第56話 試験の結果(三人称視点あり)

 僕が持っていた木剣がゲオルグさんが放った目に見える程の衝撃波によって粉々に粉砕されてしまった。


 木剣は消えてしまったが、僕の攻撃はそのままゲオルグを切り捨てる。ただ、手には何も持っていないのでゲオルグさんが斬られる訳はなく、僕の完全な敗北が決定した。


 そもそもゲオルグさんが放った衝撃波は、そのまま僕に当てれば致命傷になる程の被害を受けていただろう。


 それを僕が上に構えていた木剣だけ粉々に粉砕した時点で僕とゲオルグさんのは明確だ。


「負けて……しまいましたね……」


「ふっ。ユウマと言ったな?」


「は、はい」


「――――合格だ」


「え!?」


 次の瞬間、ゲオルグさんの瞳がキラリと光り、僕を睨みつけた。


「おいおい。まさか俺に勝てないとCランクになれないと思ったのか? それなら俺も安く見られたものだな?」


「い、いえ! そういうつもりでは……」


「とにかく、お前の力はCクラスに相応しい・・・・。だからこれからも冒険者として大いに活躍してくれ。分かったな?」


「は、はいっ!」


「では手続きをするからさっきの場所に戻って待っていろ」


「分かりました!」


 とにもかくにも、冒険者に慣れたのなら嬉しいし、僕を推薦してくれたリィナさんの気持ちを裏切らなかったのなら嬉しい。


 訓練場の出口に向かうと、目に大きな涙を浮かべたアリサさんが両手を握りしめて僕を見つめていた。


「あはは~負けたけど合格したみたい! 心配かけ――――」


 苦笑いを浮かべて彼女たちに向かうと、アリサさんが真っすぐ――――僕に抱き着いてくる。


 セーラちゃんもステラさんも次々やってきて僕の安否を確認してくれた。


 まさか泣かせてしまうくらいボコボコにされていたのが、みんなに申し訳ないなと思う。


 僕は彼女たちを宥めながら訓練場を後にした。




 ◆




 ユウマ達が訓練場を去ったあと。


「げ、ゲオルグさん?」


 その場にいた者は誰も気づいていないが、ゲオルグは試験が始まってからその場から一歩・・も動いていない。


 彼らが離れた後も動こうとしないゲオルグを心配そうにリィナが覗きこんだ。


「あいつらは戻ったか?」


「は、はい」


 リィナの返事の直後、ゲオルグの口からおびただしい量の血を吐き出した。


「ゲオルグさん!?」


 その場に跪いて腹部を抑えるゲオルグの目は、凄まじい闘志に燃えていた。


「どんなもんかと一撃もらってやったが…………こりゃとんでもない化け物もいたもんだな。なあリィナ」


「は、はい!」


「君が見つけてきた男はとんでもない男だぞ。才能がない? がーはははっ! 才能がないのにこの――――Sランク冒険者ゲオルグ様がたった一撃でここまでダメージを負うとはな! 面白れぇ…………戦いのどこかにフェンデリックの面影もあった。あやつめが最近とんでもない化け物を育てていると言っていたが、間違いなくあいつだ。がーはははっ! フェンデリックめ。貴様の見る目は相変わらず本物・・だな!」


「ふぇ、フェンデリック様ですか!?」


 口から血を吐いているゲオルグに対してどうしていいか分からないリィナがアタフタしている間に、ゲオルグは懐から綺麗な瓶を取り出して一気に飲み込んだ。


 体は綺麗な青い光に包まれると、傷がみるみる回復していった。


「それに彼だけではない。彼ほどではないが、隣にいた女三人も中々どうして。やはり――――英雄の下には強者が集まるのかも知れないな」


「それって……勇者様の時もでしたよね?」


「勇者? ああ。あいつも凄かったな。だが仮初の力と本物の力では、寧ろ彼の方が勇者と言うべきかも知れない」


「え!? げ、ゲオルグさん! 侮辱罪で捕まりますよ!?」


「ふっ。ここにはリィナしかいないからな。それより、彼にこのゲオルグ承認でCランク冒険者の許可を出してくれ」


「本当にいいんですか?」


「構わん。冒険者は才能の強さでなるものではない。その者がここまでたどり着くまで頑張った努力によって決まる。そりゃ才能でCランクになるやつもいるが、Bランク以上になるやつに才能だけでなれたやつなどいない。才能なんて――――ただのきっかけに過ぎない。もしかしたらあやつは英雄リオンのようになれるかも知れないな。いや、寧ろそれ以上になれるかも知れない」


 ゲオルグは消えていったユウマの後を見つめ、遠い昔に忘れた夢を見ていた少年時代のような、自分自身の中から溢れる闘志を抑えられずに、高鳴る心臓の音がゲオルグの耳に響き渡った。

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