第51話 守りたいモノ

 連休中はみんなで訓練の日となった。


 ルミちゃんも集まり、解放されている訓練場を利用して二日間訓練を続ける。


 やっぱりメインとなるのはセーラちゃんで、訓練中はずっとオーラを薄く張り続けていた。やはり強い人達はこういう練習をするのかも知れない。僕も負けないようにずっとオーラを張る練習を続ける。


「あれ? セーラちゃん? オーラ張らないの?」


「へ? え、えっと、それだと木剣が切れちゃうよ?」


「うん? どうして? あ……そっか…………僕のオーラだとセーラちゃんのオーラに勝てないのかな」


 そう話すと顔色を変えて僕に真っすぐ走って来て、体をじろじろ見つめ始める。そして、ゆっくりと触るとオーラとオーラが反発してセーラちゃんの手が少し弾かれる。


「う、嘘…………」


「き、君って何もかも……いや、知っていたはずだわ。セーラ。気にしたら負けよ」


「そうね……! ユウマくんだもんね!」


 何かに納得したセーラちゃんとアリサさんが二人きりで話し合うと、セーラちゃんと僕も剣の手合わせを続けた。


 セーラちゃんの才能は『剣聖』。剣術の道では最強であり、才能だけでも彼女は学園中でも最強格の一人だ。そんな彼女に二日もずっと訓練に付き合ってくれて僕の大きなタメにもなった。


 そして、連休が明け、僕はルミちゃんやセシルくんたちと共にCクラスではなく、Bクラスに入っていった。


 教室に入るや否やBクラスのクラスメイトたちからの冷たい視線が刺さってくる。


 丁度開けられた五つの席にそれぞれ僕達が座りこむ。


 みんなが平民組ということもあって、またひそひそ話が聞こえて来るが、それよりも今日の手合わせ授業で試合をするのが既に広まっていて遊びの範囲の賭けまで始まった。お金とか賭けてるわけではない。


 座学の授業が終わり、手合わせ授業の時間となって訓練場に集まった。


「あれ? フェン先生?」


「どうした?」


「フェン先生ってCクラスの担当じゃ……?」


「何を言っているんだ。俺は一年生を全員担当しているぞ。そもそもCクラスの授業は次の時間だろ? お前たちは次の授業は従魔広場だぞ?」


 そ、そっか! Cクラスに慣れ過ぎて、次は昼休みだと思っていたら、まだまだだった。


「それは理解しました先生。それはそうと、あのままでいいんですか?」


「ふむ。いいんじゃねぇか? お前の時だってそうだったろ?」


「そうなんですけど……僕のせいで…………」


 そう話すと、僕の頭に手を乗せたフェン先生はわざとらしく溜息を吐いた。


「なあ。ユウマ。お前はもう少し仲間を信じないといけないな」


「仲間……ですか?」


「みんなどうして怒っているのか。それはお前のせいじゃない。お前と一緒にいたい彼女達の覚悟・・なんだ。だからお前がやるべきことは悲しむことじゃない。彼女たちの信じて見守るべきだ」


 僕なんかと仲良く…………と、やっぱり思ってしまう。でも「ユウマくんを馬鹿にしたの土下座して謝ってもらうからね!」と本気で怒っているルミさんの後ろ姿を見て、嬉しくなり心が温まるのを感じた。


「先生…………もし、この先も彼女たちが僕のために怒ってくれて、でも強い人に向かったらどうしたらいいんですか?」


「そんなの単純だ。お前もちゃんと怒ってやれ。仲間って大切だろ?」


「はい。凄く大切です。みんな僕の友達で……だから僕のために怒って欲しくないけど、もしそうなったら……僕も仲間のために怒ると思います」


「ふっ。俺が言うまでもない。お前は既に仲間が大切になっている。だから仲間のためにも――――しっかり強くなれ。力が全てではないが仲間を守るためには力が必要だ。人を傷つけるための力ではなく――――守る力だ」


「守る力…………」


 いつか父さんと話したことがある。


 強くなるということの意味。




 ――――――


「父さん……」


「どうしたんだ?」


「父さんはどうして強くなったの?」


「そうだな。俺は――――しがらみがあったというのは仕方ない事実だな」


「しがらみ?」


「ああ。強くならないといけない家に生まれた……というところだ。でも強くなりたくない時があった」


「どうして?」


「…………強くなって何をしたいのか。自分でも分からなかった。でもその答えが見つかって父さんは強くなったぞ?」


「本当? どういう答えだったの?」


「――――守りたい人ができたんだ」


 ――――――




 あの時、父さんが話していた『守りたい人』は、きっと母さんだと思っていた。


 でもそれは僕の決めつけだったかも知れない。父さんが守りたい人は母さんももちろんだけど、兄さんも僕も、他の仲間たちもそうだと思う。


「ちゃんと応援してやれ」


 先生が僕の背中を押してくれる。


 仲間たちの下に向かい、応援するために声をあげる。


 時にはこうして誰かと競いながらも、自分たちの絆を確認できるのは学園の良いところなのかも知れないね。


 そして手合わせが始まった――――途端、一瞬で決着がついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る