第57話 冒険者プレート(三人称視点あり)
試験が終わって元のテーブルに座って待つ。アリサさんとセーラちゃんを泣かせてしまってどうしていいか分からない。ステラさんも珍しくものすごく心配してくれて僕の体の至る場所を触って無事を確認してくれた。
困ったように笑っていると、とある冒険者さんが声を掛けてきた。
「ちょ、ちょっといいか?」
「はい? どうかしましたか?」
「お、お前さん……ゲオルグさんと
「そうですね」
「まさか、試験を受けて帰って来たのか?」
「はい。ゲオルグさんにボコボコにされてしまいましたが、何とか合格を言い渡してくださって良かったです」
それを聞いた男性は顔色が一気に変わり「ありがとう」と言い残して仲間のところに走って行った。
「それにしてもゲオルグさん強かった……」
「それもそうよ……あのハゲ。本当に強いわ。もしかしから聖都最強とかじゃないかしら」
「アリサちゃんの意見には同意するよ。もしかしたら聖騎士団長――――フェンデリック様くらい強いんじゃないかしら」
「フェンデリック様?」
なんかどこかで聞き馴染みのあるような名前だ。
「ユウくん? フェンデリック様を知らない? あれ? アリサちゃんも?」
アリサさんも僕と同じく頷いて返す。
そもそも田舎から出て日が浅いのと、まだまだ弱い自分は強くなること以外に目を向ける余裕がなかった。
セイクリッド学園が聖騎士の授業を受けられるとは知っていたけど、そもそも聖騎士がどういった存在なのかはマリ姉との勉強でしか分からない。実際肌で感じている人々の声を聞いてみたいと思っている。
「あのね。聖騎士は聖国最強戦力であり、大陸でも最強戦力の一つだよ。各国で有名な戦力があるんだけど、聖騎士は歴史が最も長いし、女神様を守る騎士として選ばれていて、選ぶのも人ではなく女神様だからこそ、名誉ある称号だね」
歴史の深さはもちろん大切だけど、女神様が決めるという言葉に一番驚いた。
前世とはあまりに違いすぎる異世界ならではのことだね。才能とかも人の未来を決める重要な要素だと思うし。
「その聖騎士をまとめるのが、現状大陸最強と名高いフェンデリック様なの。聖騎士の模範となる存在で、最強と言っても過言ではない強さと、それに見合った教養を持つ素晴らしい人だという話よ。私もまだお会いしたことはないけど、いつかお会いできる日を楽しみにしているの」
聖騎士を語ってくれるセーラちゃんの目がキラリと光り、彼女が一番憧れる存在が聖騎士団長であると簡単に伝わってくる。
セーラちゃんがちょうど説明を終えた時、後ろから人の気配がして、声が聞こえて来た。
「お待たせしました。ユウマさん」
リィナさんが優しい笑みを浮かべて小さなプレートを手に持ってきた。
「こちらのプレートをどうぞ」
そう話しながら前に出してくれた小さなプレートは、男性大人の親指程の大きさで澄んだ青色をしていた。
ゆっくりと受け取る。
手で持った瞬間、プレートから僕の中に魔力が流れて来て、僕の魔力もプレートに吸われていくのを感じた。
それと同時にプレートが淡い青色の光を放ち、プレートに表に『ユウマ・ウォーカー』と表記された。
「それで登録完了になります。そのプレートに刻まれた特殊な魔法によってギルドの方で情報を管理しておりますので、どこかの店でプレートの割引を利用なさる時は念頭に置いてください。最後にですが念のためお名前を確認して当ギルド内の職員にも周知させておきますね」
そう話しながらプレートに刻まれた名前を覗く。
名前を見た彼女の目が大きく見開いた。
「えっ!? う、ウォーカー!?」
思わず大きな声で話したのが、ハッと驚いて自分の口を塞ぐリィナさん。
