第53話 意外な出会い
Bクラスの授業はCクラスとそう大きく変わることはなかったけど、訓練にしても座学にしてもCクラスの生徒たちよりも数段知識が多い感じがした。
僕はマリ姉と長い期間授業を受けていたおかげなのか、座学に関しては遅れることはなかったけど、ルミさんやセシルくんは難しいみたいで今日は居残り勉強をすると言っていた。
学園が終わると決まって聖都の西区に出られる玄関口で待っていると、向こうからセーラちゃんたちが走ってくる。
セーラちゃんとガイルくん、アリサさん、ステラさんがやってくると五人で一緒に帰る。
真っすぐ帰る日もあれば、露店街で遊んでから帰る日もあったりと色々なんだが、今日は少し遠回りしようと言われたので、いつもとは少し違うルートで歩く。
特に疑問に思っていたわけではないけど、理由は新しくBクラスに転入した話が聞きたかったみたい。
意外というか、一番興味津々なのはやっぱりガイルくん。
金髪のイケメンのガイルくんは実は学園内でもアレクくんと並んで一番人気のある生徒でもある。いつもかっこよくて成績も優秀みたい。そういえば、僕ってまだガイルくんと手合わせとかしたことないな……。
と、そんな誰もが羨ましがる金髪美男子は実は――――ものすごくいたずらが好きで好奇心旺盛の男子だ。
こういう話題が大好きらしくて、いつも聞いてくるのは実はガイルくんだったりする。
アリサさんもこういう類のことに興味はあるけど、いつも聞いてこないのでガイルくんが聞くと耳を傾けてくる。アリサさんの金髪から存在感を出している耳が可愛らしくぴくぴくと動くのを感じる。
Bクラスであったことを全部伝えるとガイルくんらしく、腹を抱えながら大声で笑う。笑いすぎて目元に涙まで浮かんでいる。
「いや~久しぶりに笑った~ユウマは相変わらず凄いな~」
「え~僕は全然凄くないよ? ルミさんにアドバイスをもらってやってみた感じだよ。本当にあれで良かったのかは分からないけど、僕は凄く勉強になったかも」
「そうだな。ユウマはもうちょっと
そう言ってまたくっくっくっと腹を抱えて笑い続けた。
後ろを歩くアリサさんたちはというと――――ちょっと怖かったので見なかったことにした。どうして怒っているんだろう? 僕なんか怒らせることでもしたのかな……二人が大好きな串焼きでも奢ってあげたら少しは晴れるかな?
道を歩いていると、何かただならぬ気配を感じた。
その時、とある人がものすごい勢いでこちらに向かって走ってくるのが感じられた。
「あ、あのっ!」
甲高い声から女性だと分かるその声は、どこか焦ったような感じがして振り向いたら、アリサさんたちが彼女の前を塞いでいた。
ガイルくんのファンとかかな? 荒れる息で肩が上下する彼女の目は大きく見開いて僕達を見つめていた。
「あ、あの! 急にすいません! わ、私は――――」
「ちょっと。いくら私達が学生だからといって、あまりにも失礼ではありませんか?」
ここからセーラちゃんの顔は見えないが、鋭い言葉を彼女に放つ。
「も、申し訳ございません! わ、私はこういう者ですッ!」
急いでポケットから手のひらサイズに収まるカードを一枚見せてくれた。
そこには『冒険者ギルド所属、受付嬢、リィナ・クロムウェル』と書かれていた。
「無礼な挨拶になってしまいましたが、私は聖都の冒険者ギルド所属の受付嬢のリィナと申しますッ! あ、あの、そちらの男子生徒さんにちょっと聞きたいことがありまして!」
そして彼女が向ける視線は――――
「えっ? 僕ですか?」
「はいっ! 貴方です!」
あれ? 会ったことあったっけ……?
「私の事、覚えていませんか!?」
「ご、ごめんなさい。初めましてだと思うんですけど…………」
「先日冒険者ギルドにいらした時に対応した受付嬢なんです!」
先日の冒険者ギルド……?
