第61話 始まる悪夢(三人称視点あり)
周囲が真っ暗な闇に包まれている場所に、ひと際目立つ祭壇が置かれている。
悪魔の顔にも体にも見える祭壇は、黒い炎が燃えており、そこに祈りを捧げている多くの人が見える。
それらをフードを深く被った人達が眺める。
「勇者の弟はどうだった?」
「大したことありませんでしたね」
「ふむ。では勇者のメンバーとなる女の方は?」
「そちらもそれ程ではありませんでしたが、さすがの剣聖。
男の返事を聞いて「ふむ」と考え込む。しかし、それとは裏腹に答えた男は悔しそうに拳を握った。
頭に過るのは、
(あの無能め……一瞬とは言え、俺に恐怖を感じさせた屈辱……いずれ返してやるぞ)
「それはいい。勇者の方はどうなってる?」
フードを深く被ったもう一人の人が前に出て来る。中から伸びた長い髪から女性だと分かる。
「勇者一行はルシファーの狙い通り、例の場所に
「くっくっ……そうか。遂に来るか。
男性が手を上げると同時に、その場にいた人々が歓声を上げる。
まるで人形のように、その目は赤く染まっていて祭壇に向かって何度も祈りを捧げ続けた。
「カマエル。例の作戦を実行なさい」
「かしこまりました。ミカエル様。一つお願いが……」
「剣聖と弟だな?」
「はい」
「良かろう。では今回の作戦の指揮もカマエルが執るといい」
「ありがとうございます」
(待っていろ……セーラ。ユウマ・ウォーカー)
男は怒りに染まった瞳のままその場を去った。
「ミカエル様。あのままでよろしかったのですか?」
「ふふっ。ラファエルは何か心配なのかい?」
「ええ。純粋な怒りに染まった者は大局を見失いがちですから」
「君の言う事も理解できるが……そうなったらそうなったで、それが魔王様の意向なのだろう。負けるとは思えないが……もし負けた時のために、ラファエルは見張っておいてくれ。もし負けた時は宝玉を回収するように」
「かしこまりました。もしその時の彼らはどうしますか?」
「行かして構わない。まあ、カマエルに勝てるとは思えないがな」
ミカエルと呼ばれた男の小さな笑い声が会場に響いた。
◆
Aクラスに入った日の授業が終わった後、フェン先生に呼ばれて職員室に入った。
フェン先生だけでなくCクラスの担任の先生だったイザベラ先生や、Bクラス、Aクラスの担任の先生、他にも従魔担任の先生まで沢山集まっていた。
「よう。ユウマ。来たか」
「お待たせしました。先生」
「今日はお前の意志を確かめるために呼んだ。セイクリッド学園に入学して良かったと思うか?」
真っすぐ僕を見つめるフェン先生の目は、僕が入学する前に遠くを見ていたけど信念が込められていたその目だ。
「はい。セイクリッド学園は素晴らしいです。みんなが強くなるために日々研鑽して、僕もいい刺激を受けてます」
「…………だがそれはお前の周辺だけだ。最初に入学した時点で、お前を『無能枠』として見て来た連中も多いはずだ」
あの試験からここに来るまで僕は『
でも今ではルミさんを筆頭にみんな仲良くしてくれている。セシルくんも他の貴族のみんなも。
「それは事実です。事実を言われても僕は何とも思いませんし、勇者様である兄さんの弟であり、才能はありません。ですが、そう言われたって僕が僕でなくなるわけではない。僕に剣術を教えてくれた父さん、勉強を教えてくれたマリ姉、毎日朝練に付き合ってくれるアリサさんにセーラちゃん。いつもアドバイスをくれるガイルくんにステラさんも。みんなが僕に教えてくれた力は確かに存在します。無能と言われても僕は僕です」
フェン先生が大きく溜息を吐く。
「やはり、お前の覚悟は相当なモノだな。――――――ユウマ」
「はいっ」
「明日から――――――Sクラスに来い」
「!?」
「Sクラスの生徒はAクラスと比べられない程に高次元の
「は、はいっ! ありがとうございます!」
僕は先生の皆さんに深々と頭を下げる。
自分がSクラスに入れるとは思わなくて、心臓が高鳴る。
いつも僕と手合わせで色んなことを教えてくれたセーラちゃんに報えると思うと嬉しい。
嬉しくてついつい顔が緩んだまま職員室を後にする。
玄関口に行くと、みんなが待っていてくれてこちらに向かって手を振ってくれる。
「みんな! お待たせ。実は明日からSクラスに行くことになったんだ」
「凄い! さすがユウくんだね!」
「君って何もかもが規格外ね……でもSクラスに来て当然かしらね」
「これで、旦那様と、毎日……」
「驚いたな。おめでとう。ユウマ」
「ありがとう! みんな! 明日からクラスメイトとしてよろしくね」
みんなで学校を後にしようとしたその瞬間――――――
轟音と共に、聖都の外にある森の奥で大きな爆発が起きた。
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