第58話 森は危険です

 初めての依頼はリーフという薬草で、森に生えているらしくて簡単だけど結構人気のある依頼みたい。


 森に入ると何だか久々に感じる新緑の香りが懐かしさを感じる。


 ただ、森はものすごい危険なので常に周りをチェックする。


 周りをキョロキョロ見ていると、後ろからアリサさんが声を掛けてきた。


「ねえ、何しているの?」


「森は危険だからね。魔物が現れる前に察知しないと!」


「…………ここら辺にそんな危険な魔物はいないわよ?」


 アリサさんはそういうけど、きっとアリサさんが強いからなんだ。うちの森では油断しただけで食べられちゃうくらい危険だからね。僕にできる範囲で頑張らないと……!


「それって君が住んでいた村の森のこと?」


「そうだよ?」


「どんな魔物が出て来てたの?」


「そうだな~ものすごく大きい蛇とか猪とか?」


「ものすごく大きい……? どれくらいよ」


 頭に浮かぶのはうちの村を囲う森で現れる魔物たち。


「ん~蛇は三十メートルくらい?」


「三十!? そんな魔物出ないわよ! 一体どんな森でそんな魔物が出るのよ!」


 アリサさんの大きな声が森の中に響いていく。


「えっ? 出ないの?」


「出ないでしょう! もしそんな大きな魔物がいるなら聖都からでも見えるでしょうし、凄い噂になるはずよ? 大きさだけで弱いってことはないだろうし」


「ん? でもBランクの魔物よりは弱いよ?」


「Bランク魔物より弱い……でも大きさは三十メートルの蛇? そんなの聞いた事ないわ。名前は分かる?」


「えっとね――――イグって魔物なんだ」


 名前を聞いて何かを考え込んだアリサさんがセーラちゃんたちを見つめると、セーラちゃんもステラさんも首を横に振った。


「聞いた事ないわね。特殊な魔物かしら。まあ、とにかく。そんなとんでもない化け物みたいな魔物はここには出ないから。分かった?」


「う、うん」


「あまりキョロキョロしなくてもいいわよ。それよりも薬草を探すのが目的でしょう?」


「そうだった! 急いで探すよ」


 アリサさんはきっと僕に初めての仕事に専念できるようにアドバイスをくれたんだ。


 僕には素晴らしい仲間がいるんだと再度確認できて嬉しく思う。


 急いでスキル〖探知〗を使う。探知は生まれたばかりだと周囲数メートルくらいだったけど、今では不思議と数十メートルは探知できるようになっている。


 生き物、植物、あらゆるモノが認識できるスキルで、一気に認識できるのはどんな時も大助かりだ。


 薬草のようなモノを見つけたので向かうと、依頼書に描かれている緑色の薬草と同じ薬草が生えていた。


「あら、運がいいわね。こんなにすぐ見つかるなんて」


「あはは……そうかも知れないね」


 それから九か所を見つけて、依頼数の十本を確保した。


「…………ねえ。どうしてすぐに見つけるの?」


「え? え~っと…………たまたま?」


「そっか……たまたまでこんなにも早く見つかるもんなのね」


 楽しくなっちゃって次々採取してしまった……。




「きゃあああああああ!」




 遠くから女の人の叫び声が聞こえる。


 一気に探索範囲を最大にすると、そう遠くない場所に声の主と思われる人と、それを囲うように威嚇している存在が三つ存在した。


 恐らくは魔物だろう。


 助けるべきかどうするべきかなんて悩む事なく、気づけば僕は走り抜けていた。


 全速力で走り込んであっという間に女性の下に駆けつけた。


 そこにはまだあどけなさが残る女の子が三匹の狼を前に震えながら涙を流していた。


「助けます!」


「!?」


 久しぶりに異空間収納から取り出した『炎剣・フランベルジュ』で目の前にいる大型犬並みの狼に剣を振り下ろした。


 僕に飛びついて来た狼だったけど、僕が振り下ろした剣によって綺麗に斬られて、その場で倒れる。


 後ろに待機していた狼二匹が動く前にこちらから先制攻撃を行って先に斬り捨てる。


 急いでいたけど、まさか一撃で倒せるとは思わなかった。きっとこの剣が素晴らしいモノだからだと思う。


 久しぶりの出番だったけど、また異空間収納に入れておく。


 すぐにアリサさんたちがやってきて、すぐに怖がっている女の子の下に駆けつけて、セーラちゃんが冷静に対応する。


「もう大丈夫ですよ。私達はセイクリッド学園の生徒です。魔物はうちのリーダーが倒しましたので」


「は、はぃ…………」


 ものすごく震えているのが冒険者という仕事が如何に危険なのかが分かる。


 薬草を採りに来ただけで命を落とす。生きるために命懸けに働くということが異世界の厳しさを目の当たりにした。


「こんにちは。もう大丈夫ですよ。犬達はもういなくなりましたよ~ほら」


 彼女の隠れた視界を開くと、倒れていたはずの狼の亡骸は綺麗に消えている。


 実は異空間収納に入れているのだ。


「あ、あ、ありがとう……ありがとうおおお助けてくれて本当にありがとうおおおおお」


 彼女は大きな声をあげて泣きながら僕に感謝を伝えてくれた。


 誰かを助けられたのは初めてだ。誰かのためになったと自己満足的な部分はあるかも知れない。


 自己満足だと言われてもいい。僕は誰かが傷つくより助けたいと思う。


 ひとまずアリサさんたちに彼女の介護を頼み、冒険者ギルドに向かってもらった。


 彼女が落とした籠を見ると薬草が八つと依頼書が入っていた。僕と同じ十本集める依頼だ。


 八本か……あと二本あればクリアとなる。


 帰り道で薬草を二本見つけたので、彼女の籠の中に入れておいた。


 もしかしたらこういうのはやらない方がいいのかも知れない。でも困った時はお互い様だし、偶然にも僕には〖探索〗というスキルがあるから歩いているうちに見つけたに過ぎない。


 それに母さんから受け継いだスキルで誰かのためになったのなら、僕というより母さんが人を助けたことになると思う。


 急いでアリサさんたちの後を追った。

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