第59話 素材解体

 冒険者ギルドに戻ると、僕が助けた女性は落ち着いていてすぐに頭を下げて何度も感謝を伝えられた。


 薬草の鞄を渡すと、採取した薬草の数を覚えていたようで目を大きく見開いて驚いていた。


 もちろん秘密にする方向で話をまとめて別れを告げると、リィナさんがやって来て感謝を伝えられた。


 アリサさんたちが事前にギルドに報告してくれたようだ。


 僕が倒したのはゴウウルフという魔物で、王都の隣の森には生息していない魔物だそうだ。


 Cランク魔物であるゴウウルフがここに降りて来たのはわりと問題になるらしくて、調査する冒険者が組まれるみたいだ。


「ユウマさん。ゴウウルフの素材って高く売れるのですが、どこら辺に置いて来ましたか? 急いで回収に参ります」


「回収ですか? 大丈夫です。持ってきましたから」


「持って……来た?」


「えっと、ここに出したらいいですか?」


「!? お、お待ちください! こ、こちらに」


 リィナさんが顔色を変えてカウンターから出て来て、ある場所に連れて行ってくれた。


 向かった場所は広い倉庫のような場所で、最初に感じたのは――――匂い。


 アリサさんは匂いに鼻を手で塞いで辛そうな表情を浮かべる。


 何だか懐かしいこの匂いは、魔物を解体した時の匂いだ。ここは魔物解体場だと思われる。


 リィナさんも少し辛そうだが、受付嬢らしく我慢しながら向かった先には、ゲオルグさん程じゃないけど大きな筋肉のおじさんが魔物の解体をしていた。


「メディさん~」


「おう~リィナじゃねぇか。どうした?」


「新しいCランク冒険者のユウマさんです。素材買取をお願いします」


「おう~ゲオルグが許可を出した例の新人か。ふむふむ…………見た目はそんなに強そうではないが、中々骨のありそうな顔だな。どの素材だ? 出してみろ」


 メディさんというおじさんにペコリと挨拶をして、彼の前に〖異空間収納〗からゴウウルフ三体を取り出した。


「「「アイテムボックス!?」」」


「やっぱり……」


 アリサさんたちの驚く声が倉庫に響き渡る。


「少年。良いスキルを持っているな。大切にしろよ」


「はい。ありがとうございます。買って頂けますか?」


「寧ろ逆だ。買わせてくれ。ゴウウルフの素材には色んな使い道がある。傷もどれも一撃で仕留めているし、大切な部分は全部残っている。これは素晴らしいぞ。ゲオルグが認めただけはあるな。少年。これからも魔物は極力一撃で素材部分を残すんだぞ?」


「は、はいっ!」


 素材が傷ついたら売り物にならないからね。ちゃんと覚えていこう。


 アリサさんたちが辛そうなのでゴウウルフを預けて急いで戻って来た。


「はあ……君ってどれだけ凄いのよ」


「ユウくんって私達が思っていたよりもずっと凄いね」


「旦那様。やっぱり結婚しよう」


 三人が同時に話したせいで誰が何を言っていたのか聞き取れなかったけど、結婚というワードが聞こえた気がした。


「あはは……やっぱり珍しかったみたいだね」


「珍しいってものじゃないわよ? いい? あれも普通の人には見せちゃダメだからね?」


「わ、分かった。気を付けるよ」


 いつものテーブルに座って待っているとリィナさんがやってきて解体が終わったとのことで、もう一度来てくれと頼まれた。


 三人は辛そうにしていたから僕だけ向かうことにして、メディさんの所に向かった。


「少年。これは売らずに君が持っていくといい」


 そう言いながら前に出してくれたのは、大きなブロック肉だった。


「ゴウウルフの肉ですか?」


「おうよ。お金にはなるが、美味として有名だからな。少年が要らないなら買い取るが、彼女達に振る舞った方がいいだろうと思うぜ」


「ありがとうございます! こちらの肉は持って帰らせて頂きます」


「おうよ。他の素材で三体分として金貨一枚だ。銀貨の方がいいか?」


「いえ! 金貨で大丈夫です」


 銀貨でもいいけど、金貨で支払いたい場面もあるし、既に銀貨はそこそこ持っているからね。


 メディさんから金貨を渡されて、〖異空間収納〗に入れておく。


 挨拶を終えて、今度は受けた依頼の達成を報告して銅貨五十枚をもらって依頼で得られる報酬の差に驚いた。


 でも報酬よりも危険だった人を助けた事実の方が嬉しい。


 今日は手伝ってくれたアリサさんたちに感謝を込めて、寮に戻りゴウウルフのお肉を寮母のサリアさんに渡してみんなに振る舞うことにした。


 夕飯に出たゴウウルフの料理はものすごく美味しくてアリサさんたちだけでなく、寮生の先輩たちからも感謝を言われた。


 村では倒した魔物のお肉はみんなで分けて食べていたから、また懐かしく覚えた。


 またお肉を手に入れたら差し入れしようと思う。




 そんな日々を数週繰り返し、ついに昇進の日がやってきた。

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