第48話 白虎とじゃれる?

 お昼休みが終わって、午後からの授業が始まった。


 座学だけど、ほんの少しだけ貴族組との距離が近づいた気がした。これも全てオリヴァーくんのおかげだ。


 座学が終わって、実技授業の時間となって従魔広場にやってきた。


 魔物との戦いに備えて魔物と対峙する授業で、非常にためになる授業だと思う。


「ユウマくん。君は今日からこちらの魔物と手合わせをしてくれ」


 そう言って向かった場所には、大きな白い虎の魔物がいた。


 鼻の脇から伸びた大きな一本の髭がカッコいい。



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 個体名:ホワイトタイガー

 種 族:Cランク魔物

 弱 点:土


 体 力HP:C   魔 素MP:C-


 筋 力:D+  耐 久:C

 速 度:C+  器 用:D

 魔 力:C+  知 力:D

 耐 性:C-


 スキル:

〖雷属性耐性・中級〗〖速度上昇・中級〗

〖魔力上昇・中級〗〖耐性上昇・中級〗

〖反応力上昇〗〖二重詠唱〗〖麻痺耐性〗

〖毒耐性〗〖火傷耐性〗〖沈黙耐性〗


 マスタリー:

〖雷魔法・中級〗

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 Cランクの魔物だ。持っているスキルも非常に多くて、この中でも一番強そうだ。


「こ、こんにちは~」


「ガルルゥ…………」


 あはは……歓迎してくれるのかな?


「今日はよろしくね。あまり強くなくてつまらないかも知れないけど、頑張るね?」


「ガルル」


 きっと「わかった」と言っているような気がする。


 ふかふかそうな頭に手を伸ばしても動じなかったので、そのまま頭を撫でてあげる。サラサラした毛並みがとても触り心地がよくて、大人しくて前世の犬みたいで可愛いな。


 そういや村ではペットとか飼ってる人はいなかったけど、聖都ではペットを飼っている人も多かった。僕も飼えないかな? 魔物とかじゃなくて、可愛らしい動物でもいいかも。


 でもまだ甲斐性がまだないから、自分で育てられるようになってからじゃないと飼ってはいけないね。


 入学できたから食事とかは心配ないけど、身の回りに掛かる日常品を買うためにもお金を稼ぐ方法を見つけておかないとね。帰ったらアリサさんに相談してみよう。


 起き上がったホワイトタイガーは立ち上がると大きさが良く分かる。


 二メートルくらいはありそうな白い毛並みの虎だ。そういや名前のままだな……。


 弱点は土属性って事は、得意属性は風なのかなと思ったら、マスタリーに雷魔法と書かれているから、雷魔法を得意としているんだと思う。


 雷魔法は火魔法と風魔法の上位魔法となっている。ただ魔物だからなのか、火も風もないのに雷魔法が使えるようだ。


 早速戦うのかなと思ったら、ホワイトタイガーが後ろを向いて尻尾を振りながらとある場所に向かう。


 それについていくと、小屋の前には防弾チョッキに似た鎧が置かれていて、それを大きな髭で取っては僕に渡してくれた。


「これを着ればいいの?」


「ガルル」


「そっか。ありがとう」


 サイズは少し大きめだけど、着用した感じ、とても心強い感じがする。


 ホワイトタイガーが元の場所に戻ったので、その後を追いかける。


 小屋から少し離れた広場でホワイトタイガーが僕に向けて殺気を放ち始めた。


 これから手合わせしてくれるってことだね。もしかして防弾チョッキって雷魔法に耐性があるチョッキなのかも。


「では僕もいくね!」


 木剣を構えてホワイトタイガーに向かって走り込む。


 それに反応して後ろに一飛びしただけでかなりの距離が離れる。追いかけようとした瞬間、ホワイトタイガーから魔法陣が展開され、雷魔法がこちらに向かって飛んでくる。


 速さに驚きながらもギリギリで避けられた。


 ただ僕の鑑定によれば、ホワイトタイガーは二重詠唱ができるはずで、今のは単発だから手加減してもらっていることになる。


 何度か近づこうとしたけど、雷魔法でけん制されて全く近づけない。


 そのまま受けてしまおうかと悩んだけど、それでは訓練にならないし、ホワイトタイガーも手加減してくれている。


 となると、雷魔法と雷魔法の間の魔法が撃てない隙間時間を狙って一気に近づこう。


 足元に気を集中させる。


 イメージするのは自分の足が獣のような素早い足になるように、気を集中させていく。


 ホワイトタイガーの雷魔法を避けた直後に、集中させていた気を放って一気に接近する。


 この技の名は『神速歩』。


 気を込めたら込めた分だけ早く走れる技だが、技の中でも一番扱いが難しくて、村人たちはいつもこれで移動していたけど、僕はまだ上手く使えない。父さんのようにひょいひょい動けるようになりたいけど、僕はたった一瞬だけ進むことしかできない。大きく一飛びする感覚だ。なので、移動で使える技というよりは、戦いで一瞬で間合いを詰めるための技として使っている。


 一気に近づいて木剣を振り下ろしたが、ホワイトタイガーが前脚を伸ばして冷静に僕の木剣を受け止めた。


 遠くから魔法を使うからといって、接近戦が苦手なわけではない。ホワイトタイガーのステータスやスキルを見て、どちらかというと雷魔法でけん制しながら、接近戦となったら爪を立てる感じになっているようだ。


 ホワイトタイガーの爪の鋭さに咄嗟に剣にオーラを纏わせたが、それが大正解のようで、ぶつけ合った感触からこれがなかったら木剣が折れていたかも知れない。


 Cランクの魔物ってこんなにも強いんだなと、魔物を決して侮ってはいけないと分かった日となった。


 もちろん、この後も決定打を打ち込めず、僕の負けとなった。




 ◆従魔広場◆




「ご苦労だった。ホワイトタイガー。珍しくご機嫌だな? あれか? 今日対戦したユウマくんには随分と気に入ったようだな?」


「ガルル!」


「そうかそうか。お前がそこまで心酔するなんて珍しいものだな。いつもなら初めての相手ならボロボロにしたり、雷魔法も何発も当てて遊んでいるのに、今日は珍しく一発も使ってなかったみたいだな。これからも暫く彼の練習相手になってくれよ? フェン先生の頼みとあれば断れないからな」


「ガルッ!」


「お前も気に入ってくれたなら良かったよ」


 Cランクの魔物の中でもBランクの魔物に最も近いと言われているホワイトタイガーは、学園内でも一か二を争うくらい強い魔物である。


 普段から気難しく初めて対戦する生徒の心を折るホワイトタイガーが、まさか久しぶりに手も足も出ず、遊んでもらった・・・・と感じているとは、その時はまだ誰も気づくことはなかった。


 いや、フェンだけはその事実を既に知っていたかも知れない。

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