにこのまま勝てるかどうか不安を覚える。
でもそんな弱音を吐いていても現実は変わらない。自分が今日までやってきたものをここでぶつけるしかない。
僕の剣と彼の剣がぶつかり合う。
技を駆使しながらフランベルジュに魔素で纏わせた炎とオーラを両方使うので細心の注意を払う。特に炎はただ魔素を注ぎ込んでいるので問題ないけれど、それと同時にオーラまで纏わせているので、少し間違うと無駄なオーラを使ってしまう。
スキル〖炎帝〗は使えないけど、彼の速度にもギリギリ追いつけていて、剣をぶつけ合うことができている。
ただし、こちらにはあと一歩が届かなくて決定打を与えられず、必死に追いつくだけだ。
リグルードはますます怒りに染まって、顔には血管が浮き出て目が真っ赤に染まっている。
「無能枠の分際でふざけるな!」
どんどん怒りに染まる彼の攻撃が単調になるが、その分パワーと速度が上がっている。
普通の剣じゃないのでギザギザの部分に引っ掛かって軌道が少しズレる。
一撃一撃が強烈でオーラで何とか跳ね返すが、少しずつ追い詰められるのが分かる。
一歩ずつ後ろに引いて行き、背中が壁にぶつかった。
口角がニヤリと上がったリグルードの剣が禍々しい炎を灯して振り下ろされた。
フランベルジュを真横に向けて炎を吹かして、その勢いで自分の体を真横に吹き飛ばした。
僕が立っていた場所に叩き込まれた斬撃で爆発が起きて、リグルードの斬撃の強さを目にした。
「貴様……! 逃げることしかできない能のない雑魚がああああああ!」
フランベルジュに爆炎を灯らせる。
炎を吹かせるのなら、このまま爆炎による斬撃を飛ばせると思う。
剣に灯らせた爆炎を斬撃と共に振り下ろそうとしたその時、頭の片隅に兄さんの斬撃が過る。
どこまでも美しい斬撃は、真空を切り裂き美しい音を響かせる。それは僕に夢と目標を与えてくれた始まりの音だ。
フランベルジュに爆炎。剣にオーラ。それらをさらに別で練り上げた気を使って事象を発現させる。気を斬撃に乗せて真空を斬る。
父さんから授かった〖炎帝〗がなければ強敵に抗えない弱い自分。いつか乗り越えたいと思っていた。
それが今。
自分が今まで培った努力を斬撃に乗せる。
全身から魔素と気が一気に消える感覚が伝わってくる。
そして――――僕が放った斬撃は凄まじい爆炎となり、リグルードをも飲み込んだ。
◆
ユウマがリグルードと対峙していた頃。
聖都の外では六人の聖騎士が巨大な魔物――――全身が半分朽ちているドラゴンと対峙していた。
「デスドラゴンなんて珍しいものを見たね」
青い髪のまだ幼さが残る聖騎士がまるでピクニックにでも来たかのように軽い口調で話す。
「おいおい。油断するなよ?」
「ふっふん~僕一人にやらせても~」
「だーかーらー油断するなっつっ――――」
青い髪の聖騎士が振り返る。
その目は獲物を見つけた狩人のように本気に満ちていた。
「わーったよ。勝手にしろ」
「ありがと~お~」
笑顔で返答した青い髪の聖騎士は再度デスドラゴンに向く。
「君さ~うちの聖都に火を吐いたらダメじゃん~聖女様に守れと言われた聖都をさ――――雑種があああ!」
両手に細剣――レイピアを取り出した聖騎士はデスドラゴンに向かって飛び上がる。
残像が残るほどに凄まじい速度で飛び込んだ彼の無数の剣戟がデスドラゴンに突き刺さる。
赤、水、緑、土、黄。五色のそれぞれの剣戟がデスドラゴンを貫くと、デスドラゴンは悲痛な叫びを上げながらその場に倒れ込んだ。
上空でゆっくりと落ちて来る聖騎士はニヤリと口角をあげると、空中で地面に立つかのように空気を蹴り上げて真っすぐ倒れたデスドラゴンの頭部に向かって飛び込む。
「全属性破突十閃剣!」
彼の両レイピアがデスドラゴンの頭部に当たると同時にその場に大きな十字架の柱が立ち上がり、デスドラゴンの全身を飲み込んで消滅させていく。
「デスドラゴンなんて大したことないな~もっと手ごたえある魔物はないの~?」
遊びを終えた子供のような聖騎士たちに戻って行った。
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