第54話 冒険者ギルド

 Bクラスの授業はあっという間に過ぎて、気が付けばルミさんがクラスメイトたちをまとめるようになっていた。


 以前僕にコネ野郎とかスキル0とか誹謗中傷をした生徒たちからは謝られて、今ではすっかり仲良し(?)となっている。


 最近ちょっと不安があるとしたら――――「お水でございます!」とか「欲しいモノがあったら何でも言ってくださいませ! ユウマ!」と揶揄からかわれるようになった。きっとルミさんのいたずらだと思う。


 そんな慌ただしい日々が終わり、連休の初日を迎えた。




「えっと、みんなも来るの?」


「うん! ユウくんを一人には出来ないから!」


「わ、私は冒険者ギルドに興味があっただけだから! せ、せっかくだし?」


「旦那様が行くところなら……めんどくさくても……付いていく……」


 あはは……相変わらずステラさんの冗談は面白いね。最近では僕を旦那様なんて呼んでる。いつもなら魔法以外は興味を示さないけど、どこかに行くと付いて来てくれる。


 セーラちゃんは、先日聞いた時に凄い興味を示していたので分かるけど、アリサさんも興味ありげだったなんて思わなかった。


 前回の連休も三人と一緒に過ごしていたけど、今回の連休も三人と一緒に過ごせるなら少し嬉しいかな。


 冒険者にはなれないからと、先輩たちと遊ぶとガイルくんはお留守番で僕たちだけで冒険者ギルドに向かった。


 前回は急いで飛びついたけど、今回はゆっくりと扉を開けて中に入っていく。


 入ってすぐに目立つのは右側に広がっている無数のテーブルと多くの冒険者たち。


 左側はカウンターになっており、制服姿の受付嬢たちが冒険者たちの対応に勤しんでいた。


 さらにそこから奥に『買取専門』と書かれている受付が前回僕が素材を売り込んだ場所だ。


 何故だか多くの冒険者たちが僕達を見つめている。少し冷たい視線を感じながら奥に歩いていくと、見知った顔の受付嬢が嬉しそうな笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「ユウマさん。いらっしゃいませ! あら? 仲間もご一緒ですか?」


「はい。みんなも冒険者ギルドを見ておきたいと。ダメですか?」


「いえ。セイクリッド学園の生徒さんなら大歓迎です。では手続きをしてきますので、向こうのテーブルで座って待っていてください」


 指定された場所に腰を下ろして周囲を眺める。


 入って右側に見えていたテーブルはどうやら冒険者たちの待合室のようで、そこからギルドの奥にある場所に巨大な掲示板が三つ並んでいる。そこには無数の紙が無造作に飾られており、文字、数字、絵柄が書かれているようだ。


「あれが依頼書みたいだね」


「そうね。それにしてもあんなに乱雑に飾られて、一番上の依頼書なんて背の低い人は取れなさそうね」


「あそこにある梯子……多分あれ使う……」


 どうやら三人とも初めて見る冒険者ギルドは楽しいようで良かった。


 少し待っていると、リィナさんがやって来て同じテーブルに座る。テーブルは基本的に八人まで各方向二人ずつ座れる作りになっている。


「お待たせしました。手続きをして来たので試験官が決まるまで少々お待ちください。軽く冒険者ギルドを説明しますね。向こうにある依頼掲示板から受けたい依頼書を取って受付に持っていくと依頼を受けられます」


 慣れているのかリィナさんはテンポ良く聞きとりやすい速さで説明を続けた。


「依頼にはランクが設けられております。自分のランクと同じかそれ以下の依頼しか受けられないので何でも受けられるわけではありません。それと報酬額ですが、冒険者ギルドから今までの情報と照らし合わせて依頼人に提示している額なので安いとか高いとかはございませんので安心して好きな依頼を受けてください。基本的に同じランクでも難しい依頼程額が高くなると考えてください。さらに依頼達成まで掛った経費などはギルドでは一切かかわりませんので、それを念頭に受けることをお勧めします」


 場合によっては聖都周囲だけじゃなくて遠出もありそうだからね。そうなると宿泊費や食費などもかかるだろうと予想できる。


「冒険者にはランクが存在しており、最低ランクはFから依頼を達成していけば上がって行きますが、一定期間で達成できなかった者は冒険者として失格と判断し、冒険者資格が剥奪はくだつされますがユウマさんは気にしなくて大丈夫です。Cランクからは依頼達成及び試験があり、Cランクになった方の剥奪に関しては違反行為がない限りありません」


 僕は最初からCランクを受けられるらしいから、期間内達成がなくても剥奪されないんだね。


「冒険者になると冒険者プレートを貰えます。首に掛けるものですね。Sランクが白、Aランクが紫、Bランクが赤、Cランクが青、Dランクが緑、Eランクが黄色、Fランクが黒になります。店の入り口に『冒険者マーク』が描かれているお店でプレートを見せるとランクによって値引きしてくれますし、場合によっては無料もあります。その際は、お店から冒険者ギルドに経費として・・・・・申請が来ますので、皆さんは気楽に受けてくださいませ」


 割引を受けられるのは凄くいいね。でも騙すとかはないのかな?


「それって騙されないのかしら?」


 アリサさんも疑問に思ったらしくて、リィナさんに聞いた。


「はい。全く問題ありません。プレートには魔法が掛かっておりますので、値引きを受ける際にかざすように言われるはずです。それで冒険者ギルドに皆さんがどこの店で何を購入したのか全て・・分かる仕組みになっております」


「それって冒険者の位置も把握するってことですよね?」


「その通りでございます。特に値引きになるのは――――Cランク冒険者からになります。多少お店によって優遇してくれる場合はありますけれど…………それくらいCランクからはギルドとしても・・・・優遇致します。代わりに皆さんの位置を把握させて頂き――――次の最後の部分に繋がるのですが」


 一度話を区切り、リィナさんが真剣な表情を浮かべた。


「Cランク冒険者からは、緊急事態の際、緊急招集に応じて頂きます。ただ皆さんの場合、まだ生徒ですので緊急招集に応じなくても問題ありません」


「つまり学生が終わったら――――」


「はい。Cランク以上の冒険者は冒険者ギルドの庇護下にいる代わりに、ギルドが大変な時に必ず力を貸して頂きます。持ちつ持たれつの関係ですね。もちろんそれに見合う破格な待遇は約束します」


 少し――――騙されてしまったと思ったけど、冒険者ギルドとして優秀な冒険者を囲っておきたいんだろうと思う。


 ガイルくんは家柄で冒険者になれないと言っていたから、彼のような優秀だけど囲えない人もいるから、そういう冒険者を囲うのはある意味一番大切なことかも知れないね。


「あれ? でもどうして僕を最初からCランクに勧めるんですか?」


「セイクリッド学園の生徒さんなら将来優秀な方になるのは当然ですが、何よりユウマさんが強い・・からです」


「僕が……? でも僕って……才能なしなんですけどいいんですか?」


「へ? 才能……なし!?」


 驚きの声をあげたリィナさんとタイミングを同じくして、後ろから筋肉ムキムキの眼光鋭いスキンヘッドの男性がやってきて僕を睨みつけた。

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