でも時すでに遅しで、周囲に僕の名前が響き渡って「えっ? 今、ウォーカーって言わなかったか?」などとざわつく声が聞こえてきた。
「あはは……恥ずかしいですが、勇者クレイ・ウォーカーの弟なんです」
「そうだったんですか!? あれ……? 確か勇者様の弟さんってコネで入学をしたって…………?」
恐らくそうだろうと思ってたけど、僕の噂は既に聖都中に広まっているみたいだ。
「ご、ごめんなさい!」
「いえ。僕は無能枠で入学したのは間違いのない事実ですから」
リィナさんには少し意地悪をしてしまったなと少し心が痛い。
実際無能枠で入学したのは間違いない事実でもあるし。
「それより、ひとまず依頼を受ける流れを教えてもらえませんか?」
「! もちろんです! では依頼掲示板に向かいましょう」
それからリィナさんは優しく依頼を受ける方法を教えてくれた。
早速今日から受けてみることにして、練習も兼ねて近くの森から薬草を採取する依頼を受けた。
アリサさんたちも最初は簡単なモノから受けることには賛成らしくて、僕達はそのまま森に向かった。
◆
「はあ……」
聖都冒険者ギルドの休憩室ではリィナが溜息を吐きながらテーブルに倒れ込んだ。
「珍しいわね。あんたがそんなに落ち込むなんて」
「先輩ぃ…………私って受付嬢としてやっていってもいいんですかね……」
「ふふっ。勇者様の弟君のこと?」
肯定するようにうつ伏せになったまま頷くリィナに先輩が苦笑いを浮かべる。
「まあ、お客様の情報を大衆の前でベラベラと喋ってしまうのは感心しないわね」
「やっぱりそうですよね……あの時のユウマさんの顔。凄く悲しそうでした……」
「ふふっ。でもね。人間誰しも失敗するわけだし、まさか勇者様の弟君だとは思わなかったからこそ出た言葉だから仕方ない部分でもあるから。問題は過去ではなくこれからよ」
「これから……ですか?」
「ええ。失敗したと思うなら、これから勇者様の弟君が大変な目に遭わないように、受付嬢として彼をサポートできるんじゃない?」
「!?」
まるで雷にでも落ちたかのように起き上がったリィナは、少し涙ぐんだ目で先輩を見つめる。
「だからね? シャキッとしてこれから訪れてくれる彼のためにも良い受付嬢を目指さないとね!」
「はいっ! 私……ユウマさんに冒険者とは自由で素晴らしい職業だとちゃんと伝えられるように頑張ります!」
俄然やる気になったリィナがその場を立ち上がり、仕事に戻った。
それを見守る先輩は、すっかり一人前に成長した後輩の背中を見て嬉しく思った。
◆
とある執務室。
「はっくしょーん!」
大きな声でくしゃみをするフェンに、一緒に紅茶を楽しんでいた女性が笑みを浮かべた。
「珍しいわね。誰か噂でもしたんじゃないの~?」
「むむ。どこのどいつだ。ボコボコにしてやるぞ」
「あはは~それで本当にボコボコにするんだからね~それが世界でも教養高いと言われている人なのだから不思議ね」
「ふん。人が人の本質を見極めるなんて、浅はかだっつうのー」
どこか幼さが出るフェンの姿に彼女は笑みを浮かべた。彼がこういう姿を見せるのは自分の前だと知っているからこそ、愛おしく思えるのだ。
「それはそうと、お前んとこはどうよ」
「ん…………正直に結構危ういかな?」
「やはりそうなるか」
「そうね。予想はしていたんだけど、聞く耳を持ってくれないからね。ねえ。本当にこのままでいいの?」
「…………良い訳ねぇだろう。でも仕方ないんだ。女神様が動くなっつうなら動けない」
「それもそうね……はあ~うちの女神様は何を思っているのか~」
「さあな。何か考えがあるのだろう。俺達はそれに従うのみ」
二人は紅茶を飲み込み、これから訪れるであろう
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