第50話 昇進
お昼休み前にある実践授業の度に、セーラちゃん、アリサさん、ステラさんが遊びに来てくれて、セーラさんに関しては僕と手合わせまでしてくれた。
Sクラスに入れるくらい強くて、セーラちゃんと初めての手合わせは手も足も出ないくらいだった。
セーラちゃんは何度も僕を褒めてくれたけど、きっと落ち込まないように僕を褒めてくれたんだと思う。それからアリサさんも遊びに来てくれて手合わせしてくれたり、他のクラスメイトたちの相談にも乗ってくれた。
アリサさんっていつも難しい顔をしているけど、面倒見もよくて頼れるお姉ちゃんみたいな雰囲気がする。
そんな日々がすぐに過ぎて行き、初めての昇進日がやってきた。
Cクラスは教師が選んだ上位五名がBクラスに上がることになっている。
「――――ルミ。セシル。ユウマ」
五人の名前が呼ばれて、ルミさん、セシルくん、僕も入っていた。セシルくんはあれから毎日必死に練習を続けて初日とは見違えて強くなった。
特にルミさんに関しては、セーラちゃんとも渡り合えるくらい強くなった。すっかり二人とも仲良くなったみたいでクラスメイトとして嬉しく思う。
Cクラスの残ったみんなに挨拶を交わす。本来ならこうして挨拶を交わすのはあまり見かけないらしい。
「こらっ。オリヴァーくん。ちゃんとCクラスを導くんだよ!」
「なっ! も、もちろんだ! 俺に……俺に任せておけ!」
「うん。任せた。でもちゃんと昇進もしてよね。私は一足先にAクラスに行くから」
「…………絶対追いつく」
「頑張って」
「ああ」
ルミさんとオリヴァーくんの挨拶を見送って僕達もオリヴァーくんに挨拶をしてCクラスを後にした。
昇進日は連休前日の最後の授業が終わった直後。連休明けからBクラスで授業を受けるようになるが挨拶だけは今日中に終わらせることとなる。
僕達の中だとルミさんがリーダーシップを取っているので、ルミさんを先頭にBクラスに入っていった。
初めて見る面々が並んでいるが、すぐに生徒たちから驚く声が聞こえて来た。
「嘘だろう。あれってスキル0だろう?」
「昇進もコネかよ……まじでクズだな」
「どうせこのままAクラスに上がるんだろう。ああ~今期は一枠消えてしまったな~」
すぐに教師が「静かに!」と大声をあげてようやくざわつきが止んだ。
最近Cクラスではこういうことを言われなかったから、久しぶりに言葉をぶつけられた気がする。特に傷つくとかはないし、実際事実でもあるというか……実力なのかは正直分からない。従魔の訓練だっていつも一人でホワイトタイガーさんが手合わせしてくれるだけだから、自分の成績というのは分からない。ただ、フェン先生から、先日行った昇進のための試験では満点だったと褒めてくれたのを覚えている。これもマリ姉が勉強を見てくれたおかげだ。
Bクラスのみんなと、僕達の自己紹介を交わしてその日は授業が終わりとなった。
「おいおい。コネ野郎!」
一人の貴族服装の男子生徒が僕の前に立ちはだかる。
他にも取り巻きのような男子生徒が五人も周りで睨みを利かせている。
「なによ。あんたたち」
僕よりも先にルミさんが男子生徒の前に出る。
「なんだ。女に興味は――――」
「あんたみたいな雑魚がユウマくんの前に立たないでよね」
「なっ!? 雑魚だと!? 貴様。侮辱罪で――――」
「連休明けにボコボコにしてあげるから覚悟してなさい!」
ええええ!? ルミさん!? 戦う気満々!?
「さっきからユウマくんをコネだの無能だのスキル0だの散々言ってくれたわね!」
ルミさんの「コネだの」で心に刃が刺さり、「無能だの」でさらに刺さり、「スキル0」でトドメが刺された。
「ぐぎぎぎぎ! 覚悟しておくのは貴様だ! 女!」
「ふん。弱い者イジメは好きじゃないけど、痛い目を見ないと分からないおバカさんはボコボコにして目を覚まさせてあげるわ」
「お、おバカだと!?」
言い争いをする二人の間にセシルくんが「まあまあ……これから同じクラスメイトなんだから……」と落ち着かせようとするが二人から同時に「「うるさいっ!」」と言われて肩を落とした。
「お、覚えてろよ! 連休明けだ!」
「ふん!」
ルミさんは僕とセシルくんの手を引いて強く足踏みしながらその場を後にした。
僕のために怒ってくれる彼女に嬉しい反面、僕なんかのために怒る彼女に申し訳なさも感じる。
連休明けの試合みたいになりそうで困った…………セーラちゃんにも相談してみるとしよう。
◆
「ルミちゃん」
「うん」
「絶対〇〇してね」
怖いよ! セーラちゃん!? 目が怖いよ!?
ルミちゃんに事情を聞かされたセーラちゃんの目から光が消えて、この世の全てを斬り捨てる者の気配を醸し出している。
「任せておいて。泣いてごめんなさい言うまでずっと痛めつけてやるんだから」
ルミちゃんも暗黒笑みを浮かべて肩を揺らした。
「アリサさん……二人を…………」
ちらっと見たアリサさんの目もどうしてか光を失って、二人を応援し始めていた。
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