第47話 紅白戦の敗者の想い

 後ろからは歓声が上がり、前には屈んで悔しそうに地面を叩くオリヴァーくん。そして、それを見守る貴族組のクラスメイトたちが悔しそうに下を向いている。


 一つ気になる事があるなら…………確かに生まれた家の格式はあると思う。でもここでは純粋にみんなで高め合う学園のはずなんだ。なのにこうしてお互いがお互いを敵視していることが悔しいと思う。


 そういえば、以前父さんの言葉を思い出した。



 ――「いいか? ユウマ。オーラを使う時は気を付けるべきは、どれくらい気を練り込むかだ。それは強さに関わるというより、消費する気の量に気を付けなければならないからだ。もし自身の気の量を測り違えると一気になくなってしまい、気を失ってしまう。そうなると戦いでは死を意味するのだ」



 気も魔素も技や魔法を使うためのエネルギーではあるんだけど、どちらも空になるまで使った場合、気を失うというデメリットが発生する。それは気と魔素だけでなく、走り込んだりするスタミナだったり、そういう目では見えない体力的なモノと捉えてもいい。


 オリヴァーくんの場合、僕の剣戟を受ける直前、どうしてかオーラを消して・・・いた。


 もし彼があのまま戦っていたら、木剣が半分に折れたりするはずがないんだ。そもそもオーラでオーラは斬れないからだ。


 オーラとオーラのぶつかりは完全に弾き返す性質を持っているから、もし僕の方が強かったり、オリヴァーくんが強かったら木剣は斬れるのではなく、弾け飛んでいるはずだ。


 つまり、オリヴァーくんは何らかの理由で剣をぶつけ合うまでのオーラを止めたことになる。


 では止めた理由について、一つ目は単純に気を使い果たして消した。二つ目はわざと消した。この二択になる。


 そこで思えるのは、一つ目の気を使い果たしたという説。これは――――実はあり得ないんだ。


 気は性質上、スタミナや魔素と同じで使い果たした場合――――絶対・・に気絶する。なのに、今のオリヴァーくんは悔しそうに地面を叩いている。ということは気を全て使い果たしたから消したのではない。


 つまるところ、彼はわざとオーラを消して僕の剣を受けたんだ。


 理由は一つしかない…………僕のバカ。僕みたいな人が彼のような素晴らしい人に勝てるわけないじゃないか。一瞬でも彼に勝ったと錯覚してしまった。


「みんな!」


 僕の呼ぶ声にクラスメイトたちが注目する。


「僕は…………愚か者だ!」


「えっ? ユウマくん? どうしたの?」


 ルミさんがポカーンとした表情で僕を見つめる。


「僕がオリヴァーくんに勝てたのがおかしいと思ったんだ。もしオリヴァーくんがオーラを消さなかったら…………木剣がああなるはずがないんだ! オリヴァーくんは――――わざとオーラを消したんだ!」


「そ、それがどうしたというのよ」


「僕は一瞬とはいえオリヴァーくんに勝てたと勘違いしてしまったんだ…………でも実は違っていた! そうでしょう? オリヴァーくん?」


 その場にいた全員がオリヴァーくんに注目する。


「は、はあ!?」


「君は…………もし勝ったら僕達が進級できないから、僕達の未来を潰さないようにわざと・・・負けたんだね! 自分一人で負けた烙印を押されたとしても、多くのクラスメイト達の未来のために!」


「はあ!?!?」


「君は……自分を信じてくれる味方をも騙して僕達に勝利を譲って・・・くれたんだ! 君の輝かしいオーラをわざと弱く見せることで僕にもっと強くなれと、道を示してくれたんでしょう!」


「ば、ばかな!」


 訓練場に集まったクラスメイトたちが声をあげ始めた。


「そうだったの!? オリヴァーくん!」


「オリヴァーくんっていつもみんなの面倒見がよくて、もしかして平民だからってクラスメイトに悲しませないようにしていたのか?」


「そもそもスキル0がオリヴァーくんのような人に勝てるのがおかしい! オリヴァーくんはわざと負けてあげたのか!」


「なんだ……貴族だからって嫌みを言うやつだと思っていたら、実はクラスメイトたちをしっかり考えてくれる良いやつだったのか」


「私……貴族って大嫌いだったのに…………まさか私たちをそう思ってくれているなんて……相手を突き飛ばして勝ったから喜んでいた自分が恥ずかしいわ!」


 声はどんどん広がり、オリヴァーコールまで始まった。


 平民組からは大きな拍手が起きて、オリヴァーくんを称える声が訓練場に響き渡った。


 当のオリヴァーくんは僕に見抜かれてしまって、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに悔しがっていた。


「ともあれ、今回のルールはルールだ。次の昇進枠に貴族組は入れないからな。ルールはルールだ!」


 フェン先生がそう呟くと訓練場を後にした。


 どうしてだろう……フェン先生がずっと笑い堪えているように見えるのは…………いや、オリヴァーくんの気持ちを汲み取った先生も、彼の友情に涙しそうになって恥ずかしくなったに違いない。


 足早に去る先生を見送って、僕達は教室に戻っていた。
















「なんでだよ……ただ……オーラが使いこなせなくて途中で切れただけなのに…………」


 オリヴァーが本当・・の事を言える日は訪れない。

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