第62話 冷静な判断
暗くなり始めた世界に、大きな爆発は大きなキノコのように空に広がっていく。
轟音と共に強い熱風がこちらに吹き上げる。
それと同時に聖都内に大きな鐘を音が鳴り響く。
「みんな! 急いで壁の向かおう!」
村の森で狩りをしていた頃、咄嗟の判断は鍛えられている。あの爆発の正体をいち早く確認しないと次の判断に移れない。
「ユウマ! 待て! ここは聖騎士たちに任せるべきだ! 俺達学生が出る番ではない!」
「ガイルくん……!」
「せっかくまだ学園にいるんだ。ユウマとステラちゃんは職員室に向かって先生たちの指示を仰いでくれ。俺は食堂に、セーラは各教室に、アリサさんは建物以外の敷地を回って職員室に向かうように伝えてくれ!」
「「分かった!」」
その場からセーラちゃんとアリサさんが一斉に動く。
ここはガイルくんの指示に従った方が良さそうだ。
僕はステラちゃんと共に職員室に向かった。
職員室に入るとすぐに何人かの先生が右往左往していた。
「先生! これからガイルくんが生徒たちをここに集めます!」
「!? そ、そうか。よし、そのままこの棟の玄関に集めてくれ」
「分かりました!」
その場にいた先生の指示で玄関口にいくと、次々生徒たちがこちらにやってくる。
僕とステラさんは彼らを止めて入口前に待機させた。
大きな爆発の後、何度か聖都に向かって放たれた爆炎がバリアに阻まれて中にまでは入ってこない。が、凄まじい熱風が吹き荒れていて、都民に被害をもたらしている。
学園でもその姿が見えるのに何もできない自分がもどかしい。
でもガイルくんが言った通り、僕一人が出ても状況は変わらない。それならここで生徒たちを集めて集団行動する方が確実だ。
と、その時、中央聖堂から六つの光が爆発がした壁の方に、凄まじい速度で飛んでいく。
「聖騎士様だ!」
一人が指差して呟くと、生徒たちは安堵の息を吐いて歓声を上げた。
爆発でよくみえないが、爆炎を放つのは巨大な何かだ。
しかし、それよりも気になる事がある。
巨大な何かよりも、聖都の地下に違和感を覚える。
全力でスキル〖探知〗を発動させるが、やはり地下はうまく探知できない。
聖都に来た時は、地下に何もないと思って気にしなかったけど、嫌な気配を感じるからには何かによって阻まれていると考えた方が自然だ。
聖騎士と思われる光と巨大な何かがぶつかり合う頃、ようやく園内の生徒たちが全員集まった。
指揮を執るのは校長先生だ。
「まず手短に伝える。外に現れたのは魔物で間違いないだろう。ただ聖都のすぐ近くにあれほど巨大な魔物が現れるのは考えにくい。となると間違いなく何者かが仕掛けたことに間違いないだろう。となるとあれだけとは限らない。そこでこれから組を分ける。Sクラスの生徒は二人一組。Aクラスは四人、Bクラスは六人、Cクラスは八人ずつメンバーに分ける! 学年はバランスよく組なさい!」
すぐにメンバー編成になったのだが、意外にも三年生の引率が上手くてすぐにクラス分けになった。
残念ながら、僕は余ったので一人になったのだが、個人的には都合がいい。
「これから都内に魔物が現れる可能性がある! まだ学生という身分だが、我々の力は正義のためにある! 力なき民を守るのだ!」
その場にいる全員が力強く返事をし、それぞれ四方に散っていった。
僕は離れる不利をして、近くの高い場所――――鐘の塔の上に上がっていく。
そこから聖都全域を眺めながら〖探知〗を全力で使う。違和感を感じる場所を探すんだ。
少し待っていると、聖都の中央を横切っている十字の川から禍々しい光が上がって来ては、魔物となり周囲を襲い始めた。
すぐに助けにいかないとと思った時、ガイルくんの冷静な声が耳に聞こえた気がした。
僕は冷静と言いながら、目の前に全力になるだけで冷静さを欠いている。助けるのは大事だが、他の生徒や聖都を守る騎士たち、聖騎士や冒険者までもが襲ってくる魔物に対処している。
その中で僕がやるべきことは何かと考える。
彼らと共に魔物を撃退するか? 巨大魔物の戦いに参戦するか? でも僕にはまだ実力不足だ。となると、僕がやるべきことは、僕が持つ
地下への違和感。
どうしても地下が気になる。
それに、魔物の姿に変わる光は聖都を区切る十字の川から上がってくる。
川は外から流れて来るが、魔物が侵入できないようになっているはずだ。
となると自然に考えるのは地下路に何かがある? そういえば、誰か地下路に向かっているのか? セーラちゃんから聞いた話では、各地区で地下路が存在していると聞いたことがある。ただ、地下路では各地区間を移動できないので、あくまでそれぞれ地区に独立して存在していると聞く。
この違和感を感じる部分――――――どうしてか、東地区が気になる。
東地区は聖都の中でも特別な地区で、聖国に関わっている人達しか入れない。
でも今なら援護を言い訳に入ることも容易い。
自分の勘を信じて、僕は東地区の地下路への入口に向かって全力で走った。
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