第55話 激突
「よう。才能なしが何だって?」
現れただけで凄まじいプレッシャーを放つ男性に周りの興味本位で見守っていた人々が消え始めた。
それくらい巨漢の男から放たれるプレッシャーは耐え難い強者のモノだ。
「ゲオルグさん。みなさん怖がってますよ~はあ……それよりも、ごめんなさい。先日お伝えしたセイクリッド学園の生徒さんなんですが、どうやら才能なしらしいです」
リィナさんが少し申し訳なさそうに伝える。
鋭い眼光が僕を真っすぐ見つめた。
「ふうん。小僧。試験を受けるか?」
「えっ? いいんですか?」
「いいも何も受けるために来たのなら選ぶのはお前だ。俺らじゃねぇ」
さも当然だと言う言葉に、彼の信念が心から伝わって来た。
「では受けさせてください」
「いいだろう。付いて――――」
「だ、ダメです! ユウマさん!? 私が誘っておいて本当に申し訳ないんですが、こちらのゲオルグさんは相手を完膚なきまでに打ちのめすことで有名なんです! 才能がない方が相手できるような人じゃないんです!」
リィナさんの言葉もただ才能がないからではなく、心から心配しているのが伝わってくる。
絆の才能を持っているからなのかは分からないが、自分に向けられる言葉に偽りがないことを感じ取れる。もしかしたら、気のせいかも知れないけど、少なくとも僕が今まで感じた感情はそう感じるんだ。
だからこそ、誘ってくれたリィナさんも今は心配してくれるのが分かるし、決して僕が才能なしだからバカにするようなことじゃないと知っている。
「大丈夫。確かに僕はまだまだ弱いです。ですけど、強くなるために頑張りたいんです。ここで逃げたら兄さんにはいつまでも追いつけないです。ゲオルグさん。お手合わせよろしくお願いします」
「良い目じゃねぇか。付いてこい」
ゲオルグさんの後ろに付いて行く。セーラちゃんたちも一緒にリィナさんも心配そうな表情を浮かべて一緒に来てくれた。
案内されたのは広い訓練場で、コロシアムのような作りになっていて周囲には座って観戦できる作りになっていた。が、今は誰もいない。
「冒険者にとって能力は切り札にもなる。だから冒険者は他人に自分の力を教えないんだ。試験で自分の力をさらけ出してもらうために観客は入れない」
「だから誰もいないんですね」
僕がキョロキョロしていたから気になっていたとバレたみたいだ。
「さて、試験の内容は簡単だ。俺と三分間のデスマッチだ。ただし殺人はご法度だ。つまり、お前が死ぬことはない。が――――――俺も反撃する。その意味は分かるな?」
「もちろんです。そうでなければ意味がありませんから」
「がーはははっ! 俺を前にそこまで構えるとは、中々骨太のやつが来たもんだ。お前のタイミングで構わない。いつでも掛かってこい!」
「はいっ!」
僕が使用するのは木剣だが、ゲオルグさんは素手だ。恐らく、彼の武器こそが素手であると想像できる。自分を下に見たから素手で手加減していると勘違いしたら一瞬でやられる。
自分の中にある気を練り上げる。いつでも気を使えるようにするためだ。気を溜めると言ったところ。
目の前にはだかるゲオルグさんの体の奥から巨大な気の気配を感じる。
僕達の先生であるフェン先生はいつも眠そうな表情をしているが、実はものすごく強い。先生から感じる気配は僕が知っている中で一番強い父さんと匹敵する。いや、もしかしたらもっと強いかも知れない。
そんなフェン先生にも匹敵する気配を感じさせるのがゲオルグさんだ。
本来なら〖上級鑑定〗でゲオルグさんの情報を手に入れれば対策も考えられるけど、それはズルい気がするので真っ向勝負に行く。
木剣を大振りに叩き込むと、ゲオルグさんは軽々と素手で受け止めた。
「そんなモノか?」
「いいえ! まだです!」
僕の木剣を受け止め握られ動かせないのだが、そのまま木剣を手放す。
そもそも
思いっきり握られた木剣を中心にゲオルグさんの腹部に蹴りを叩き込む。
全力の蹴り上げに異世界らしく大きな音が訓練場に響き渡る。
次の瞬間、ゲオルグさんの左腕が飛んできた。咄嗟に両手で彼のパンチを受け止めたが、あまりの強い力にハンマーで殴られたかと思えるくらい自分の体が吹き飛んだ。受けた両手が痺れるのがゲオルグさんの強さを物語っている。
何回か地面にバウンドして訓練場の壁に僕の体が激突した。
「ゆ、ユウマ!」
僕の名前を呼ぶアリサさんの心配そうな声が聞こえる。
「痛ッ…………両手が痺れちゃった……」
崩れた壁の瓦礫を
ゲオルグさんに向かって走り込む。その場に佇んだ彼が木剣を僕に向けて投げてくれて、木剣を空高く蹴り上げた。
次に狙うのはゲオルグさんの攻撃が当たる直前に方向転換して腕を狙う。
まだ少し痺れている腕を引きずりながら真っすぐ走る。
ゲオルグさんが大きく構えて右腕を振り落とす。
ギリギリの距離感のところで後ろに飛んで避けた――――と思ったら、リーチで止まったはずのパンチから凄まじい衝撃波が放たれて僕の全身を叩きつける。
予想していなかった攻撃にその場にギリギリ耐えて吹き飛ばされずに済んだけど、衝撃波が思っていたよりダメージが大きい。
このままでは負ける…………そもそも弱い僕がゲオルグさんに勝てるとは思ってない。フェン先生にも父さんにも。でもみんな僕のために大切なことを教えてくれて強くなれるように沢山教えてくれた。
そんな彼らの想いを「私が弱いんです」とその場で諦めたくない。
あの日、蹴り飛ばされて遠ざかる兄さんをただ見つめるしかできなかった。
ずっと後悔し続けた。
もう後悔したくない! だから僕は――――――頑張るんだ!
地面を蹴り上げて空高く飛び上がる。
丁度僕の前に
彼の右手がキラリと光り、放った衝撃波が僕の木剣ごと飲み込んで空高く爆音を鳴り響かせた。
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