第52話 打ち返し
「え? それで終わり?」
あまりにも呆気なく決着がついてしまって、当の本人も驚きを隠せずに目の前に倒れた男子生徒を見つめて言葉を放った。
「う、嘘だ! 何か仕掛けがあるのかもしれない!」
「よし、そこのお前。次はお前が上がれ」
フェン先生の指示に顔色を変えて本気になったもう一人の男子生徒が上がってくる。
「ズルを見破ってやる!」
「私は構わないわ」
左手でクイクイと挑発すると男子生徒が攻め始める。
さっきは先手必勝と言いながら一瞬で突いて終わったのに対して、今回は防戦を選んだ。
男性生徒が放つ強烈な攻撃をいなしていく。
五回木剣をぶつけると、小さく溜息を吐いたルミさんは「Bクラスってこんなもんかしら!」と言いながら男子生徒の攻撃を掻い潜って腹部に突き攻撃を刺しこむ。
激痛でその場に倒れ込む男子生徒を見下ろしたルミさんは、クラスメイトたちを見つめた。
「ユウマくんを馬鹿にするならまず私に勝ってからにしなさい!」
「ふざけるな! お、お前が強いのは認めるがそれとスキル0がコネなのは分からないだろ!」
「ふう~ん。私は構わないけど、ユウマくんと手合わせしてみる? 多分後悔するわよ?」
「ふん! スキル0なんかに負けるもんか!」
「ユウマくん~出番よ~」
溜息を吐きながらステージから降りて来たルミさんがやれやれと溜息を吐いた。
僕自身がどうこうとは思わないが、ルミさんの迷惑にはなりたくない。
「僕なんかで勝てるかな……」
「えっ? だ、大丈夫じゃない?」
「そっか……でもルミさんが頑張ってくれたし、僕も頑張る!」
「そうね。ねえ、ユウマくん」
近づいて来たルミさんは僕の耳元でとある事を囁いた。
「え? それでいいの?」
「うん! 頑張ってね~ユウマくん~」
それでいいならとステージの上に上がった。
三人目の男子生徒は怖い表情を浮かべて僕を見下ろしていた。
身長は僕よりも十センチ高いかな? 体つきも僕よりも一回り大きい。きっと普段からしっかり訓練に勤しんでいるのが分かる。やっぱり学園に入った生徒たちはみんな頑張っているんだと思う。
「始め!」
フェン先生の合図と共に彼が剣を振り回し始める。
ルリさんからとある指示があって、恐らく彼女なりに僕に何かを気づかせてくれようとしているのかも知れない。
だから僕も素直にそれに従ってみることにした。
僕がCクラスで初めて手合わせしたのはセシルくんで、彼のためを思って技『打ち返し』を使いずっと弾き返していた。倒れないくらいの強さで。それが功を奏したのか分からないけど、セシルくんはあの時の教訓からしっかり下半身を鍛えることで本来の武器である弓の使い方も上手くなったと喜んでいた。
ルリさんからの指示というのは、まさかにもう一度彼を相手に『打ち返し』でギリギリ倒れないを繰り返す事。
目の前の男子生徒とセシルくんでは体の大きさが違うので、力加減の練習になりそうだ……やっぱりセーラちゃんに教わるようになったルリさんはとても強くなった気がする。
気を練り上げ技を発動させる。相手の強さを予測してセシルくんの時と比べて三倍程強くして相手の木剣を打ち返してみる。
狙い通り、彼の剣が大きく弾き返されて体が崩れていく。本人も何が起こったのか分からないみたいでポカーンとしているが、ギリギリ倒れないくらいだったので、また僕に向けて剣を構えた。
どうしてか全く動こうとする気配がなかったので、今度はこちらが攻める。
僕のゆったりとした攻撃に彼も慌てて剣を合わせる。
木剣同士が当たりまた鈍い音が聞こえて彼の体は弾かれた剣と共に大きく崩れていくが、倒れる寸前で踏ん張り止まった。
ルリさんからは休み暇を与えないでやってみてとアドバイスをもらったので、その通り何度も繰り返す。
七回目の打ち返しの時、彼は木剣を手放してその場で両膝を地面につけた。
「あれ? どうしたの?」
「あ……あぁ……あ…………」
「大丈夫?」
「あ……っ…………う、うああああああああ」
急に両手で頭を抱えて大きな声をあげながらその場で崩れて泣き始めた。
泣く程なの!?
その時、後ろからルミさんがステージに上がって来た。
「なんだ。根性もそれしかないのね。うちのセシルくんなんて、それを五十回は受けきったというのに。Bクラスも大したことないじゃない」
「ルミさん!?」
「さすがユウマくんね。他のみんなもユウマくんを馬鹿にするならまず私を倒してからにしなさい! でなければ――――」
ルミさんが彼を指差す。
「こうなるわよ?」
何故か見守っていた生徒たちの顔が真っ青になっていった。
打ち返しただけなのにみんなどうしたのだろうか。
それからフェン先生の指示によってBクラスのみんなは訓練場を走らされ、昇進した僕達五人はいつも通り手合わせをして訓練に勤しんだ。
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