う~ん?
「あ~! もしかして、買取してくださった時の優しい方?」
「そうです!」
「え~! 私初耳なんだけど……」
僕と彼女を交互に見ていたセーラちゃんが声をあげる。
「ほら、前言ったでしょう? アリサさんの髪飾りを買う時に現金がなくて素材を売ったって。その時に優しく対応してくださった受付嬢さん……だったと思う。ごめんなさい。僕も凄く急いでいて顔をあまり覚えてなくて……」
「むぅ……その時か……」
何故か肩を落とすセーラちゃんだが、どうしたんだろうか。
「そ、それでですね。あの時はあまりにも急だったのですが、も、もしよろしければ少しだけ話せる時間を頂けませんか!?」
「え、えっと……」
「俺は問題ないぞ。面白そうだし」
「私も大丈夫」「私も~」「どうでも……いい…………」
みんなの許可も取れたので話を聞くことにしようか。あの時、真摯に向き合ってくれてスピーディーな対応をしてくれた人だから悪いことはないと思う。
「分かりました」
「守秘義務がある話もあるので、できれば二人っきりでお願いしてもいいですか?」
「はい。みんな。ちょっとだけ待っててくれ」
「ほ~い。俺達は向こうの公園で待ってるぞ~」
四人が公園に向かって、残った受付嬢さんのリィナさんと対面する。
あの時は現金が欲しくて急いでしまってあまり覚えてないけど、とても優しそうな方だなという印象だ。
周囲に誰もいないことを確認した彼女は、小さく息を吸い込んで僕を真っすぐ見つめた。
「実はですね。あの時――――えっと」
「あ。ユウマです」
「はい。ユウマさんが売ってくださった角なんですが、あれは自分で倒された素材なんでしょうか? 見るからにセイクリッド学園の制服のようですから」
確かに僕が倒した素材ではあるんだけど……そうじゃないとお金を返してくれとか言われてしまうのかな? そうなるとちょっと困るというか……でも本当に自分で倒して手に入れた素材だし、嘘をつく理由もないかな。
「そうですね。僕が倒した魔物から手に入れた素材です」
「!? あ、あのっ。冒険者にはまだ登録されていませんよね!?」
「そ、そうですね」
「もしよろしければ聖都で冒険者に登録しませんか? 連休中に冒険者として実戦を積む生徒さんも沢山います。本来なら最低ランクのFランクから始まるのですが、ユウマさんなら特別にCクラスの試験を受けられます! い、いかがでしょうか!」
ものすごい早口で説明されたのだが、冒険者という言葉は少し魅力的だけど、連休を狩りで潰すのは……でも正直に言えば、生活費も稼げる道が欲しかったのは事実だ。
食費や寮費は学園に入学した時点で全て免除されているけど、自由に使えるお金が増えたわけではない。
アリサさんに髪飾りを送った時も金貨一枚という額が必要だった。それがどれくらいの額かは分からないけど、やっぱりお金を貯めておくことに越したことはないかも知れない。
「生徒だから報酬金が減るとかありますか?」
「いえ! 全くございません。報酬金は依頼にしっかり表示されていて、達成された方は身分関係なく全額支給されます。ただ冒険者ギルドに借金がある方は引かれる場合はあります」
「そうですか…………分かりました。今週の連休の時にお邪魔させて頂きます」
「! あ、ありがとうございます~! ユウマさんがスムーズに登録できるように私から準備してお待ちしておりますので、気楽にお越しください! ただCランク試験は試験官と手合わせがあるので、その点だけご注意ください」
「分かりました」
丁寧な説明と、しっかりデメリット部分というか、ただ来ればいいわけではなく試験もあるよと伝えてくれる彼女は信頼に値する人物だと感じる。
どうして感謝されるのかは分からないけど、彼女と挨拶をして別れて帰路についた。
以前売った素材を見込んで冒険者登録を頼まれたから生活費のためにも登録しようと思うと伝えたら、ガイルくんも興味が出たようだけど、家の事情で冒険者にはなれないと話していた。
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